リアルサウンド連載「From Editors」第35回:『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』、戦後物語として現代に訴えかけるメッセージ

「From Editors」はリアルサウンド音楽の編集部員が、“最近心を動かされたもの”を取り上げる企画。音楽に限らず、幅広いカルチャーをピックアップしていく。

第35回は、特撮とメタルが好きな信太が担当します。

『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』、シリアスな物語の中で光るメッセージ

前回『HOSHI 35/ホシクズ』という新作怪獣映画を紹介しまして(※1)、その流れで今回は『ゴジラ-1.0』を取り上げようと思っていたのですが、リアルサウンド映画部で執筆したので路線変更(※2)。公開中の映画『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』の話をしようと思います。

11月17日に公開された『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』は、水木しげるの名作『ゲゲゲの鬼太郎』のエピソード0的な立ち位置となっており、鬼太郎が誕生する以前、鬼太郎の父(CV:関俊彦/ゲゲ郎、かつての目玉おやじ)がどのように生きていたのかという物語になっています。

本作の舞台は昭和31年(1956年)。水木(CV:木内秀信)は血液銀行に務める社員であり、亡くなった当主・龍賀時貞(CV:白鳥哲)を弔う名目で、日本の財政界を牛耳る龍賀一族が支配する哭倉村へ向かいます。そこで妻を探す鬼太郎の父と出会い、とある陰謀の暗躍に気づいて共闘していく……というストーリー。

1956年の日本といえば高度経済成長の初期。戦後から抜け出し、産業で以ってもう一度世界に君臨していこうと奮起し始めた時代に、戦争で多くを失った水木もまた、大企業で出世して資本主義をのし上がってやろうという意欲に満ちています。しかし、村で龍賀一族による陰謀や搾取を目の当たりにするたびに、戦地に赴いていた頃の記憶がフラッシュバック。かつて戦時中に体験した「大義のために命を差し出せ」という理不尽極まりない搾取を、自分も無意識に“強いる側”にまわっていたのだということを自覚していきます。権力を餌に差し出されながらも、弱者の犠牲の上に成り立つ繁栄は無意味だと一蹴し、戦前の古い慣習と本当の意味で決別していくような後半の展開は素晴らしいものでした。

と同時に、例えば生き血を吸い取って美しく咲く桜など、痛烈なメタファー描写も刺さりました。今自分が手に取っている便利な品、あるいは何かを美しいと思う感性が、一体どのような歴史の上に成り立っているのだろうか……とハッとさせられます。かつて夢見た明るい未来は、戦後80年近く経ってもまだやってきていないという示唆もあり、経済的に大きな壁に直面している今の日本を生きる我々にとっても、“豊かさ”とは何なのかを問うような作品になっていると言えるでしょう。

水木とバディを組む鬼太郎の父も非常に魅力的なキャラクターです。人間の欲望ばかりが渦巻くシリアスなストーリーの中で、愛や慈しみを説くのは、絶滅寸前の幽霊族である彼なのです。入浴シーンもしっかり用意されていて、「目玉おやじは元から風呂好きだったんだな」と思う反面、こうしてゆっくり情緒を味わう“人間的な”キャラクターは鬼太郎の父だけというのも、なんだか皮肉に感じられました。

また、戦後日本という時代設定、主人公が戦争の生き残りであるというキャラクター設定などにおいて、ほぼ同タイミングで公開された『ゴジラ-1.0』とも様々な共通点があると言えそうです。『ゴジラ-1.0』が民間の力で団結してゴジラに立ち向かう過程で、主人公・敷島浩一(神木隆之介)が自身の恐怖やトラウマを乗り越えていく物語だとしたら、『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』は搾取の根幹にまでメスを入れることで、水木が負の構造から脱していく物語に思えました。

そしてやや余談ながら、『ゴジラ-1.0』が多くのオマージュを捧げている『ゴジラ・モスラ・キングギドラ 大怪獣総攻撃』(2001年)では、ゴジラを“太平洋戦争で犠牲になった人々の怨念の集合体”として描いていましたが、『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎 』に登場する妖怪・狂骨もそれに近い存在だと思いました。『ゴジラ-1.0』のゴジラが果たしてそういう存在だったのかは想像の域を出ませんが、両作を見比べてみることで、戦後日本への捉え方の共通項や違いが浮かび上がってくるので面白いかもしれません。

『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』はかなり重いストーリーですが、現代日本で生活を営む者として大切なことを思い出せるような作品でした。『ゲゲゲの鬼太郎』シリーズを通っていなくても楽しめるので、たくさんの方にオススメしたい1本です。

※1:https://realsound.jp/2023/10/post-1468188.html
※2:https://realsound.jp/movie/2023/11/post-1503905.html

(文=信太卓実)

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