ザ・ローリング・ストーンズ(The Rolling Stones)が、18年ぶりとなる新作スタジオ・アルバム『Hackney Diamonds』の発売を記念して彼らの名曲を振り返る記事を連続して掲載。
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当時英国の若手R&Bバンドだったザ・ローリング・ストーンズのセカンド・アルバム『The Rolling Stones No.2』は、ミック・ジャガーらバンド・メンバーにとって特別な1枚である。というのもアルバムの一部がかの有名なチェス・スタジオでレコーディングされたからだ。
シカゴ・ブルース発祥の地とされる同スタジオは、マディ・ウォーターズやチャック・ベリーなど バンドメンバーにとってのヒーローたちが、彼らに音楽を始めるきっかけを与えた多くの作品をレコーディングした場所だった。
ストーンズの夢の実現
ベーシストのビル・ワイマンは、荷物を運ぶのを手伝いにマディ・ウォーターズが出てきたときの、メンバーたちの驚きの表情を今でも覚えているという。また、1964年6月にチェスでのレコーディングが始まったとき弱冠20歳だった彼らのプロデューサー、アンドリュー・ルーグ・オールダムは次のように述べている。
「チェスでは特にセンセーショナルなことは起こらなかったが、音楽だけは別だった。あの2日間で、ストーンズはついに真のブルース・アーティストになったんだ」
『The Rolling Stones No.2』は9曲のカヴァー・ヴァージョンと3曲のオリジナル・ナンバーで構成されている。3曲のオリジナル・ナンバーをバンドのヴォーカリストであるミック・ジャガーと共作し、エレクトリック・ギターとアコースティック・ギターでレコーディングに参加したキース・リチャーズは、こう話している。
「(彼らは)死んじまって天国にいるのかと思っていたよ。彼らはブルースの世界のスターなのにとても紳士的で、俺たちのやっていることにとても興味を持ってくれたんだ……”シングルを2、3枚ヒットさせた程度で自惚れた英国人連中だと思われないか”なんて考えてしまったけれども、とんでもない。マディ・ウォーターズやボビー・ウーマックと一緒に話す時間もあったんだけど、なんと彼らは俺たちに助言をしてくれたんだ。”英国のガキが俺を食い物にするつもりか”なんて風に思われないかって不安だったし、実際あり得る話だろう。だけど彼らは俺たちのやり方や狙いに興味を示してくれたのさ」
ブルース界のヒーローへのオマージュ
1948年に初めてレコーディングされたマディ・ウォーターズの「I Can’t Be Satisfied」を筆頭に、ストーンズの面々がこのときレコーディングしたブルース・ナンバーのカヴァー・ヴァージョンはオリジネーターたちへのオマージュだったわけだが、チェスのミュージシャンたちはUKの若手グループにカヴァーされることで自分たちに楽曲印税が入ることを喜んでいた。
ストーンズが取り上げた楽曲のひとつに、ニューオリンズの大御所アラン・トゥーサン作の「Pain In My Heart」(アーマ・トーマスによるオリジナル・ヴァージョンは「Ruler Of My Heart」というタイトルだった) がある。2011年に筆者がトゥーサンから話を聞いた際、彼はストーンズが自分の書いた曲をカヴァーしたことについて笑いながらこう語ってくれた。
「ローリング・ストーンズが俺の曲をレコーディングしてくれたときは本当に嬉しかったよ。あの連中なら俺の曲をしこたま売ってくれると思ったからね」
『The Rolling Stones No.2』に収録されたカヴァー曲のラインナップは強力だった。ジェリー・リーバー作の「Down Home Girl」は、ブルージーなハーモニカの名演とブライアン・ジョーンズの奏でるパワフルなギターが印象的なトラック。
ジェリー・ラゴヴォイ作の「Time Is On My Side」はザ・ローリング・ストーンズの曲というイメージが強いが、実はアーマ・トーマスとジャズ・トロンボーン奏者のカイ・ウィンディングによる楽曲のカヴァー・ヴァージョンである。
その他、ソロモン・バーク作でフロアが盛り上がること必至の1曲「Everybody Needs Somebody To Love」は5分のロング・ヴァージョンで収録されている。また、「Under The Boardwalk (なぎさのボードウォーク)」の落ち着いた佇まいとドン・レイ作の「Down The Road Apiece」の躍動感は、並んで配されることで見事なコントラストになっている。
さらに、ミック・ジャガーとキーズ・リチャーズによる 「What A Shame」「Grown Up Wrong」「Off The Hook」の3曲が収録されているが、いずれもふたりのソングライティングの技量が高い将来性を秘めていたことを感じさせる仕上がりだ。
ヒット・チャートの頂点へ
『The Rolling Stones No.2』は、英国で1965年1月15日にデッカ・レコードからリリースされ、2週間後にはザ ・ビートルズを抜いて全英アルバム・チャートで1位となり、以降9週間に亘ってその座を維持した。
収録曲の中には、アメリカ限定のアルバム『12 x 5』で既に日の目を見ていたもの (「Grown Up Wrong」「Under The Boardwalk」「Susie Q」、そして「Time Is On My Side」) もあった。そのうち『12 x 5』で聴ける「Time Is On My Side」は、ストーンズの創設メンバーであるイアン・スチュワートがイントロのオルガンを弾いている初期ヴァージョンだ。
上述の2作 (『The Rolling Stones No.2』と『12 x 5』) のジャケットには、新進気鋭の売れっ子写真家だったデイヴィッド・ベイリーが同じフォト・セッションで撮影した写真が使われている。ベイリーは後にこう回想している。
「ミックのことは彼がストーンズに入る前から知っていた。そのころ俺の恋人の妹のクリッシー・シュリンプトンと付き合っていて、俺にとっては普通の知り合いだった」
ベイリーが若いメンバーたちの姿を捉えたムードたっぷりの写真は、それだけでアイコニックな芸術作品として支持されるようになった。
『The Rolling Stones No.2』からは、次のふたつのことがはっきりと感じられる。ひとつは初期のストーンズがジャンルに縛られない柔軟性をもつグループだったということ。もうひとつは、シカゴ・ブルースのスターたちに憧れるこの若者たちが、後にブルースとロックの歴史に独自の地位を築くであろうことだ。
Written By Martin Chilton