社説:ASEANと日本 対等な関係、さらに深化を

 「対等なパートナー」として、幅広く強力な連携を確認したい。

 日本と東南アジア諸国連合(ASEAN)の協力関係が今年、50年の節目を迎えた。

 16日からは東京でASEAN各国の首脳と岸田文雄首相による特別首脳会談が開かれる。

 ASEANの域内人口は6億7千万人を超える。「世界の成長センター」と呼ばれて久しい。日本は政府開発援助(ODA)や企業の投資を通じて同地域の発展に貢献してきた。

 日本による戦後賠償から始まった両者の関係は、初めから良好だったわけではない。

 ASEANは1967年にタイやインドネシアなど5カ国で創設し、現在は10カ国が加盟する。

 日本製品の輸出ラッシュが東南アジア各国で反発を招いた時期だ。日本は天然ゴム産地である同地域に安価な合成ゴムを盛んに輸出していた。

 交渉を重ねた結果、日本が天然ゴム産業の成長を妨げないことが確認された。ASEANにとってはさらなる地域結集への弾みとなったとされる。

 注目したいのは、東南アジアを「対等なパートナー」と位置づけた77年の福田赳夫首相の演説だ。福田氏は「日本は軍事大国にならない」ことも宣言し、後に「福田ドクトリン」と呼ばれるようになる。

 侵略の歴史を持つ日本が軍事の介在する余地を排し、対話で課題を解決する姿勢を明確にしたことが、相互の信頼醸成につながったといえよう。

 中東の武力衝突やロシアによるウクライナ侵攻などで、国際情勢が不穏さを増しているが、日・ASEAN関係の歴史は、外交の基礎が対話にあることを改めて示している。

 ASEANの域内総生産(GDP)は2030年にも日本を上回るという試算もある。

 今後、重要なのは、日本側がASEANを援助や工場投資先と見る発想から「共存共栄」の関係へと名実ともに変われるかだろう。

 米中対立が激しくなる中、ASEANはバランス外交を図っている。南シナ海で中国と島の領有問題を抱えるフィリピンも、一方で首脳の相互訪問を続けている。

 日本は中国をけん制する日米の取り組みにASEAN諸国を巻き込みたい考えだが、ASEANの分断をもたらすような関与は避けるべきだ。

 東南アジア各国も日本と同様に少子高齢化や格差の拡大などの問題に直面している。気候変動問題や脱炭素に向けたエネルギー転換なども共通の課題となる。

 日・ASEAN双方が課題を共有し解決に向けて取り組む必要がある。若い世代を中心に人の交流をこれまで以上に増やし、パートナーシップの深化を図りたい。

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