芸歴15年、無名のピン芸人が鮨職人1年半で予約の取れない店に 親指ぎゅー太郎 きっかけは病弱な母のため

吉本興業所属で芸歴15年。ピン芸人の親指ぎゅー太郎(37)がこのほど、よろず~ニュースの取材に応じた。親指の被り物をして「ぎゅー」と言いながら両手の親指を立てるのが決めポーズで知る人ぞ知る存在だが、最近は予約の取れない鮨屋として注目を集めている。鮨職人としてや病弱な母への思い、芸人としての葛藤などを明かした。

きっかけはJR大阪環状線の京橋駅北口近くで小料理屋「小よし」を営む母親が病で倒れたことだった。コロナ禍で仕事が減ったこともあって、2020年4月から店の手伝いをしており、2人で生活をしていくためには、芸人の収入だけでは厳しく、店を続けることにした。当初は知人の飲食店から簡単な総菜などを分けてもらい、自身も教えてもらったレシピを見ながら料理を作っていたが、「これではらちが明かない」と短期間で卒業できる料理学校を探していたところ、3カ月で鮨職人になれる学校を探し当てて2022年1月に入学。ノウハウを学んだ。

同年4月に卒業して母親の小料理屋でわずかながら鮨を提供していたものの、病気がちな母親に少しでも楽をしてもらおうと2カ月後の6月からは週1回だけ、4950円で鮨のコースを1回転提供する日に設定した。カウンター8席が全て埋まるようになり、人気も上々。1年あまり続けるも、母親が再び倒れたこともあり、今年8月からは全て鮨の予約コースに変更した。

水曜を除いて1回転の鮨屋としての営業。当初は予約が埋まらなかったところ、よく食べに来ていたお笑いコンビ・サバンナの高橋茂雄が10月に自身のYouTubeで店を紹介して絶賛すると大バズリ。店のインスタグラムのDM、電話に予約が殺到した。「携帯を開くたびに、フォロワーが100人ずつ増えていくんですよ。開けるのが楽しみになりました」と喜びながらも「だんだん、やばい、やばい。怖い、怖い。対応できるかな」と気後れしてしまった。

「高橋さんのYouTubeを見て来ているお客さんばかりなので『ハードルを下げてください』『大阪一うまいわけがあるわけないから』と。先に言っておかないと」と苦笑い。毎朝の仕入れ、仕込みに時間がかかる苦労などもあるが、「いいリアクションをいただいている日が多いと思います。きょうはアカンかったという日もあるんですけど、最低限は喜んでいただいているんじゃないかと思っています」と手応えをつかんでいる。

客からカメラを向けられたり、ギャグをやってくださいと言われたりすることもある。「芸人なので気の利いたことは言わないと。ギャグも伝票につけますけどね」と笑った。年内の予約は既に満杯。来年1月からは日曜を除く5日間(水曜は定休日)を2回転にして料金も6980円に変更しても、1、2月の予約は既に埋まっている。12月13日から3月分の予約を始めるそうだ。

鮨屋に比重を置いているだけに、芸人としての今後についても思いを巡らせている。芸人の仕事は現在、自分が関わっているYouTubeの吉本興業チャンネルの番組と、音楽とお笑いを通じて認知機能の低下や抑うつ予防などに取り組むプログラム「Petit笑店」の2つ。「芸人の仕事はしんどいけど、楽しいので、なかなか辞められないのはあります。けじめをつけないといけないのも分かるんですけど。この2つは仕事がない時から頂いた仕事なので、やらせていただけたら。あとは鮨屋で」と胸の内を明かした。

鮨職人としてわずか1年半ながら、店は予約が取れないほどの人気となった。客には自分とのやりとりを楽しみながら、鮨を食べて満足して帰ってもらう。「お笑いのネタをやっている、ライブをしているような感じを味わっているので、生きているって感じがしますね。今後ですか?ミシュランを獲りたいですね」。大きな目標を掲げながら、鮨屋を舞台にお笑いとは違うネタを提供する。

◆親指ぎゅー太郎(本名・中川秀人)1986年6月4日生まれ、37歳。大阪府出身。幼少期を奈良県生駒市で過ごす。2008年NSC大阪校31期生。同期にロングコートダディ、インディアンス。整体師から芸人の道へ。親指の被り物をして「ぎゅー」と言いながら両手の親指を立てるのが決めポーズ。小料理屋を営む母が病で倒れたこともあり、鮨職人を志し料理学校で技術を所得。鮨職人との二刀流芸人。父は西川きよし・横山やすしのライバルとして人気を博した漫才コンビ若井ぼん・はやとのはやとさん(08年没)。

(よろず~ニュース・中江 寿)

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