日本防衛の要「宮古島駐屯地」の奇跡|小笠原理恵 「自衛官は泣いている」と題して、「官舎もボロボロ」(23年2月号)、「ざんねんな自衛隊〝めし〟事情」(23年3月号)、「戦闘服もボロボロ」(23年4月号)……など月刊『Hanada』に寄稿し話題を呼んだが、今回は、自衛隊の待遇改善のお手本となるケースをレポートする。

自衛隊の待遇改善のお手本

宮古島駐屯地は2019年3月に編成され、比較的新しい拠点だ。台湾有事が懸念されるなか、宮古島駐屯地は南西諸島防衛の要として重要な役割を担っている。そんな宮古島駐屯地は自衛隊のなかでも働きやすい環境が整った拠点だと聞き取材させてもらった。

これまで、ボロボロの官舎、何年も新品を支給できない被服、病院食かと思うほど粗末な食事等、自衛隊員の待遇の様々な問題をレポートしてきた。今回取材した宮古島駐屯地は、自衛隊の待遇改善のお手本となるケースだと感じた。

余談になるが、宮古島駐屯地は環境にも優しい。駐屯地や官舎は生活排水をそのまま排出しない。排水は浄化後、広い草地で蒸発させる。このような草地は雑草が生えやすいため、ヤギを2頭レンタルしている。人に慣れたヤギたちは自衛隊員の子供たちにも大人気だ。市民団体の一部は自衛隊宮古島駐屯地が地下水を汚染していると誤解しているが、自然にとても配慮した拠点なのだ。

宮古島駐屯地正面門(筆者撮影)
排水浄化のための草地で飼われているヤギ(筆者撮影)
月刊『Hanada』2023年2月号「防衛費不足で官舎もボロボロ」で報じた外壁にひびが入った官舎

高級幹部の住居グレードである3LDK

宮古島駐屯地の隊員は、宮古島出身者が720人中35人、沖縄県出身者が70人、九州出身者が約6割となっている。離島の宮古島では十分な賃貸住宅が存在しないため、官舎は無料で光熱費と自治会費だけで隊員たちは居住できる。

駐屯地に一番近い千代田隊舎は2019年に造られ、平良地区は2020年、友利地区は今年完成予定だ。どれも新しく、高級幹部の住居グレードである3LDKと広い。

官舎のエアコンは隊員が自腹で設置していたが、今年から国費でエアコンが設置されることとなった。新しく広くしかも安い官舎は自衛隊員増に効果がある。重要拠点の隊員数を維持するために国も努力しているのだ。

地代等が都心と比較すればかからないなどの理由はあるが、国を守る自衛隊員への敬意は具体的であってほしい。自衛隊員を支える家族もその仕事を誇りに思えるような官舎であってほしい。自衛隊員を応援する人々はそう考えている。その願いが宮古島では実現しているのだ。

広い対面式のキッチンスペースにはレンジフードもついている。老朽化した古い官舎の転居時には、転居の度に自衛隊員の家族が「MY換気扇」を取り外して、次の官舎で再び工事費を出して設置する様子に驚いた。しかし、ここでは一般企業の社宅のようにレンジフードやエアコンがあり、お風呂の脱衣所に洗濯機の防水パンがあった。

当然と言えば当然だが、当然のものが自衛隊官舎にはほとんどなかったのだ。

中村夫妻と天晴君 広いリビングと新しいキッチンの官舎(筆者撮影)

奥様(いくみさん)も、ご主人(翔平さん)も自衛官という仲村家の自衛隊官舎にお邪魔した。日当たりのいい広いリビングに夫妻と赤ちゃんの3人暮らしだ。沖縄で2人は結婚し共に宮古島に異動となった。自衛隊員夫妻の転勤はできるかぎり同じ地域にするという配慮がある。

この官舎から5km以内の上野地区に保育園があり、送迎バスが官舎までやってくる。子育てにはとてもいい環境だ。「お休みはどこで過ごしますか?」と聞くと、「キレイな海でマリンスポーツや釣りをする人が多いです。ウミガメが来る場所で、ウミガメと一緒に泳ぎます」と返事があった。

