駅弁の定番・淡路屋「ひっぱりだこ飯」がコラボ連発 ゴジラ、キティちゃん、警察とも「会議ゼロで即決」

ゴジラやキティちゃん、時には警察とも。さまざまなコラボ商品や特別版の「ひっぱりだこ飯」を持つ柳本雄基副社長=神戸市東灘区魚先南町3、淡路屋

 「雑誌とコラボ」「兵庫県警版」、「アニメ制作元と意気投合」…。駅弁の定番として知られる淡路屋(神戸市東灘区)の弁当「ひっぱりだこ飯」の新商品情報だ。1998年の販売開始から累計1500万個以上を生産してきた人気商品だが、近年は特別版や他企業とのコラボ版が次々と登場。その数、ざっと50を超える。そこまで触らなくても売れる商品が、どうしてこうなった?(大盛周平)

 「こいつが悪い癖をつけよったんです」

 金ピカに輝くつぼを指さしながら、同社の柳本雄基副社長(42)が説明する。そのつぼは、累計1千万個突破を記念して2017年につくられた「金色のひっぱりだこ飯」だ。

 ひっぱりだこ飯は、明石海峡大橋の開通を記念し98年に販売開始。煮たタコの足やタコ天、アナゴや季節の野菜などを、タコつぼを思わせる陶器のつぼに入れた。味もアイデアも詰め込んだ商品は、今も同社トップの販売数を誇る。

 数々の商品企画の経験から、ひっぱりだこ飯を「いじりたい」と狙っていた柳本副社長。生産1千万個を超えたことがわかり、提案したのが「金色」だった。これがヒットし、コラボに突き進むことになる。

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 他企業とのコラボ第1弾は、19年1月発売の「ゴジラ対ひっぱりだこ飯」。なぜゴジラなのか。「たまたま、つぼとゴジラのフィギュアが一緒に目に入ってきたから」と柳本副社長。ライセンスを管理する東宝側は「ゴジラとタコの戦い。特撮ファンならぴんとくる」と企画に乗った。

 ゴジラの熱線を浴びたという想定で、たこは「焼きだこ」に。つぼも黒くした。また、天ぷらをタコからウズラのタマゴに変え、ゴジラの卵をタコが奪った、という設定にした。商品バーコードの下4桁はゴジラの映画の初公開年「1954」。マニアックにこだわり、年間1億円を売り上げた。

 その成功からオファーが急増。サントリーの飲料「伊右衛門」やキティちゃん、果ては兵庫県警や第5管区海上保安本部などの公的機関まで。他社とのコラボは30社ほどになり、季節ものなどの特別版も幅を広げている。

 数々の商品企画を「ノリですよ」と言う柳本副社長だが、目的はしっかりある。「人気商品でも、何もせず放っておくと放物線を描く。駅弁に普段接しない層にも商品を知ってもらうためにも、話題にし続けないといけないんです」

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 淡路屋の社内体制がまた、コラボ連発を可能にする。「会議で決めていないんです。大広間でみんなで話すんです」と柳本副社長。「これ、当たると思わへん?」「そうですね」「この食材でこうしようか」「それなら…」という具合。生産、販売などの部門にとらわれず、スピーディーに意見を交わす。変更する具材はインパクトのある数品にとどめるため、生産ラインが即座に整うという。

 そして、最初のゴジラとのコラボ時に「売れへんと思うで」と受け止めていたという寺本督(ただし)社長(62)も、商品化自体を止めることはしない。

 企画から1カ月ほどで、商品が完成することも。ゴジラの時は発案から数日後には東宝と東京で交渉した。東宝の斉藤奈緒子さんは「商談から1時間くらいで許諾を出しました。苦労? なかったです」。

 「例えば神戸はアパレルで有名。アパレル会社さんとも組んでみたい」と柳本副社長の野心は尽きない。ただ、意識していることもある。「ひっぱりだこ飯を多くの方が愛してくれているから、コラボもできる。そういう方たちが『裏切られた』と思うような、売れそうなら何でもいいというものは出したくない」

 そうこうしていると、また次のニュースリリースが送られてきた。

     ◇ 加熱式弁当、日本で初めて発売 【淡路屋】1903(明治36)年創業。阪鶴鉄道(現JR福知山線)の大阪駅を中心に列車内での弁当販売を始めた。87(昭和62)年には、加熱式弁当を日本で初めて発売。ひっぱりだこ飯のほか、甲子園球場でのプロ野球・阪神の選手弁当など多数の弁当を扱う。2022年12月期の売上高47億4300万円。資本金5千万円。販売中のひっぱりだこ飯はオンラインショップで確認できる。

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