非ビックリマン世代がアニメ『ビックリメン』の裏側に迫ってみたら、ビックリマンの歴史や令和のコンテンツ戦略など多くの学びを得ることができた

「ビックリマン」といえば、ウエハースのお菓子とともにおまけシールが封入されていて、そのシールにはアイコニックな二頭身のキャラクターが描かれている。そんな印象が強くありました。

しかし令和の今、あの見慣れたビックリマンキャラクターたちが、現代風の美少年/イケメンになってしまったのです!

食品メーカーのロッテが1977年に発売を開始したチョコレート菓子「ビックリマン」。封入されたトレーディング要素のあるおまけシールが話題となり、1980年代後半から1990年代初頭にかけて大ブーム。最盛期には年間4億個売れて1人3個までしか買えないという伝説を生むなど、社会現象にまで発展したそう。

とはいえ、その人気は永遠に続くものではなく、徐々に売上が低迷。なんと存続の危機にまで瀕していたというのです。

そんな状況を打破したのが、『ONE PIECE』や『鬼滅の刃』『進撃の巨人』といった人気作品とのコラボレーション。この施策が功を奏し、徐々に若い世代への知名度が向上しています。そして2023年、新たなビックリマンのコンテンツが打ち出されました。

それは、2023年10月から放送中のビックリマンを題材にした完全新作アニメ『ビックリメン』です。

現代のコンビニを舞台に、ビックリマンをかけた争いが勃発。主人公・ヤマトは争いに巻き込まれていく、というストーリー。ビックリマンでも人気の「悪魔VS天使」シリーズをベースにしたキャラクターたちが、“現代風のイケメン”として登場。

ビックリマンをあまり知らない世代やアニメ好きの女子たちからも注目を集めました。

これまでにもビックリマンのアニメ作品はあったものの、ここまで様相が違う作品は初めて。なぜ令和の今、ビックリマンのアニメをつくろうと思ったのか。“現代を舞台”に、キャラクターたちを“イケメン化”したTVアニメが誕生したのか。

その真相に迫るべく、ロッテの「ビックリマン」責任者・本原正明さんと、アニメ制作会社レスプリのアニメプロデューサー・清水香梨子さんにインタビューを決行。

存続の危機に瀕していたところからTVアニメ『ビックリメン』制作に至るまでのビックリマンの変遷、アニメ制作の舞台裏など、ビックリマン世代ではない筆者が気になることを余すことなく質問。ビックリマンの歴史や令和のコンテンツ戦略など多くの学びを得ることができました。

1977年から続くビックリマンを、もう一度「今の時代のブランド」へ

――はじめに、「ビックリマン」責任者・本原さんに「ビックリマン」の近年の動向をお聞きしたいです。

本原正明(以下、本原):
ビックリマンシールは1977年に発売され、1985年に「悪魔VS天使」というシリーズで人気に火が付きました。しかし時が経つにつれ、購買層は当時熱狂していた30〜40代男性が全体の90%を占め、10〜20代は数%いるかいないかという状況に陥っていました。

一時期は社内でも「ビックリマンはもう終わりかな」という話も出ていたほどだったんですよ。

――え!ビックリマン存続の危機があったとは驚きです。

本原:
そんな中、2013年ごろに僕がビックリマンの商品担当に就任することになったのですが、その時にビックリマンブランドの課題に気付いたんです。

それは「ビックリマンを知らない世代の人たちが入ってくるには難しすぎるコンテンツである」ということ。そもそも僕より前の商品担当者は全員がビックリマン世代だったため、「ビックリマンとは何か」という理解がもともと深く、これまでの歴史を重んじる意識も強かったんです。

けれど、僕自身はビックリマンのド真ん中世代ではなかったので、商品担当になってからはそれこそ学生時代の歴史や社会の授業を思い返すように1から勉強しなければならなくて。でもなかなかキャラクターを覚えることができずにかなり苦戦したんですよね。

