激しい寒暖差で発症——「目の動脈硬化」で朝起きたら失明のリスクも!

(写真:アフロイメージマート)

視界がぼやける、かすむ……よくあると放置しがちな目のトラブル。ある日突然、目覚めたら目が見えないなんてことになる前にーー。

都心では、100年ぶりに11月の最高気温を更新し、各地で異例の暑さが続いていたが、師走の足音が近づいたら、急激な冷え込みが訪れた。

「今年のように寒暖差が激しい冬は、例年以上に注意すべき目の病いがあります。処置が遅れると“失明”につながることもあるので、十分な注意が必要です」

そう警鐘を鳴らすのは、医学博士で眼科医の平松類さん。

寒暖差が激しい冬に注意すべき目の病いと予防法について聞いた。

「脳梗塞や心筋梗塞が冬に起きやすいことからもわかるように、寒暖差が大きいと、血圧の急激な変動や血管の収縮などにより、血管の詰まりが生じやすくなります。

目の病いには“目の心筋梗塞”と呼ばれる“網膜動脈閉塞症”があり、目の網膜動脈に“動脈硬化”が起きることで、網膜に血液を送っている動脈が詰まったり血栓ができたりして、目に酸素が行き渡らなくなります」

そうなると、突然、片方の目が見えなくなるという。

「発症から6〜8時間以内に血栓を溶かす点滴を行わないと失明することもあります。しかし、この病いは夜の就寝前に発症しやすいため、《疲れ目だから眠ったら治るだろう》などと自己判断して、床についてしまう人も少なくありません。朝になったら失明……ということになりかねません」

国内での網膜動脈閉塞症の発症率は、10万人あたり5.7人と少ないが、その分、認知されておらず、手遅れになりがちだという。

どんな人がなりやすいのか。

「いわゆる“メタボ気味”の人や、痩せていても、高血圧や糖尿病、高脂血症といった生活習慣病がある人です」

ではどういったことに気をつければいいのだろうか。

■「目の動脈硬化」は寒暖差をやわらげ、暴飲暴食を減らすことで病を防ぐ

「とくに冬場の入浴時に注意が必要です。脱衣所や浴室が冷えているのに、急に熱い湯船につかることで血管閉塞が起きやすくなります。脱衣所にも温風機を置くなどして入浴前に暖めておくこと。また、浴室は、湯船に湯をためるときにシャワーを使うと、浴室に湯気が満たされて暖まります」

暴飲暴食が引き金になることも。

「年末年始は飲酒量が増えたり、外食が多くなったりして塩分過多になりがち。血管が詰まる要因になります。適度な運動を心がけ、血圧の管理をする。飲みすぎ、辛いものの食べすぎを控える、などを心がけましょう」

突然、片方の目が見えなくなった場合は、《疲れ目だろう》と放置せず、夜間でも救急対応してくれる眼科を受診しよう。

また、網膜動脈閉塞症と同様のメカニズムで起きる疾患に“網膜静脈閉塞症”がある。

「網膜静脈閉塞症は、酸素を運ぶ“動脈”ではなく“静脈”が塞がれます。動脈閉塞症のように突然目が見えなくなることはありませんが、飛蚊症のように視界に黒い点がたくさん現れたり、視界がぼやけて視力低下が起きたりします」

このような症状が出た場合もすみやかに眼科を受診し、網膜動脈閉塞症と同じ寒暖差対策、暴飲暴食対策をとろう。

■緑内障は目のまわりを温めて血行促進

失明原因の第1位となっている“緑内障”は、そもそもは強い近視がある人、40歳以上で遺伝的な要因がある人、高脂血症、高血圧、糖尿病がある人がなりやすい。そのうえで、寒暖差の大きさも一因となる。

「緑内障は、眼圧が上がって視神経がダメージを受けることで失明に至る病いです。はっきりした原因は解明されていませんが、冬場は眼圧が上がりやすく、とくに寒暖差が大きいと眼圧の変化も大きくなりがちに。眼圧の急激な上昇を防ぐには、日ごろから体を冷やさないようにする工夫も必要です」

日常的に、冷えないように体を温め、ウオーキングなどの適度な運動を心がける、ホットタオルやホットアイマスクで目の周りを温めるなど、血流を促進するようにしよう。

■湿度40〜60%キープが“ドライアイ”“アレルギー性結膜炎”予防のカギ

“ドライアイ”も、寒暖差の激しい季節の変わり目や、空気の乾燥などで悪化しやすい。

涙の分泌量が減り、角膜などを傷つけることも。

「とくにエアコンの温風で部屋を暖めている場合、空気が乾燥しやすくなります。乾燥しにくい石油ストーブやオイルヒーターなどを使うか、加湿器を使用して乾燥を防ぎましょう。湿度は常に40〜60%くらいを保つのがベスト」

ポイントとなるのは、“湿度計”の設置場所だ。

「床に置くタイプの暖房器具には、湿度計が付属しているものもありますが、水分は下にたまりやすいため、床に近い場所で湿度が高くても、目の位置では低いということになりがちです。湿度計は、必ず目の高さに設置しましょう」

また、パソコンやスマホを長時間見ていると、瞬きが減ってドライアイになりやすい。空気が乾燥する冬ならなおさらだ。1時間に1回は、目を休める工夫をしよう。

ドライアイに付随して起こりやすいのが“アレルギー性結膜炎”。

「アレルギー性結膜炎は、寒暖差によって生じる疾患ではありませんが、ドライアイによってアレルギーが生じやすくなります。通常は目にダストや花粉が入っても涙が流してくれますが、ドライアイの方は涙が出にくいので、異物が流れていかないためです」

ひどくなると、目のかゆみや充血、目がゴロゴロするといった異物感のほかに、目やにや涙が増加。かゆくてこすってしまい、角膜を傷つけ視力が低下することも。

■40歳を超えたら、年に一度は眼底検査を

急な寒暖差にも負けない健康な目を保つためには、日ごろから定期検査を受けておく必要がある。

「40歳以上の方は、年に一度、眼底カメラによる検診を受けるようにしましょう。眼底カメラは、網膜や視神経、血管の状態なども診ることができるので、網膜動脈閉塞症や緑内障などのいわゆる“目の生活習慣病”も重篤になる前に処置できます」

目の生活習慣病を予防して、寒暖差にも負けない健康な目を維持しよう!

© 株式会社光文社