2人の長男、天晴君はお母さんに抱かれてニコニコしていた。天晴君もウミガメといつか一緒に泳ぐのだろうか。南国の美しい島ならではの余暇の過ごし方だ。

NHK受信料や電気代を「自腹」で支払う自衛隊員の悲哀|小笠原理恵 | Hanadaプラス

食事も被服もスポーツジムも充実

宮古そばの昼食 昼食にもデザート「サーターアンダギー」がついている

自衛隊に入隊したばかりの隊員約350人は 駐屯地内の隊舎で集団生活をしている。この隊舎も築5年と比較的新しい。この隊舎内の部屋割りは1室に10人。自衛隊内で「フランスベッド」と呼ばれている新しいタイプの2段ベッドが置かれている。ここには女性隊員もおり、女性隊舎がある。女性隊舎は電子ロック付きでそこに風呂とトイレがある。

自衛隊の糧食費は概ね1日947円だ。しかし、宮古島駐屯地は離島なので自衛隊のルールで1品多いメニューだ。さらに、食材の運搬費も含めての1日当たりの糧食費は約1,400円となっている。糧食費の値段を高い順に並べると、距離の遠い与那国、石垣、ついで宮古島の順となる。

一般の自衛隊糧食費947円ではおかずの数や量が制限されがちだが、営内の食堂メニューはかなり充実している。他の拠点もこれくらいほしい。さらに、営内には隊員クラブ(飲酒可能)もある。

本土の自衛隊の隊舎や庁舎は、節約のため、夜間や休日に冷暖房を切るところがある。湿度の高い宮古島では油断するとすぐカビだらけになることもあり、24時間冷房はかかせない。スポーツジムや体育館にも冷房があり、休日や課業以外の時間にも申請すれば冷房をきかせてトレーニングができる。

ジムにはランニングマシーン、ウエイトトレーニングなど新しい設備が整っている。古い自衛隊の拠点のジムもこうあってほしいものだ。

沖縄県と海外派遣される隊員たちの一部には特別な防暑服と防暑靴が支給される。これらは戦時に隊員の命を守る耐熱難燃性と対赤外線がある上に脇や背中にスリットが入っており、熱を放出できる。防暑靴も蒸気を放出する穴がある。

入隊してくれる隊員をいかに増やすか

厚生用品貸出一覧

自衛隊では離島に住む隊員とその家族のために、マリンスポーツやキャンプグッズ等、レクリエーション用品の無料貸し出しサービスがある。官舎には滑り台や子供用遊具もあり、宮古島は子育てがしやすい環境が整っている。そのためか、平均して2~3人のお子さんがいるそうだ。自衛隊の生活環境の向上は離島の少子化、過疎化対策に貢献できる。

「宮古島駐屯地に足らないものはありますか?」と聞いたところ、「駐屯地の体育館にはバスケットリングがないので、地域交流のためにもぜひ欲しい」とのことだ。隊員たちの勤務・生活環境が良ければ、家族も安心して暮らせ、モチベーションも上がる。自衛隊で働きたいと思う人も増えるだろう。

昨年の自衛官候補生の募集は必要数の4割近くまで減った。有識者会議の令和3年度の自衛官等の入隊・退職状況の資料によると入隊する自衛隊員は13,327名のところ、中途退職者が5,742名、任期満了と定年退職者を加えた退職者数は13,439名で、入隊者より自衛隊を去る隊員のほうが多い。

入隊してくれる隊員を増やすことと、入隊した隊員が中途退職しない対策が必要だ。自衛隊員が理想とする生活環境が宮古島にはある。防衛省はこの宮古島の成功例を全国に広げてほしい。

ごはんを食べて懲戒処分!ざんねんな自衛隊〝めし〟事情|小笠原理恵【2023年3月号】自腹で買う自衛隊員も!戦闘服ボロボロでこの国を守れるか|小笠原理恵【2023年4月号】

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小笠原理恵

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