その時、「担当者の僕がこれだけ苦労するなら、普通の人たちはより難しいと感じるはずだ」と思いました。

TVアニメ『ビックリメン』第1話より ビックリマンオタクの友人・タカやんとビックリマンのすごさを知らないヤマト

――1977年から始まった「どっきりシール」から1985年にビックリマンシールが確立するまでにも歴史があるのに加え、本原さんが商品担当になる2013年までにも10を超えるビックリマンシールのシリーズが誕生しています。その歴史を辿るのは、たしかにハードルが高い……。

本原:
それに加えて、当時周囲の人たちに「ビックリマンってどう思う?」と聞いてみると、「お父さんが買っているイメージ」とか「古臭い」といった答えばかりで、若い世代はビックリマンを自分たちの世代のブランドだとすら思っていなかったんですよ。

だったらまずは、ビックリマンを知らない人たちにも興味を持ってもらうこと。そして、目先の売上よりも数年先を考えた未来への種まきを行なうことが重要だと考えました。

その上で、じゃあどうしようかと考えた時に、「趣味と絡めながら」であれば、ビックリマンのことを全く知らない世代でも興味を持ってもらいやすいのでは?とひらめいたんです。

――ビックリマンと趣味を絡めるとは?

本原:
実際に僕自身がビックリマンの勉強をしていた際にも、趣味のサッカーに例えたことで少しずつキャラを覚えられるようになったので、実体験からも「これならいけるぞ」と。

そうした経緯から、まずはプロ野球選手やアニメ、アイドル、芸人など、さまざまなコンテンツとのコラボに挑戦することにしたんです。

――多種多様なコラボにはそういった経緯があったんですね。最近は『ONE PIECE』や『鬼滅の刃』、『呪術廻戦』など人気アニメとのコラボに加え、VTuberの「にじさんじ」とのコラボも話題になりましたよね。

本原:
ええ。そうした人気作品とのコラボを通じて若い人たちとの接点ができたことにより、現在は10〜20代の購買層も35%程度まで増えました。大学生の認知度も大きく高まり、10年くらい前は100人中2〜3人程度だったのが今は90人程度に。

売上も大きく伸びてきて、ここにきて改めてビックリマンがロッテの代表ブランドに返り咲いてきています。

そしてさらに、新しい層にまで認知を拡大していくことを狙い、ビックリマンというブランドを「今の時代を生きるものにしたい」という思いからアニメ化へ挑戦するに至りました。

――『ビックリメン』で新しい層への認知拡大を目指したということですが、具体的にどのようなことを意識したのでしょうか。

本原:
私からは二頭身デフォルメの今までのビックリマンイラストではなく、新しいイラストタッチでのアニメを希望しました。

そういう希望をしたところ、「思い切ってキャラクターの頭身を上げて、現代を舞台にしたオリジナルストーリーにしましょう」と制作陣から提案がありました。

当然、「今までビックリマンを応援してくれていたコア世代の方からはテイストの違いから違和感を持たれてしまったり、批判的な意見が来てしまったりするかもしれない……」というリスクもありました。でも「それでもいいから振り切ろう」「新しいファン層に対してこれからのビックリマンを見せていこう!」と、かなり割り切って一緒に制作陣のみなさんと進めていきました。

――初めてアニメPVを観た時、『ビックリメン』のキャラクターデザインやキャラクター性は現在のアニメファンにも好まれそうだと思っていたのですが、しっかり戦略に乗せられていたというわけですね……!

若い世代とコア世代をつなぐ「これが、令和のビックリマン」

――『ビックリメン』製作段階で、ロッテ側が求めたことはありますか?

