6月月間打率.358で実力示した佐藤輝明/井上広大/森下翔太と共に期待の阪神の未来の和製中軸候補とは!?【プロ野球ブレイク候補2024】

“普通”ではない近未来の虎の中軸候補!振る力とミート力を備えた左の好打者

︎阪神タイガース 前川右京

投手はやりません。野手一本で行きます

プロに行く選手、プロの世界で活躍する選手というのはやはりやはり、どこか違う考え方であったり、実践力をもっているような気がするな…と思う。2021年、阪神のドラフト4位で指名された前川右京もその一人。名前は「まえかわ」ではなく「まえがわ」と読むこの選手を甲子園の活躍で知った方も多いのではないだろうか。

その前川右京、中学時代は地元・三重の津ボーイズでプレーし奈良の智弁学園に進学。当初は投手として評価を受けており、智弁学園が興味を示したのも「左投げの投手」としてだった。同校の小坂将商監督からも「エースになってくれよ!」と声をかけられたという。ところが前川右京は「投手はやりません。野手一本で行きます」と、まさかの返答。小坂監督も目を白黒させたというのだが、前川右京はこの時から入学するまでの間に「1年からレギュラーを獲って、甲子園で活躍する」と自らに言い聞かせて一日5時間の猛練習を積み、食トレとして白米一日6合をノルマに自身に課し、60キロの体を80キロに増やした別人のような体つきで智弁に入学、小坂監督をまたまた驚かせたという。

このエピソードを聞いて思い出したのがPL学園時代の桑田真澄だ。

いわゆる“ド昭和”時代であった80年代。その頃といえば監督のいうことは絶対のはずなのだが、時のPL学園の中村順司監督が春先のある日、投球練習で変化球を投げるよう指示したところ桑田は「今の時期はまだ寒いので変化球は投げません。温かくなってきてから投げます」と返答したというのだ。時が変わったとはいえ、監督からかけられた言葉に対して堂々と自分の考えを言ってのける(つまりは“却下”する)あたり、この前川右京という選手も桑田同様、ただ者ではない。

ドラフト時と現在地の、変わることのない評価

ちなみに前川右京は、その宣言から間もない1年春の段階でレギュラーどころか4番を任され1年夏、2年夏の交流戦、そして3年の春・夏と4度甲子園に出場。特に3年の最後の夏は6試合で打率.455、2本塁打、7打点でチームの準優勝に大きく貢献。高校通算37本塁打の堂々とした成績で同年(2021年)ドラフト4位で阪神に入団した。

当時のサイズは177cm、90キロ。特に目につくのは下半身のデカさで見るからに長距離砲なのだが、前川は力頼みにあらず。当時のスカウトの間でも評判だったのがバットコントロールの巧みさだ。巨人の榑松伸介アマスカウト(統括部次長)の言葉が、わかりやすい。

「パワーはもちろんですが、高校生離れした打撃技術の高さが目につきました。スイングの軌道が水平となっている時間が長いため、ミートポイントを広く持てる。それがボールを運ぶテクニックにつながっています。パワーと確実性を兼ね備えた好打者です」。さらに「思いきりのよさ、勝負強さが魅力。左投手も苦にしない」(楽天・後関昌彦スカウト部長)という評価は、ドラフトから2年が経過した今でもピッタリ当てはまる。

振る力は、高いレベルに位置する打者の原点

阪神のOBで元監督の金本知憲氏も2022年のオープン戦で、前川右京が球団高卒新人として1974年の掛布雅之氏以来となるオープン戦マルチ2安打を記録した試合を見て、こんなコメントを残している。

「正直ビックリ。“バットを振れる”“振る力がある”という驚き。初対面は昨年2021年2月。その時も“振る力はある”と感じ、恵まれた体格を活かして飛ばす力もあった。ただ、当時はいわゆる自分のツボのボールが来ないと打てないのではないか…とも感じ、その理由からプロに入っても少し時間がかかるのでは…と感じたことを覚えている。しかし昨夏、テレビで見たときは印象がガラリと変わっていた。ひと言でいうと柔らかいスイングに変わり、柔軟性のある打撃へと変貌を遂げていた」という。

金本氏はこの時、高卒ルーキーとして「開幕一軍もあり得る」と公言。結果的に同年は上半身のコンディション不良の影響もあって一軍出場なしに終わったが、2年目の今季は5月30日の交流戦、西武戦でプロ初の一軍昇格、プロ初出場初スタメンを果たすと6月には月間打率.358。交流戦で一時的に勢いをなくしたチームを下支えする活躍をみせた。その後は相手に研究されたこともあり調子を落とし、夏場にはコンディション不良に陥ったが、フェニックスリーグで実戦復帰。

思い返せば、阪神の山本宣史スカウトが2021年のドラフト当時、「将来的に球団として期待しているのは佐藤輝明、井上(広大)、前川右京の3人でクリーンアップを打てたらいいなと思っています」とコメントしているのだが、前川右京は今年既にクリーンアップを経験。井上のブレイクはもう少し先になるかも知れないが、打の大黒柱・大山を中心に、佐藤輝明とルーキーの森下翔太、そして前川右京を絡めた和製中軸は、来シーズンのスタンダードになっても不思議はない。そして、実際にそうなるようであれば、阪神のリーグ連覇は堅い…と思うのだが、皆さん、いかがだろうか。

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