カスハラから「宿守れる」 県内宿泊施設も歓迎の声 13日、改正旅館業法施行

チェックイン時刻まで車での待機を促す湯守田中屋ののれん。田中専務は改正旅館業法を歓迎する=1日午前、那須塩原市塩原

 従業員に理不尽な要求や威圧的な言動をする「カスタマーハラスメント(カスハラ)」を繰り返す迷惑客に対し、旅館やホテルが宿泊拒否できる改正旅館業法が13日に施行される。栃木県内の宿泊施設関係者からは「宿を守れる」と歓迎する声が上がる。改正法が客の不当要求に毅然(きぜん)と対応できる“後ろ盾”となるためだ。一方、実際に宿泊を拒否する際の対応やキャンセル料の徴収など、運用面の懸念がよぎる。情報共有などを重ね「効果的な運用を検討したい」との声も出ている。

 改正法の施行を控え、日光市中宮祠の旅館「旅籠(はたご)なごみ」を営む神尾和彦(かみおかずひこ)社長(56)は「旅館を守れるようになる」と安堵(あんど)する。迷惑客への対応に苦慮した経験が脳裏にある。

 今年、宿泊客男性が「(宿泊費)2万5千円も払っているのに伊勢エビを出さないのか」と怒鳴りだした。夕食のメインは地元のブランド豚。予約サイトにメニューは掲載されていたが、客は納得しない。神尾社長が駆け付け、対応した。

 精いっぱいのもてなしを日々、心がけている。その中で「理不尽な要求をする宿泊客を拒否できるのは旅館にとってプラスだ」と胸中を語った。

 那須塩原市塩原、旅館「湯守田中屋」では感染症対策のため、チェックインできる午後3時まで、客に車での待機を求めている。

 5月。チェックインの30分前に訪れた男性客が「車で待つのか」「こんな所に泊まれない」「どう責任を取るのか」などと約1時間、従業員に詰め寄った。

 「接客業に向いていない」「こんな旅館なくなった方がいい」などと言われた田中佑治(たなかゆうじ)専務(31)は土下座し、男性客はキャンセル料を支払わずに帰った。こうした経験から、田中専務は改正法を歓迎する。

 客側からも前向きな声が聞かれた。同市の温泉街に夫婦で宿泊した茨城県つくば市、教員染谷智幸(そめやともゆき)さん(66)は「迷惑客に対処できるのは、他の客にとっても施設にとってもいいことだ」と期待した。

 一方、現場では運用面に不安もよぎる。酒に酔った迷惑客にどう帰ってもらうか、危害を加えられないか-。宿泊拒否した客のキャンセル料の徴収も大きな課題だ。田中専務は「激高する相手が納得するか」と懸念を口にした。「各施設で事案や対応を共有し、効果的な運用方法を検討していきたい。拒否権が独り歩きし、差が生まれないよう対応したい」と話した。

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