本原:
ロッテ側としては「当時のビックリマンシールやシール交換の価値を表現してほしい」という思いはお伝えしました。

ビックリマンの「悪魔VS天使」は当時社会現象になっていて、購入制限がかけられたり年間4億個も売れたりと、今の時代には考えられないほどの熱狂を生んでいたんですよ。あの頃の勢いや価値を、ストーリーを通じて今の世代の方々にも知っていただきたいなと。

TVアニメ『ビックリメン』第1話より ビックリマンを求めコンビニに押し寄せる人々

TVアニメ『ビックリメン』第4話より 熱狂的なビックリマンファン

――『ビックリメン』1話で描かれた、ビックリマンシールを求めた人たちが溢れかえるコンビニの様子は、あながち嘘ではなかったわけですね。

本原:
アニメなので多少の誇張表現はあるものの、当時の空気感を汲み取っていただいたと思います。

それ以外は、ほとんどクリエイターの皆さんにお任せしていました。僕はアニメのプロではありませんから、あまり入り込みすぎるのも良くないと思ってのことです。

――基本的にはお任せするスタイルで進められていったのですね。

本原:
はい。ただ、僕自身もアフレコ現場を含め、制作現場には行かせていただいていました。アフレコ現場は意外とスパルタな感じというか、「もっと気持ちを込めて!」みたいなやり取りがあったりして。

そんな中、第4話に元プロ野球選手でビックリマンPR大使の里崎智也さんが声優で参加されているのですが、声優初挑戦だったのにあまりにもうまかったです。演出家(音響監督)から追加オーダーがあったぐらいです(笑)。そういうアニメの裏側を現場で見ることができて楽しかったですね。

――実際に完成した『ビックリメン』を観ていかがですか?

本原:
ビックリマンといえば二頭身のデフォルメキャラのイメージが強かったですが、『ビックリメン』ではキャラが八頭身になったことで、新鮮さや今時感が出ていて、とても良いですよね。ジャックが想像以上にカッコいいなと感じています(笑)。

TVアニメ『ビックリメン』第2話より ジャック

物語もおもしろくて。うちの4歳と7歳の子どもも楽しんで観ていますよ。子どもたちが分かるということは、若い世代のビックリマンに詳しくない人たちが観ても理解しやすいストーリーなんだろうなと。

でも、子どもたちには「『ビックリメン』ちょうだい!」って言われるんですよ(笑)。「いやいや“ビックリマン”なんだよ」なんてやり取りもあったりして。今後若い人たちの主流は『ビックリメン』になっていくのかもしれないですね。

――ビックリマン世代ではない子どもたちに届いている一方で、ビックリマンがもともと好きだった世代の方たちの反応はいかがでしょう?

本原:
キャラクターデザインなどをかなりアレンジしているので「もしかしたら批判がくるかもしれない」と思っていたのですが、意外とそんなこともありませんでしたね(笑)。

1990年頭くらいに『スーパービックリマン』という八頭身のメカロボットデザインのシールやアニメを展開していたことがあったのですが、「それを彷彿とさせる」というような声が聞こえてきていて、意外と通じるところがあったのかなと。キャラクター原案の武井先生が描いてる作品のファン層にビックリマンのコアな世代が多く、そこもマッチして受け入れていただいている印象です。

TVアニメ『ビックリメン』第1話より ヘッドロココVS魯神フッド

――『ビックリメン』が今後、ビックリマンにも影響を与えていく可能性もありそうですね。

本原:
『ビックリメン』のキャッチコピーに「これが、令和のビックリマン」と付けられているように、『ビックリメン』は新しい世代がビックリマンを知る入り口になっていることは間違いないと思います。

なので、アニメをきっかけにビックリマンが若い人たちにもさらに親しまれたら嬉しいですね。

それこそアニメで興味を持った人たちには、ネットで検索していただいて「ビックリマンってこんなに人気があったの!?」とかネットオークションを覗いていただいて「めっちゃ高値じゃん!」とか、『ビックリメン』でも触れられているビックリマンの価値やすごさを知ってもらいたい。

そして、そんなビックリマンが45年経った今も続いていることに気づいていただけたらと思っています。

TVアニメ『ビックリメン』キービジュアル

また、今後は『ビックリメン』をきっかけにビックリマンを知ってくれたり好きになってくれたりした方へ向けた施策などもいろいろと企画しているので、ぜひ期待していただきたいです。

――『ビックリメン』で新しい世代へ間口が広がった先、ビックリマンが目指すこととは?

