【連載】郷土菓子研究社・林周作の“世界のお菓子を巡る旅”Xmas Ver.|ホリデーシーズンを飾るドイツの定番「シュトーレン」

世界は私たちの知らないお菓子で溢れている。
この連載では、世界を旅するパティシエ「郷土菓子研究社」の林周作さんをナビゲーターにむかえ、その土地の環境や文化から生まれた不思議で美味しいお菓子を紹介します。

第5回はクリスマスバージョンでお届け。国はクリスマスマーケット発祥の地として知られるドイツです。ヨーロッパの中でも長い歴史をもつドイツでクリスマスは1年で最も大切な日。
そこで今回、キリスト教と関係が深いお菓子「シュトーレン」を紹介。クリスマス前から少しずつスライスして食べる伝統菓子で、11月に入るとどの店にも置かれ始めます。今や日本でも一般的に知られるようになった「シュトーレン」。ぎゅっと詰まった生地とラムの芳醇な香りが素朴ながら、多くの人を惹きつけます。

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【連載】郷土菓子研究社・林周作の“世界のお菓子を巡る旅”vol.04|新食感のプルプルクリームがやみつきに。クロアチア人が愛してやまない「クレムシュニッタ」

本場ドイツのクリスマスの過ごし方

世界中で行われるようになったクリスマスマーケット。写真はフランス・アルザス地方

街の至る所に歴史的建造物が残るドイツ。その歴史は古く、特にローマ帝国で重要な役割を担ってきました。クリスマスマーケットが開催されるようになったのもまた、この頃だと言われています。12月25日前の約4週間は“アドベント”と呼ばれるクリスマスの準備時期。ドイツで“アドベント”に欠かせないのがシュトーレンです。

林さん「シュトーレンの誕生は諸説ありますが、14世紀初めのドイツ・ナウスブルクと言われています。粉糖で覆われ、白い産着に包まれた幼子イエスキリストを連想させる見た目から司教への献上品として作られていたようです。ただし今のシュトーレンとは異なり、元々は凄く質素なお菓子だったみたいです」

クリスマスマーケットでの一コマ。自慢のシュトーレンを片手に微笑む女性

旅の間にクリスマスマーケットを訪れたという林さん。一体どんな雰囲気だったのでしょうか。

林さん「僕はドイツとの国境にあるフランス・アルザス地方に住んでいましたが、クリスマスマーケットは各地で開かれていました。“アドベント”期間はみんなここで、クリスマスの飾り付けやディナーの準備をするんです。シュトーレンの専門店も数多く、町は賑わいと輝くイルミネーションの光で包まれ幻想的です」

クリスマスは最高の贅沢をする日。バターとスパイスをふんだんに使った『シュトーレン』

アルザス地方に滞在していた時期は老舗『Patisserie Jacques(パティスリージャック)』で働いていたという林さん。昔ながらのレシピを守る店で、クリスマスからホリデーシーズンにかけては、多くの人が沢山のお菓子を買い付ける姿に、日本とは異なる感覚を覚えたそう。

林さん「キリスト教が昔から根付いている地域にとって、クリスマスはやっぱり特別なんだと肌で感じました。

シュトーレンは元々質素だったとお話しましたが、理由はカトリック教がバターやミルクの使用を禁止していたからだそうです。それが15世紀末に廃止され、より現代のレシピに近くなりました。特徴的なところはやっぱり、焼いた生地をバターに浸す工程です。なかなか日本人では思いつかない大胆さがありますよね。

ドライフルーツやナッツをたっぷり使い、バターもこれでもかというくらいしみ込ませていきます。せっかくのアドベントだから、とことん贅沢しようっていう気概があっていいですね。笑」

水分を抜いた澄ましバターがたっぷり入ったボウルに焼いた生地を漬けていく
バターに漬けることで長期保存が可能になる

林さんの作るシュトーレンも本場に習って贅沢に。自身が惚れ込んだというイタリア産のドライフルイーツをラム酒に漬けこみ、ミックスナッツと一緒に生地に絡めます。その量なんと、生地の1/3以上!

食べるとカルダモンの香りが広がり、ドライフルーツや木の実がごろごろ。時間が経って発酵が進むとより芳醇な香りと、しっとりした食感が出てくるんだとか。おひとり様や他の物も食べたい人向けに小ぶりサイズになっています。

ナビゲーターはバックパックで世界中のお菓子を巡る菓子職人、林周作さん

林周作さん

現在世田谷区・三軒茶屋にある『JOURNEY(ジャーニー)』のオーナーシェフを勤める林さん。日本では珍しい世界各国の郷土菓子を専門に作る菓子職人です。自ら世界中をバックパックで巡って出会い感動した人と郷土菓子の数々。林さんはその時感じた美味しさを、現地の文化や環境、歴史と共に伝えたいと店を拠点に本やメディアを使って発信しています。

ドイツで林さんが面白いと感じたのは、ケーキの提供スタイルだったそう。多くのカフェでは、写真のようにフォークを刺した状態で運ばれてきます。

ドイツのカフェでパシャリ。フォークをケーキに刺して提供しているところが多いんだとか

NEXT SWEETS |音楽の都オーストリアで、世界一甘い戦争を起こしたチョコレートケーキ「ザッハトルテ」

ザッハトルテ

ドイツではフリードリヒスハーフェン、リンダウ、ミュンヘンを訪れた林さん。ドイツはパン大国としても知られ、その数1500種類以上。レシピも細かく国が定めており、どこでも美味しいパンが食べられるんだとか。ちなみに林さんが一番感動したのは、宿屋の婦人に連れて行ったもらった片田舎のパン屋で食べた「ラウゲンクロワッサン」だったそう。プレッツェル風味のクロワッサンで、その後も各所で食べ歩きましたが、そのパン屋に勝るものはなかったんだとか。

ドイツのパン屋の風景。様々な種類のパンが並んでいる

次回は、音楽の都ウィーンに代表される国オーストリアへ。ハプスブルク家の栄枯盛衰を描いた歴史には欠かせない国として、様々な映画の舞台になっています。特に有名なのは、フランス王国ルイ16世の王妃でオーストリア生まれのマリーアントワネット。

そこで紹介するのは歴史と関係の深いお菓子 “ザッハトルテ”。7年に渡って繰り広げられたザッハトルテのオリジナルレシピを巡る論争は“世界一甘い戦争”とも呼ばれています。1月1日公開予定です。

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東京都世田谷区太子堂2丁目9−25
営業時間:14:00~20:00
定休日:火・水

園果わたげ

ウフ。編集スタッフ

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ufu.の新米編集者。メンズカルチャー誌でアシスタントを経験後ufu.に転身。 特技は甘いものを食べ続けること。最近は美術館内レストランの限定コラボスイーツにハマっている。

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