「無」ではなく「熟」を

 例えば、紅という字は辞書で「糸」の部首に分類され、鉄という字は「金」の部首に属する。では、無という字はどうだろう。実に意外なことに…と言うほどでもないが「火」部に分類される▲「無」の下の四つの点を「連火(れんが)」といい、火が横に連なるさまを表す。全てを奪い去る火災の跡を思い起こせば、「無」が「火」部に属するのもうなずける▲悲しいかな、「火」が「無」をもたらす連火の災いが続いている。奪われるのは家財の一切合切とは限らない▲10月、佐世保市のアパート火災で65歳の男性が、島原市では民家火災で54歳の女性が命を落とした。11月も五島市で住家の焼け跡から70歳の男性の亡きがらが見つかり、諫早市では87歳、83歳のご夫妻が…。書いていて胸が詰まる▲住宅火災で亡くなる人の7割は65歳以上の高齢者という。全てではないが、高齢の方は物に火が燃え移りやすいストーブを使うことが多い。慣れ親しんだ暖房器具を長く使えば劣化も進む。高齢の人だけの世帯、1人暮らしが増え、手助けがない…▲筆者もその一人だが、身近にそうした人がいれば、とても人ごととは思えない。安全な暖房器具の勧め、火災警報器の更新と、やれることならばいろいろある。同じ連火でも、必要なのは「無」を遠ざける熟慮の「熟」に違いない。(徹)

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