本原:
歴史を超えて今もなお「今の時代のブランドだよね」と思ってもらえるようになったらと思います。

約10年前にビックリマンと趣味をかけ合わせた戦略を始めた時、ビックリマンの10年後、20年後のことが見えなかったんですよね。「昔流行っていた」「古臭い」という声を聞くたびに、“今の時代を生きていないブランド”だと思いました。

だからこそ、どんな世代の人たちでも「ビックリマン知っているよ!」「だから、絶対になくならないよね」となる未来を目指し、青写真を描きながらここまでやって来ました。その想いは今でも変わりません。

今後さらにファンの裾野を広げるためにも、手法は決め切らなくていいと思っています。ロッテは食品メーカーですが、今後もコラボ、食品以外でのグッズ展開、アニメ、イベントなど、食品以外のコンテンツを打ち出し、さまざまな人たちと繋がれる接点を積極的につくっていこうと。

ビックリマンを、「自分にとって過去のコンテンツ」と思われるものではなく、「自分と同じ時代に生きている今の時代のコンテンツ」と思ってもらえるものにしていきます。

次ページ▼『ビックリメン』の「メン」は、イケメンの「メン」?

ビックリマンを愛するクリエイターたちのコダワリが詰め込まれた『ビックリメン』

――ここからはアニメプロデューサーの清水さんに、『ビックリメン』制作の裏側をお話しいただきます。ビックリマンの新作アニメをつくる計画はどのようにスタートしていったのでしょうか?

清水香梨子(以下、清水):
アニメ制作会社のシンエイ動画の林さんとロッテ・本原さん(以下、本原さん)が「ビックリマン・シンエイ動画共に周年を迎えるタイミングで何かできたらいいね」という話をされて始まったと聞いています。

そうした記念的な経緯もありつつ、当時からビックリマンに熱狂し、歴史を跨いで今なお愛し続けてくださっているファンの方たちに向けても何かサプライズをしたいという思いがあったように思います。

――実質、ビックリマンとシンエイ動画の周年記念企画という位置づけでもあったのですね。

清水:
そうだったんです。

とはいえ、今回のアニメ化は当時からのファンの方に喜んでいただくだけのものではなく、若い世代の方々にもビックリマンがいかにアツいコンテンツなのかを知ってほしいという思いが強くあって。そうした背景から、キャラクターデザインも今の人たちに好まれやすいよう、頭身を上げたデザインにするなどの試行錯誤がありました。

――「今の人たちにも好まれやすいように」とのことですが、今回監督を月見里智弘さん、シリーズ構成を綾奈ゆにこさん、キャラクター原案を武井宏之さんが担当しています。この布陣はどのように決まったのでしょう?

清水:
監督はビックリマンとほぼ同じ1978年生まれで「悪魔VS天使シール」の頃の熱狂を知りつつも若い世代の感性も分かる世代という点が大きかったですね。

また、今作ではビックリマンシールが原作としてあって、そこからどのようにたくさんの個性豊かなキャラクターを描いていくかが肝だったので、キャラクターの緻密な作り込みやキャラクター間の繊細な関係性を描くのがお上手な綾奈さんにオファーしました。

綾奈さんは今回のクリエイター陣の中ではお若い方ですが、アニメ制作に臨むにあたりビックリマンの関連書籍や有志の方が作られたYouTube動画も見てかなり勉強してきてくださって、初めてお会いした時にすでにビックリマン世代の監督と激論を交わせるほど、ビックリマンの知識を付けられていたのが印象的でした。

