京アニ事件被告の責任能力、「妄想」の評価は 専門家「見極め難しい」、過去にも判断分かれ

青葉真司被告

 36人が死亡、32人が重軽傷を負った2019年7月の京都アニメーション放火殺人事件で、殺人罪などに問われた青葉真司被告(45)の裁判員裁判では、刑事責任能力を巡って、青葉被告の「妄想」がどこまで犯行に影響を与えたかが焦点になっている。「(京アニに)小説のアイデアを盗用された」「闇の人物に付け狙われていた」。法廷で明らかになった数々の妄想について、検察側、弁護側の主張は対立している。

 刑事責任能力が争われた過去の裁判では、「妄想」の評価を巡って判断が分かれている。妄想の程度や影響については、専門家でも見解が異なるケースがあり、裁判員らには慎重な検討が求められる。

 責任能力とは、善悪を区別する能力とそれに従って行動をコントロールする能力を指す。刑法39条では、いずれかが失われていれば「心神喪失」として罪に問わず、著しく低下していれば「心神耗弱」として刑を減軽すると定める。

 精神鑑定では、被告との面接や家族への聞き取り、捜査資料の分析などを通じて総合的に評価していくことになる。京アニ事件の裁判では、起訴前の鑑定医が25回(各1~3時間)、起訴後の鑑定医が12回(各3時間)それぞれ被告と面接を重ねたが、2人の見解は異なるものだった。

 これまで100件近い精神鑑定に携わった聖マリアンナ医科大の安藤久美子准教授(犯罪精神医学)は「両者ともかなり多くの時間を割き、慎重に見極めてきた印象だ」とみる。精神鑑定は明確な判断基準がなく、専門家でも議論が分かれるといい、「裁判員にとっては難しい判断になるだろう」と指摘する。

 実際、過去の重大事件の司法判断も分かれている。2004年に兵庫県加古川市で7人が刺殺された事件では最高裁が、被告には精神疾患の妄想性障害があったとしつつ、犯行に与えた影響は限定的だったとして完全責任能力を認め、死刑が確定した。

 一方、15年に兵庫県洲本市(淡路島)で5人が刺殺された事件では大阪高裁が、被告の妄想性障害に触れ、「妄想でしか動機を説明できず、病気の影響は極めて大きい」と指摘。心神耗弱の状態だったとして、一審の死刑判決を破棄し無期懲役とした。後に確定している。

 元裁判官で法政大法科大学院の水野智幸教授(刑事法)は判断のポイントについて、「診断名にとらわれず、行動や思考に大きな影響を与えたのは、強い妄想なのか、それとも元々の性格なのかを慎重に検討する必要がある」と話す。

青葉被告の妄想に関する見解

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