【大切な馬の健康管理】馬の予防接種について

人が毎年インフルエンザなどの予防接種をおこなうように、馬も予防接種をおこないます。

日本には馬の健康手帳があります。正式には「馬の検査、注射、薬浴、投薬証明手帳」といいます。手帳には、予防接種の履歴や検査履歴、移動履歴などの防疫上重要な情報や、個体識別に必要な情報も記載されています。
予防接種は義務ではないものの、JRAは入厩時に予防接種の証明を求めており、また競技会へ出場する乗馬も出場前に予防接種をおこなうことを求められています。

今回は、馬の健康維持に欠かせない予防接種についてまとめました。

馬インフルエンザ

馬インフルエンザは、A型インフルエンザウィルスによる非常に強い感染性をもつ感染症です。咳やクシャミなどにより空気感染します。感染すると、40℃前後の発熱や沈うつ、食欲低下、強い咳、鼻水など急性の呼吸器症状が出ます。症状が悪化すると、肺炎を併発することもあります。
流行には季節性がないので、1年中注意が必要です。

日本では1971年12月に大流行し、約 7,000 頭の馬が感染したため約 2ヵ月間、競馬の開催が中止になりました。1991 年には香港でも馬インフルエンザが流行し、1ヵ月間競馬が中止になりました。
日本では、2007年に再び馬インフルエンザが流行しました。1971年に比べ、国内での馬の移動が増えていたため感染は全国に広がり、競馬だけでなく馬術競技も開催中止に追い込まれました。全国の牧場や乗馬クラブにおいては、利用時の消毒が必須となりました。

ワクチンは初年度は、2ヵ月未満の間隔で2回接種し、以降半年に1度追加接種をすることが推奨されています。日本での追加接種は春と秋におこなうことを推奨しています。

日本脳炎

日本脳炎は、日本脳炎ウイルスの感染によって起こる、人および家畜に共通の急性伝染病です。吸血昆虫(コガタアカイエカ)によって媒介されることで、ウイルスが伝播し流行します。
自然界では豚の体内でウイルスが増幅され、豚の血液を吸った蚊を通して馬や人に伝播されるといわれています。

日本脳炎に感染すると、脳炎を引き起こします。重症例では 40℃前後の高熱、頭部を下げた状態で日光を避けて壁に寄りかかる沈うつ状態(麻痺型)、前がきや旋回運動を繰り返す狂そう状態(興奮型)などを示し、斃死する場合もあります。
軽症例では数日間の発熱程度で回復しますが、まれに後躯の麻痺が残ることがあります。

日本脳炎の予防には、ワクチン接種が有効です。
蚊の活動時期よりも前に接種すれば、ほぼ完全に発症を防ぐことができるので、5〜6月に2ヵ月未満の間隔で2回接種することが望ましいです。

破傷風

破傷風は、土壌中に生息している破傷風菌による細菌感染症です。傷口から侵入した菌が体内で増殖し、毒素を産生します。毒素が運動中枢神経を侵すことにより、筋肉の硬直や痙攣などの神経症状を引き起こします。

破傷風に感染すると約 4~5日の潜伏期間の後、まず症状が眼に現れ、瞬膜の痙攣や縮瞳を起こします。
続いて咬筋の痙攣や舌の運動障害が起こり、咀嚼困難となります。
さらに経過が進むと心拍数や呼吸数の増加、全身の筋肉に痙攣や硬直が起こり、全身の発汗が著しくなります。外的刺激に鋭敏になり、最終的には呼吸困難で死亡します。

馬は破傷風に対して最も感受性が高い動物として有名ですが、予防接種を受けることで発症を防ぐことができます。破傷風予防接種の目的は、伝染を防止するためではなく、発症を防ぐためにおこないます。

破傷風接種初年度は 2ヵ月未満の間隔で 2回接種し、以降は年1回の補強接種します。
翌年以降は、毎年5月に3種混合ワクチン(馬インフルエンザ、日本脳炎、破傷風)を接種し、6月に日本脳炎、11月に馬インフルエンザワクチンを接種します。
競技会によっては接種時期が詳細に定められており、参加する馬はそれを満たさなければいけません。

その他の予防接種

上記の予防接種以外に、以下の予防接種をおこなう場合があります。

①ゲタウイルス感染症
馬ゲタウイルス病は、ゲタウイルス感染によって発症します。主な症状は発熱、発疹、浮腫です。ブタが宿主と考えられており、馬への感染は蚊によって媒介されます。日本では初夏から晩秋にかけて感染しますが、ワクチンの普及によって発症数は非常に少なくなりました。

②馬鼻肺炎ウイルス感染症
馬鼻肺炎ウィルス感染症は、馬ヘルペスウイルス1型および4型の感染によって起こります。主な症候は発熱、鼻汁漏出、下顎リンパ節の腫大、歩様異常、起立不能などが見られます。しかしこの感染症で一番問題になっているのは、妊娠中の牝馬が感染すると流産してしまうことです。ワクチン接種により、発症は軽減されます。

③馬ロタウイルス感染症
馬ロタウイルス感染症の主な症状は、子馬の急性下痢症です。 馬産地では春から夏にかけて、毎年こ の病気が流行しています。
予防には、妊娠馬にワクチンを接種する方法があります。 出産予定日の2ヵ月前と1ヵ月前の計2回接種することで、初乳を介して子馬に免疫抗体を移行させることができます。万が一発症しても、症状は大幅に軽減されます。

まとめ

いかがでしたでしょうか?

今回は、馬の健康管理のために必要な予防接種についてまとめました。
予防接種は感染症予防だけでなく、感染しても症状が軽くて済むように、また周囲の馬への感染を抑えることを目的としておこなわれています。
我々人間も新型コロナウィルス感染症に対し、予防接種をおこなうことでほぼ全世界で集団免疫を獲得し、ウィルスの恐怖から逃れることができました。

全ての馬が感染症の脅威から逃れることができるように、積極的に予防接種をおこなって欲しいですね。

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