作品集100冊以上!ひとりの少女を撮り続けた「少女礼讃」幸福な集大成とは?写真家・青山裕企が語る

写真家の青山裕企さんが2018年から撮影を続けている極私的ポートレート作品「少女礼讃(しょうじょらいさん)」が集大成を迎え、都内3カ所で写真展が開催されている。「少女礼讃 everything.」(渋谷ヒカリエ8/CUBE、12月5日まで)、「少女礼讃 naked.」(代官山AL、12月5日まで)、「少女礼讃 library.」(早稲田ユカイハンズ・ギャラリー、12月3日まで)はいずれも入場無料。少女を撮り続けた末に行き着いた〝集大成〟について、青山さんに話を聞いた。

なぜ、ひとりの少女をどこまでも撮り続けているのか?幼くて大人っぽい、無邪気で邪な、純粋で不純な、清楚で淫らな、普通で特別なある少女のパネルが並ぶ。名前も年齢も素性も分からないまま、圧倒的な量と質で、謎めいた関係性が続いてきた。私家版を含めて100冊以上の写真集になっている作品群から、未公開の新作も含めて展示されている。

青山さんは「SNSで簡単にかわいい女の子の画像を見つけられる時代だからこそ、生々しく迫ってくるプリントを楽しんでほしい。会期中だけの一期一会。同じ女の子に見えないけれど、全部同じ少女だというところを見てほしい」と呼びかけた。

40歳を迎えた2018年の夏だった。既にアイドルや女優のポートレートで商業的な実績を重ねていたが、「一貫して人を撮り続けてきたんですけど、このままでは続けられないほど、熱量的にも技術的にも精神的にも落ちていました。スランプでした」と悩んでいた。

その頃に少女から連絡が届いた。「写真に撮られたいということでしたけど、承認欲求みたいなところがなくて『大切なお友達に輝いている自分を見せたいから』という理由が気になりました」。対面し、初めて撮影を行った。「ファインダーを通して覗くのですが、それよりも強くこっちを見られている感覚にひかれました。撮影後に少女からのメールで、もっと撮られたいという気持ちをストレートに伝えていただいて、そこで私の〝撮りたさ〟と少女の〝撮られたさ〟が合致しました」。ビジネスを超越した〝共作体制〟が生まれた瞬間だった。

SNSが発達した時代に年齢、名前等を明かさない〝謎の少女〟の設定を守り通した。青山さん、少女は決して情報を表には出さなかった。ネット上に「少女礼讃」の画像は多数存在するが、個人情報はない。「ものすごい量を撮っているが、付随する個人情報がない。個性的だけど、ラベルを貼るヒントがない。すると、どうなるか。少女が『器』になると思うんです。見ている人が、それぞれ好きなものを入れる。それぞれの人が感じる『少女』という記号を受け入れる『器』です。それでも、『器』は魅力的じゃないと見向きもされないので、これだけ多くの人に作品が広がり、写真集も売れたのは、ひとえにこの『少女』の個性的な魅力のおかげです」と振り返った。

そして、悩みは消えていた。「大げさではなく自分を救ってくれました。純粋に人を撮る喜び、深さ、喜んでもらえているというポジティブさをいただけました。生涯人を撮り続けていこうと思えました」と感謝した。

アイドルや女優の撮影とは異なるアプローチも手にした。「女性をたくさん撮っているからこそ、あの少女の特別さは分かります。優劣ではありません。ありのままを見せられました」と語った。「グラビアだと都合のいいように修正、加工されてしまうけれど、それは今の仕事では避けられない。自分の写真表現の中で、リアリティを追求していくことができました」。修正を施さない、リアルな表現を実行した。少女の賛同を得ながら、共作のように膨大な作品群を増やしていった。

青山さんは「別の子で『少女礼讃』を撮ることはできない」と、少女の特別性を語った。では集大成とは何か。「僕が撮りきったと思い、彼女が撮られきったと思ったことでしょうか。一方だけが撮りたい、撮られたいでは続かなかったですから。ひとつの区切りですね」。その点では幸福な到達点かもしれない。笑みを浮かべながら「でも終了、完成とは言いません。写真も人生も続くものですから。〝少女〟からは遠くなっても、続くかもしれません。それは謎にしておきます」と補足した。

都内3カ所で開催中の写真展。「少女というものには、男性側が押しつける理想や欲望があり、女性側が持つ欲望や理想もある。『everything.』は私の見た理想の少女でイノセントな感じ、『naked.』は女性の剥き出しの欲望やプライベート感があります。全然違うけれど、同じ少女ですよ」と説明した。「library.」には過去100冊超の「少女礼讃」シリーズの作品集がそろい、全作品が確認可能なほか、ポラロイドサイズプリントの展示、販売を行う。それぞれ開館時刻等の詳細は公式サイトまで。

青山さんのライフワークシリーズ「ソラリーマン」「スクールガール・コンプレックス」「少女礼讃」で、継続中のシリーズは今後「ソラリーマン」のみになる。「私がスーツ姿で跳びまくっています。スーツの方をたくさん撮っています。もっと面白くしたい」と前を向いた。少女は出会った時から絵画の制作を続けているという。「いつか世に出るかもしれませんね」と期待した。

◆青山裕企(あおやま・ゆうき) 1978年、愛知県名古屋市生まれ。2005年、筑波大学人間学類心理学専攻卒業後、上京して写真家として独立。〝ミスター・ポートレイト〟として吉高由里子、指原莉乃、生駒里奈など、時代のアイコンとなる女優・アイドル・タレントの写真集の撮影を担当。広告・企業・雑誌のグラビア・書籍の装丁・CD・アーティスト写真など、ポートレート撮影を中心に活動。エッセイ・写真実用書の執筆、講演・ワークショップ・講師など後進の育成も行う

「少女礼讃 everything.」会場で取材に応じる青山裕企=都内の渋谷ヒカリエ8/CUBE
青山裕企写真展「少女礼讃 everything.」会場の様子=都内の渋谷ヒカリエ8/CUBE
青山裕企写真展「少女礼讃 everything.」会場の様子=都内の渋谷ヒカリエ8/CUBE

(よろず~ニュース・山本 鋼平)

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