――ビックリマン世代の方と同等の知識を身につけてくる綾奈さん、すごい……。

清水:
そして、キャラクター原案の武井先生は少年誌で長くご活躍されてきている王道感もありながら、更に今の若い方にも刺さるスタイリッシュな絵柄でもある点が今回のイメージに合っていたんです。

先生のお名前を一番最初に出されたのは綾奈さんで、監督が「武井先生以外、考えられない」と意気投合していた様子が印象的でした。武井先生はビックリマンが大好きだったそうで、とても快くお引き受けくださって。そんなこともあり良い布陣になったと思っています。

武井宏之先生『ビックリメン』キャラクター原案イラスト ヤマト

武井宏之先生『ビックリメン』キャラクター原案イラスト・フェニックス

――適性やバランスを考慮しながら決められたんですね。『ビックリメン』の制作にあたってクリエイターにオーダーされたことなどはありましたか?

清水:
プロデューサーサイドから「絶対にこうしてほしい」というオーダーはありませんでした。ただあえて言うならば、「当時からビックリマンをずっと愛していらっしゃる方を傷付けたり失望させてしまうようなことはしたくない」というお話はしていましたね。クリエイターの皆さんももちろん同じ気持ちだったとは思います。

プロデューサーサイドと制作サイドで、『ビックリメン』をどういったアニメにしていくのか、方向性をすり合わせることはしました。当初から話していたのは「日頃頑張っている人たちに気楽に観てもらえるような作品にしたい」ということです。

当時子どもだった人たちは今、仕事があったりご家庭があったりとそれぞれに自分の人生を生きていると思うんです。どんな形でも毎日を頑張っている方が、ついクスっと笑ってしまったり、思わず感動してエモい気持ちになったり。

そんな風に、肩の力を抜いて童心に返って観てもらえるような作品を目指して『ビックリメン』の内容を徐々に詰めていきました

TVアニメ『ビックリメン』第3話より コミカルなシーンも満載

――たしかに今期アニメは落ち着いたトーンの作品が多い中で、『ビックリメン』を観ているとなんだか明るい気持ちになってしまいます。ちなみに『ビックリメン』の「メン」にはどういう意味が込められているのでしょうか……?

清水:
監督からは「“全てのキャラクターが主人公”という意味を込めて、ビックリ“マン”の複数形の“メン”にした」と聞いています。

また、デザインの方向性はさまざまながら、どのキャラもみんな、身も心も本当にイケメンですから「イケメン」のメンという解釈も正しいと考えています(笑)。

第6話の水着回は色んな方の心をガッチリ掴んだのではないでしょうか。

物語の舞台やキャラの立場、声優へのアプローチを工夫し、主人公ヤマトを限りなく視聴者の目線に

――『ビックリメン』は現代のコンビニである“エンジェルマート”を舞台にしてストーリーが展開されていきますが、これらの設定もクリエイターの方々主体で決められていったのでしょうか?

清水:
はい。実は最初に監督とプロデューサー陣で話していた時は、ビックリマンが今の時代に転生するといった設定で学園パロディにする案もあったんです。

――転生もの×学パロ、それはそれでおもしろそう……。

清水:
だけど、武井先生や綾奈さんに参加頂いたタイミングで「ビックリマンはもっと広い層を狙えるブランドなのに、学園モノにしたら小さくまとまってしまうのでは」というようなお話をいただいて。

それをきっかけに企画がかなり動き、最終的に日本人のほとんどが馴染みのあるコンビニを舞台にすることになりました。

TVアニメ『ビックリメン』第2話より コンビニの棚には大量のビックリマンが

――たしかに、年齢問わずコンビニを利用したことのない人はほとんどいないからこそ、コンビニを舞台にすることで、より幅広い世代が共感しやすくなりますね。

清水:
共感を得られるような工夫としてもう1つ例を挙げると、メインキャラクターのほとんどはコンビニに最初から出入りしている設定なのですが、主人公のヤマトだけは「運送会社でアルバイトをしている高校生」という設定なんですよ。

