ファンサ学び、助成金も受ける「eスポ」選手 トップアスリートと変わらぬ存在に

eスポーツの大会で腕を競う参加者たち(2023年1月、京都府亀岡市)

 近年耳にすることが増えたeスポーツ。「エレクトロニックスポーツ」の略で、競技性の高いオンライン型の対戦ゲームを指す。スポーツ、シューティング、格闘、パズルなど大きく七つのジャンルに分類される。

 一般社団法人日本eスポーツ連合が昨年発行した白書によると、eスポーツの国内市場規模は右肩上がりで、2021年は78.4億円となり、25年に180億円まで成長すると推計。試合観戦や動画視聴経験者を主とするファン数は21年が743万人で、25年には1200万人を超えると予測する。

 

 若者のスポーツ離れ、五輪離れが課題となっている国際オリンピック委員会(IOC)は今年10月、「オリンピック・eスポーツ・ゲームズ」と題した新設大会の構想を明らかにした。今秋の中国・杭州アジア大会ではeスポーツが正式競技に初めて採用され、スポーツ界ではリアルとバーチャルの融合が図られつつある。

 

 上月財団(東京都)は「スポーツ選手支援事業」の対象者に、2021年からeスポーツ選手を加えた。日本プロ野球機構とゲーム会社のKONAMIが共催する「eBASEBALLプロスピAリーグ(スピリーグ)」で、福岡ソフトバンクホークスの一員として昨シーズンの優勝に貢献した龍谷大3年の前野拓光(たくみ)さん(21)ら9人のプレーヤーが今年6月、対象者に選ばれた。

 前野さんは、今夏に陸上の世界選手権男子100メートルで準決勝に進出した柳田大輝選手(東洋大)やフィギュアスケートで昨季世界ジュニア女王の島田麻央選手(木下アカデミー)といったトップアスリートに交じって、毎月上月財団から助成金をもらっている。

 また、スピリーグに参戦する選手は「プロ」の心構えを学ぶ研修がリーグ側から義務づけられ、インタビューやファンサービスの対応、SNS対策まで指導を受ける。

 

 eスポーツを肯定的に捉える動きは広がりつつある。娯楽性に加え、スポーツの原点である「気晴らし」の要素が含まれる。全身を動かさなくてもお年寄りや障害のある人が気軽に親しめるユニバーサルな一面もある。

 

 行政も熱心で、2021年にサンガスタジアム京セラ(京都府亀岡市)内にeスポーツ施設「SKY-FIELD」がオープン。府は大規模な大会開催や人材育成を推進する。

 一方、社会全体を見わたすと、ネットゲームのやり過ぎで日常生活が困難になる「ゲーム障害」の問題が指摘されている。その評価は、正と負が入り交じっているのが現状だ。

 

 eスポーツはスポーツだと思いますか-。

 

 学業のかたわら、日々集中したトレーニングに励む前野さんに質問をぶつけると、こんな答えが返ってきた。

 

 「スポーツは体を動かすものと考える人が大多数だと思う。そのイメージからすれば、eスポーツは体を動かさずに画面上で(キャラクターを)動かしているようにしか見えない。でも、トップの人は頭を使って練習したり、戦略を考えたりしている。僕も死ぬほど努力しました。試合が終わると、脳が焼き切れるぐらい疲れる。そんなところは、スポーツと変わらないんじゃないか」

 前野さんの話は、少子化の影響などで減り続ける野球の競技人口にまで広がる。

 

 「僕が入っていた小学校の野球チームがなくなったんです。NPBがプロスピに協力しているのも将来の野球人口の育成があるから。野球って、見ていてもやっていても面白い。ゲームからでもそう思ってもらえるきっかけになればいいし、僕も情報発信していきたい」

 

 リアルのスポーツが抱える課題をeスポーツが補完する。そんな時代に入ってきているのかもしれない。

 

龍谷大文学部で学ぶ前野さん(京都市下京区)
自宅で練習する前野拓光さん(大阪市)
真剣な表情で練習する前野さん(大阪市の自宅)

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