【感染症ニュース】2023年梅毒患者報告数が1万3000人超え… 現在の調査方法で統計を取り始めて以来最多 先天梅毒の子どもも増加の現実…

梅毒は薬で治療が可能!

国立感染症研究所の感染症発生動向調査週報2023年46週(11/13〜19) 速報データによると、この1週間の梅毒の患者報告数は全国174人。今年の累積報告数は1万3251人。1999年に現在の調査方法で統計を取り始めて以来、過去最多となりました。

■梅毒とはどのような感染症?
梅毒とは、梅毒トレポネーマという病原体により引き起こされる感染症で、主にセックスなどの性的接触により、口や性器などの粘膜や皮膚から感染します。オーラルセックス(口腔性交)やアナルセックス(肛門性交)などでも感染します。また、一度治っても再び感染することがあります。梅毒に感染すると、性器や口の中に小豆や指先くらいのしこりができたり、痛み、かゆみのないほっ疹が手のひらや体中に広がることがあります。また、これらの症状が消えても感染力が残っているのが特徴です。治療しないまま放置していると、数年から数十年の間に心臓や血管、脳などの複数の臓器に病変が生じ、特には死にいたることもあります。

■感染症に詳しい医師は…
感染症に詳しい大阪府済生会中津病院の安井良則医師は、「2022年は1年間に1万2966人の報告数がありましたが、2023年はそれをついに上回りました。このままいくと、今年1年の報告数は1万5千人に迫るのではないかと考えています。現在、各自治体が、検査の強化や広報活動を通じて対策を行っていますが、増加に歯止めがかからない状況が続いています。何より、気がかりなのは、先天梅毒で生まれる赤ちゃんが増加していることです。出産を考えている方は、梅毒について、よく知っておいていただければと思います。私たち、医療関係者も、梅毒の正しい知識を、多くの人に伝えていくことが大切と考えています」と話しています。

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大都市を中心に、全国で患者が発生多数

都道府県別では、東京都3244人、大阪府1760人、福岡県829人、愛知県751人、北海道607人、神奈川県594人など大都市圏が多い一方、すべての都道府県で患者が発生しています。男性では20〜50代が多く、女性では20代が多くなっています。2022年のデータでは、報告数の約3割が女性です。

先天梅毒の子どもが

若い女性の感染が問題となるのは、本人の病状もさることながら、妊娠した場合母子感染が起こるということです。妊娠した女性が梅毒に感染すると、胎盤を介しておなかの赤ちゃんにも梅毒がうつります。母子感染により、流産、死産の可能性が高まります。さらには生まれたとしても「先天梅毒」といって、出生時は無症状なものの、その後様々な症状が現れることがあります。今年はすでに32人の子どもが先天梅毒と診断されています。早期先天梅毒では、生後数か月以内に水疱性発疹、斑状発疹、丘疹状の皮膚症状に加え、全身性リンパ節腫脹、肝脾腫、骨軟骨炎、鼻閉などを呈することがあります。後期先天梅毒では、生後2年以降には実質性角膜炎、内耳性難聴、ハッチンソン歯などを呈することがあります。

梅毒は薬で治療が可能!

梅毒はペニシリン系などの抗菌薬が有効です。国内では、抗菌薬の内服治療が一般的に行われてきましたが、現在は世界的な標準治療薬であるベンジルペニシリンベンザチン筋注製剤の国内での製造販売が承認されました。早期梅毒であれば1回の注射で、後期梅毒の場合は、3回の注射で治療が可能です。また、内服治療の場合、内服期間は病期などを考慮して医師が判断します。医師の許可を得るまでは、症状が良くなっても自己判断で内服を中断しないようにしましょう。いずれの場合も医師が安全と判断するまでは、性交渉などの感染拡大につながる行為は避けましょう。安井医師は「梅毒は抗菌薬で治療が可能ですので、少しでも不安がある場合は検査を受け、感染している場合は速やかに治療を行っていただきたいと思います。ただし、その前に感染しない、そして広げないということが重要です。梅毒の感染拡大につながる安易な行動は避け、健康な毎日を過ごしていただきたいと思います」と語っています。

引用
国立感染症研究所 感染症発生動向調査週報 2023年46週(11/13〜19)、感染症動向調査で届けられた梅毒の概要(2023年10月4日現在)、IDWR2022年第42号〈注意すべき感染症〉梅毒、妊娠梅毒の治療、
厚生労働省HP:梅毒、梅毒に関するQ&A

取材
大阪府済生会中津病院院長補佐 感染管理室室長 安井良則氏

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