これには、ヤマトには視聴者の目線に立っていてほしいという思惑があったんです。

TVアニメ『ビックリメン』第1話より 運送会社でバイト中のヤマト

『ビックリメン』ではビックリマンシールのブームが過熱し、現金以上の価値を持つほどにまで人気が高まっているという設定でストーリーが進んでいくのですが、1話の時点でヤマトはビックリマンがそれほどのブームになっていることを知らなくて。

とあるきっかけで普段の配達圏内から飛び出してエンジェルマートに近付くことになり、「ビックリマンがこんなにも人気なんだ」と気付いていくことになるという、まさに今回狙っているターゲットに近しい存在に仕立てているんです。

そうした設定もクリエイター陣でかなり議論しながら詰めていきましたね。

――視聴者が置いてきぼりにならないように、という配慮をすごく感じます。一方で、メインキャラクターたちがビックリマンシールを貼って変身する仕掛けは、意外性もあり面白かったです。

清水:
実は当初の企画に変身の予定はなかったんですよ。最初に誰が言いだしたのか覚えていないのですが、武井先生が参加されることとなったことでいつのまにか自然発生的に決まったんだと思います(笑)。

もともとシールという原作がある中で、監督と綾奈さんとで数多いるキャラクターの中からどのキャラを『ビックリメン』に登場させていくかの話し合いがあり、「やっぱり若神子のストーリーはアツいよね」「ヘッドロココは絶対に出したい」といった形で変身するキャラクターがピックアップされていって。

そして、こちらからご提案した各キャラの特性をもとに、武井先生がシールのシルエット感やあらゆるネタを巧みに調和させた原案デザインをどんどん構築されていった…と記憶しています。

TVアニメ『ビックリメン』第1話より フェニックス合神シーン

――ビックリマンシールのキャラクターデザインの面影を残しつつも、『ビックリメン』ならではのオリジナリティを感じるデザインに魅力を感じました。ほかにも制作の裏話があればぜひお聞かせいただきたいです。

清水:
音響関連の話ですと、フェニックス役の斉藤(壮馬)さんやマリス役の小西(克幸)さんたち大人組の役者さんには脚本を最終話の分までまとめてお渡ししていたんです。

でも、ヤマト役の梶田(大嗣)さん、牛若役の森嶋(秀太)さん、ジャック役の橘(龍丸)さんには次のアフレコ台本しか渡さないようにしていました。3人には視聴者と同じ目線で物語の歩みを進めていってほしい思いがあったんです。

『ビックリメン』の世界に自分たちがどういう風に巻き込まれていくのか、これからどんな展開が待ち受けているのかを、3人にはフレッシュに感じながら演技していただけたらという狙いがありました。

逆に斉藤さんや小西さんは最終地点から逆算した演技設計をしてくださっていたと思います。

TVアニメ『ビックリメン』第2話より 牛若

――制作スタッフ側でも役者さんの自然な演技を引き出す工夫をされていたのですね。イベントの映像やCM動画を拝見した際、マリス役の小西克幸さんがビックリマンについてとても詳しく話されていた点も印象的でした。

清水:
小西さんは昔からのビックリマンファンだそうで、あまりにも詳しいのでイベントにお越し出いた方の感想コメントで「小西さんの説明はまるでシャーマンカーンさながらだった(※)」といったものも拝見しました(笑)。

役者さんの中にはビックリマンの歴史(聖魔大戦など)に馴染みのない世代の方が多かったこともあってか、アフレコブース内で小西さんがほかの役者さんにビックリマンのことを教えるようなやりとりを見かけることが度々ありました。

現場でも『ビックリメン』の世界と同じように世代を超えた交流が垣間見え、とても印象深かったですね。

(※)ビックリマン 悪魔VS天使に登場する、“武”の神様のスーパーゼウスと並ぶ“文”の神という設定のキャラクター

TVアニメ『ビックリメン』第1話より 小西克幸さん演じるマリス

――現在8話まで放送されていますが、アニメ制作サイドとして視聴者の反応はどのように感じていますか?

