白神山地のニホンジカ、目撃3倍に 核心・周辺地域、2022年度 希少な植生に食痕か

 世界自然遺産・白神山地の生態系に影響を及ぼす可能性が懸念されているニホンジカについて、環境省東北地方環境事務所は30日、白神山地の核心地域と周辺地域で2022年度に過去最多の計229頭が目撃されたと明らかにした。これまで最多だった21年度の70頭の3倍超。繁殖期の咆哮(ほうこう)も12地点で108回確認され、21年度(4地点で47回)を大きく上回った。

 22年度の調査で、世界遺産地域と周辺にある希少な植生「特定植物群落」23カ所のうち6カ所を調べたところ、2カ所でニホンジカの可能性がある食痕が確認された。

 30日、秋田市で行われた有識者や国、青森・秋田両県などでつくる白神山地世界遺産地域科学委員会(委員長・中静透国立研究開発法人森林研究・整備機構理事長)で、委員側に助言を求める形で報告した。

 目撃のほとんどは、同事務所と林野庁東北森林管理局などが設置した自動撮影カメラ計101台が捉えた。核心地域では青森県側のカメラに写らなかったが、秋田県側で雄1頭が撮影された。周辺地域も含め、撮影されたのは9~11月の秋期に集中し、大半が雄の成獣。雌の成獣は5頭確認された。同事務所は、調査精度の向上も目撃が急増した要因とみている。

 ニホンジカの生態に詳しい高橋裕史委員(森林研究・整備機構森林総合研究所東北支所生物多様性研究グループ長)は「白神の重要な植生を守るなら、モニタリングの見直しや生息調査を手厚くする必要がある。シカの影響は急に表れるため初動が重要。どの段階でどこをどう守るのか、具体的に考えないといけない段階だ」と警鐘を鳴らした。

 別の委員は、白神山地周辺の日本海側で、農作物の残さがニホンジカの生息拡大につながっている可能性を指摘。田口洋美委員(東北芸術工科大学名誉教授)は「例えば収穫が終わった農地での被害は気がつかなかったり、被害と捉えない場合がある。(野生動物の被害を認識できるように)目線を変える必要がある」との見方を示した。

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