<レスリング>【2023年全国中学選抜U15選手権・特集】女子で東京都知事杯を初受賞、稀に見る逸材は、どこまで強くなるか…女子46kg級・勝目結羽(NEXUS YOKOSUKA)

2023年東京都知事杯全国中学選抜U15選手権の最優秀選手に贈られる東京都知事杯は、3年連続優勝を達成した女子46kg級の勝目結羽(NEXUS YOKOSUKA)が受賞(関連記事)。6月の沼尻直杯全国中学生選手権でも2連覇を達成しており(1年生のときはコロナ禍で中止)、全国5大会を制覇した。

▲松浪健四郎・東京都協会会長から東京都知事杯の表彰を受ける勝目結羽=東京都協会提供

勝目は「素直にうれしいですけど、決勝で2点を取られたので、そこは悔しいです」と、うれしさの中にも、反省の言葉も出てきた。痛恨の2失点は、大矢華乃(YJWC)との第2ピリオド中盤、タックルを回り込まれて取られた2点。「(単調に)突っ込んでしまうくせが、最後に出てしまった」そうで、無失点での優勝が目標だっただけに、悔やまれる失点。

セコンドについていた父・勝目力也監督(山梨学院大~ALSOK~自衛隊OB)は、バックへ回られながらも大矢の腕をしっかりとつかんでいて「完全なゴービハインド(バックへ回る)ではない」としてチャレンジを出したが、闘っている選手の感触ではゴービハインドだったのだろう。本人が取り下げた。

大矢とは6月の沼尻直杯全国中学生選手権の準決勝で対戦し、このときも5-0のラスト20秒に回り込まれ、続いてローリングで回されて1点差まで追い上げられた際どい勝利だった。大矢の粘りが、勝目の集中力を途切れさせるほど強烈なのかもしれないが、4月のジュニアクイーンズカップでは6-0で勝っている相手だけに、やはり反省材料。この経験を、どう生かしていくか。

▲微妙だった2失点だが、本人はこの体勢になったことを反省。セコンドが勝目力也監督

全国5大会での総得失点は171-6

3連覇については「……。あまり考えていませんでした」と、特別な意識はなかったもよう。コロナさえなければ3年連続二冠の可能性もあったことを言われても、笑顔を浮かべるだけで、「負けたくない、と思ってやってきただけです」と、記録へのこだわりは全くなし。

しかし、記録は選手の強さを表し、強さを比べる材料となる。勝目は、全国5大会で通算20試合を勝ち抜き、フォール勝ち3試合、テクニカルスペリオリティ勝ち14試合、ポイント勝ち3試合。総得失点は171-6(失点は大矢戦のみ)。1試合平均の試合時間は1分33秒で、1分以内に決着した試合が11試合。

それ以外の大会(ジュニアクイーンズカップ、全日本女子オープン選手権、U15アジア選手権、クリッパン女子国際大会U17)でも26戦全勝。ここで失ったポイントは、昨年のU15アジア選手権のモンゴル選手相手の2失点と、今年の全日本女子オープン選手権決勝の片岡優(千葉・チームリバーサル=今年のU17アジア選手権優勝)戦の4失点。国内外で12失点が3年間の合計だ。

▲今年2月には「クリッパン女子国際大会」U17-43kg級に出場して優勝=チーム提供

来年2月に「クリッパン女子国際大会」(スウェーデン)の出場が見込まれるので、まだ中学での全試合は終えていないが、中学3年間で無敗というのは、須﨑優衣(JOCエリートアカデミー=現キッツ)のみがマークしている記録(注=吉田沙保里の時代は中学生も全日本選手権へ出場でき、そこで負けている。全国中学生女子選手権は3連覇だった)。

伊藤海(京都・網野少年教室=現早大)は2年生のときに櫻井つぐみ(高知・高知クラブ=現育英大)に1敗を喫している(中学唯一の黒星)。“新・霊長類最強女子”の呼び声もある藤波朱理(三重・いなべクラブ=現日体大)は、1・2年生のときに伊藤海に2試合、櫻井つぐみに2試合、元木咲良(埼玉・埼玉栄中=現育英大)に1試合、それぞれ負けていて、そこからの連勝記録スタートだった。キッズ・レスリングが盛んになってレベルの上がった昨今、下級生のときから勝ち続けるのは至難の業。

勝目は偉大な先人をしのぎ、須﨑に匹敵する中学時代を送ったわけで、これからどこまで強くなるか楽しみ。中学時代無敗の要因は「毎日休まずに練習し、他のチームより練習量が多かったことだと思います」と答え、練習量には絶対の自信を持っている。

ひざのじん帯断裂のアクシデントを乗り越える

海外でも今年2月の「クリッパン女子国際大会」U17を含めて無敗。これには「父から教えてもらっているレスリングが、世界で通用するものだからだと思います」と、ハイレベルの技術指導を要因に挙げた。ただ、来年のU17世界選手権(アルゼンチン)については、「出られたら、うれしいです」「勝てるように練習をがんばります」と控えめな言葉が続き、謙虚な一面を見せた。

本人の口からは一切出てこなかったが、10月の全日本女子オープン選手権の前にひざのじん帯を断裂し、この大会へ向けて思うような練習ができず、動きにも影響していたのだという。力也監督が明かした。

▲右ひざを負傷して闘っていた今大会。それでも勝つ強さを見せた

その状態で全日本女子オープン選手権とこの大会を連破したのだから、やはり並みの選手ではない。棄権させることを考えないこともなかったそうだが、「本人が『どうしても出る』と。悪化させたら完治まで長引くと伝えても、『けがをしていてもできることをやれば、優勝できる』との答えだったので、その言葉にかけました」と言う。

卒業後は、親元を離れて強豪チームへの進学がほぼ決まっており、「もう1レベル、2レベル上げてもらって、高校のタイトルをしっかり取ってほしいですね」と期待した。稀に見る成績を残した逸材は、2024年、高校レスリング界に挑み、世界へ向けて本格的に飛び立つ。

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