清水:
放送後にX(旧Twitter)を見ると、当時からビックリマンをお好きな方にも喜んでいただけている様子が見えて、胸を撫で下ろしています。

実は作品内にはちょっとした仕掛けなんかも入れています。

例えば、ビックリマン工場の営業課長として登場する照光子というキャラが乗っている車のナンバープレート。アニメのあらすじにもある“ビックリマンシール三億枚事件”の輸送トラックは「1985」、普段乗っている社用車は「555」という番号を使っているのですが、これはビックリマンシール第1弾の発売年号(1985年)や照光子のキャラナンバー(第5弾の55番目のキャラクター)と掛けているんですよ。

TVアニメ『ビックリメン』第1話より トラックに乗っている照光子

――コアファンにしか分からないような仕掛けが入れられていたとは……。

清水:
ファンの方の中にはそうした小さなポイントに気付いてくださっている方もいて、こちらも「やってよかったなあ」という気持ちでいっぱいです。

オープニングやエンディングも、ビックリマンを知らない方が観て聴いて楽しめる内容に仕上げているのはもちろんですが、ビックリマンをお好きな方が楽しめるような要素もいろいろと仕込んでいるので、ぜひじっくり観ていただきたいですね。

これからアニメの終盤までさまざまなキャラクターが登場していきますし、ストーリー展開もより深くなっていくので、引き続き楽しみにしていただきたいです。

――さまざまなコダワリとビックリマンへのリスペクトが込められていることが伝わってきました。そんな『ビックリメン』が、ビックリマンにどのような影響を与えていきたいと考えていますか?

清水:
理想としては『ビックリメン』が、ビックリマンの当時の熱狂を知る世代の方々と、若い世代とのコミュニケーションのきっかけになったら良いなと思っています。

ビックリマンシールはもともと「どっきりシール」という、いたずらによってコミュニケーションを生むツールとして誕生したと聞きます。この作品によってマリス役の小西さんとヤマト・牛若・ジャックを演じる3名のように、世代を超えて会話が生まれたり、再びシール交換がブームになったりする未来が訪れたら素敵ですよね。

(執筆:河西ことみ、取材&編集:阿部裕華)

『ビックリメン』作品情報

<放送>
TOKYO MX:2023年10月5日(木)23:30~
BS朝日:10月6日(金)23:00~
<配信>
各種プラットフォームにて、10月5日(木)24:00~より順次配信開始
※放送・配信日時、内容は変更になる可能性がございます。

■STAFF:
原作:ロッテ
監督:月見里智弘
シリーズ構成:綾奈ゆにこ
キャラクター原案・メカニック原案:武井宏之
キャラクターデザイン:大和田彩乃
メカニックデザイン:武井宏之、射尾卓弥
美術監督:田山 修
色彩設計:のぼりはるこ
撮影監督:久保田 淳
編集:松原理恵
音響監督:藤田亜紀子
音響制作:INSPIONエッジ
音楽:三澤康広
制作:シンエイ動画
アニメーション制作:レスプリ
製作:ビックリメン製作委員会

■CAST:
ヤマト:梶田大嗣
牛若:森嶋秀太
ジャック:橘 龍丸
フェニックス:斉藤壮馬
マリス:小西克幸
フッド:阿座上洋平
ピーター:榊原優希
アリババ:田丸篤志
一本釣:梅原裕一郎
照光子:市来光弘
十字架:小倉 唯
オアシス:小林ゆう
カーン:宝亀克寿
タカやん:徳留慎乃佑

(C)ロッテ・ビックリマンプロジェクト/ビックリメン製作委員会

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