高齢化が進む集落へ“おいしさと安心”を運ぶ「豆腐屋」さん!移動販売と高齢者の見守りを兼任する販売員に密着

「とーふー♪」と聞こえてくるようなラッパの音。どこか懐かしいメロディを響かせる軽バンの正体は、豆腐屋さんの移動販売です。

三重県松阪市の「岡村とうふ」は、山間の集落を巡り、高齢化が進む住民たちの暮らしを支えています。移動販売と同時に高齢者の見守り活動をする、とうふ屋の1日に密着しました。

豆腐の移動販売の行き先は、山間の高齢者が多い集落

山あいの細道を、縫うように走り軽バンがやってきたのは三重県松阪市の飯南町。お茶の産地でもあるのどかな集落です。

この町へ豆腐を売りに来ていたのは、三重県松阪市にある「岡村とうふ」の販売員。この日、1人目のお客さんは79歳の女性でした。

(1人目・79歳女性)
「ここのは、大豆の味がしておいしい」

「岡村とうふ」の「絹豆腐」は1丁210円と少し割高ですが、国産大豆の手作りにこだわった味と、作りたてを持ってきてくれる便利さが人気で、多くの住民がこの軽バンを待っています。

2人目のお客さんは、1人目の女性宅から100mほど離れた場所に住む88歳の女性。

(2人目・88歳女性)
「私は一人暮らしで…最近まで車の運転もしていましたが、もうそれもできなくなったので。本当にありがたいことなんです。不便なところなので」

飯南町は、65歳以上の高齢者が45%を超えていますが、近くのスーパーは車がないと行けません。買い物に行くのが難しいお年寄りにとって、この移動販売は大切な存在です。

異常が起きていないかを確認!県内の自治体と協定締結

(岡村とうふ販売員・吉田文也さん)
「(Q客の平均年齢は?)80歳以上ですね」

ただ豆腐を売っているだけではありません。お得意さんのほとんどが80歳以上という中、いつもの場所にお得意さんがいない時は、わざわざ玄関を開けて無事を確かめます。

実はこの「見守り活動」が、吉田さんのもう一つの大事な仕事です。「岡村とうふ」では、一軒一軒廻って販売するのにあわせて、高齢者の見守り活動もしようと県内の自治体と協定を締結。留守かどうか、異常が起きていないかを家に入って確認することも業務の一環にしています。

今では、三重県内29の市町のうち28の自治体が「岡村とうふ」と協定を締結、異変に気づいた際には自治体の担当者に電話をし、安否確認などにつなげています。

(岡村とうふ・西口鐵也社長)
「毎週買っていただかなくても、自宅まで伺っていますので。そうすると様子の違いとか、出てこなかったら『あのおばあちゃん大丈夫かな』とか、以前から思っていましたので。こちら側から行政にお願いをして、見守り活動をしたいと伺っていった」

豆腐を売るだけではなく、見守りを通じた安心も届ける

見守り業務は、ボランティア。それでも、県内全域に「岡村とうふ」を届ける事につながっています。このあとも軽バンで、細い山道を奥へ奥へと進む吉田さん。

正午前にたどり着いたのは、奈良県との県境にほど近い、飯高町舟戸地区です。この日26人目のお客さんは、86歳の女性。

(26人目・86歳女性)
「若い人もいないし、空き家が何軒も増えてきた」

元は林業が盛んだった飯高町も、人口の54%が65歳以上。飯南町以上に高齢化や過疎が進んでいます。

(岡村とうふ販売員・吉田文也さん)
「住んでいない家もいっぱいある。家はあっても」

帰りは別のルートで、また1軒1軒家をまわって、豆腐を売ったり安否を確かめたりと、見守り活動を続けます。午後1時44分、42人目のお客さんは、2023年3月に足の骨を折ってしまったという86歳の女性です。

(42人目・86歳女性)
「大丈夫、もうぽつぽつ歩いとるで」

飯高町桑原地区は急峻な坂道の上にあり、高齢女性が1人で集落を出るだけでも大変な場所ですが、女性はここで暮らすことを望んでいます。

(42人目・86歳女性)
「よその人の子どもらが迎えに来るやん、施設に入れようと思って。『行ったらあかん』と皆に言っている。気楽、ものすごく気楽やで。いつ食べようと、いつ寝てもいい生活」

豆腐や油揚げだけではなく、時には長話で油も売っている吉田さん。でも、これが住民にとっても楽しいひとときとなっています。

(岡村とうふ販売員・吉田文也さん)
「先週調子が悪かったという人も、次の週に治っているかが分かるので、月に1回来て『どうですか?』という人より、断然僕らの方がお客さんのことは分かっている。そこは僕らにしかできないこと。1軒家があるだけでも行って、豆腐を届けるのが僕たちの仕事」

暮らしと安心を運ぶ、豆腐屋さん。山間の小さな過疎の町に今日もラッパの音が響きます。

CBCテレビ「チャント!」11月21日放送より

© CBCテレビ