「木を伐らない林業」 育林特化の「中川」が環境大臣表彰、和歌山・田辺市

気候変動アクション環境大臣表彰の受賞が決まった「中川」の皆さん

 和歌山県田辺市文里2丁目の育林業「中川」が、本年度の気候変動アクション環境大臣表彰「普及・促進部門」で大賞に選ばれた。中川は育林に特化した「木を伐(き)らない林業」を提唱。森林教育や防災活動にも取り組み、地域活性化に貢献している。働き方改革を進め、多様な人材が活躍している点も評価された。

 中川は2016年の事業開始から6年間で354ヘクタールを植林した。約4千ヘクタールの民有林を地元の伐採業者と連携して管理している。連携により次の植林を考慮した伐採ができる上、安定的に製材所に木材を提供できる。

 17年からは地域で拾えるドングリで育苗を展開。耕作放棄地や空き地を利用して、現在スギ・ヒノキ約7万本、ウバメガシをはじめとした広葉樹約3万本を育苗している。地元の中学校や企業、障害者雇用団体も育苗に協力している。

 ICT(情報通信技術)も積極的に導入。19年に林業用大型ドローンを開発し、労働の省力化、資材運搬の安全性向上が可能となった。

 事業の原点は働き方改革。創業者の中川雅也さんが会社員時代、当時3歳の息子に「遊んでほしい」と言われ、子どもと遊びながらできる仕事を模索した結果が、林業での起業だった。

 中川では好きな時間に働ける1日6時間のフレックスタイム制を導入。給料査定は2カ月に1回あり、頑張りが給料に反映されやすい。役員報酬は新入社員以下に設定。全員の給与明細を公開している。

 約30人いる正社員の半数は県外からの移住者。求人情報を発信していないが、20年以降毎年20人以上の応募があるという。従業員やインターン生が全国各地で起業するなど林業の裾野も広げている。

 中川は「受賞を機に、山に興味を持つ人が一人でも増えればうれしい。本年度中に(森林保護や再生可能エネルギー設備導入などによって削減された二酸化炭素排出量をクレジットとして政府が認証する)『J―クレジット事業』に参入予定。地方から都会に対し、環境の価値を伝えていきたい」と話している。

 気候変動アクション環境大臣表彰は、気候変動の緩和や適応に顕著な功績のあった個人、団体の功績をたたえる賞。普及・促進部門以外に、開発・製品化部門、先進導入・積極実践部門があり、大賞は計7件。表彰式は12月4日に東京都である。

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