「今の若い選手達は焦っている」岡崎慎司が語る、試合に出られない時に大切な『自分を極める』感覚

プロサッカー選手、特に前線でプレーする選手は得点、アシスト数で評価されることが多い。ただし、世界中のトップ選手がしのぎを削る欧州の地で、そのような「結果を出す」ことは簡単なことではない。では、そもそも思うように試合に出られない状況のとき、選手たちはどのような“心持ち”でいるべきなのか? 欧州4カ国を渡り歩き、海外生活14シーズン目となる岡崎慎司の言葉に耳を傾けてみよう。

(インタビュー・構成=中野吉之伴、写真=アフロ)

例えば上田綺世。彼は優れた選手であるとの評価を受けながら…

プロの世界は結果がすべてだといわれる。多くの選手が口をそろえて「結果を出すことが大事」と言葉にする。

では結果とは何だろう?

今の時代はさまざまなデータが参考にされるようになってきている。ゴール、アシストだけではなく、得点につながる可能性が高いプレー率としてゴール期待値、アシスト期待値という数値もメジャーになってきている。走行距離にしても、どのくらいのスピードでいつ、どこで、どんな頻度で走ったのかが試合後すぐにわかる時代だ。ボールコンタクトやパスの回数や成功率というのも数字化されやすい。「結果」として評価されるプレーとは、やはりチームを勝利に導く貢献度と密接な関係性があるのも重要なポイントだろう。

いずれにしても、「結果を出す」ためには試合に出場しなければならない。試合に出られなければどんな結果も出すことはできない。とはいえ、試合に出られる選手には限りがある。どんなチームでも11人のスタメン+4〜5人が主軸選手として数えられ、限られた出場時間のほとんどはこの十数人によってカウントされることになる。優秀な選手として評価されていても、同クラブの同ポジションにそれを凌駕する選手がいたら、なかなかピッチに立つこともできない。

例えば今季オランダの強豪フェイエノールトへ移籍を果たした日本代表FW上田綺世。彼は非常に優れた選手であるとの評価を受けながら、チームの絶対的エースであるメキシコ代表FWサンティアゴ・ヒメネスの牙城を崩すことができずにいる。ベルギーリーグのサークル・ブルッヘでプレーした2022-23シーズンには得点ランキング2位となる22ゴールを記録するなど見事な活躍を見せただけに、上田自身も自信を持ってのステップアップ移籍だったはず。一定以上の出場機会は得られるはずという声が大半だったが、今シーズン、現時点では満足のいく出場機会は確保できずにいる。

起用されないことには、試合でアピールをして結果を出すことができない。選手にとってそうした環境で日々過ごすのは簡単なことではないだろう。こうしたときに選手はどのような心持ちで、どこに活路を見出すべきなのだろうか?

「今の若い選手たちは、焦っている選手が多い」

「今の若い選手たちみんなに言えることかはわからないんですが、焦っている選手たちが多い気がしています」

声の主は岡崎慎司。

日本代表FWとして通算119試合に出場し、50得点を挙げたストライカーだ。2011年にドイツ・ブンデスリーガのシュツットガルトへ移籍を果たすと、その後マインツで2シーズン活躍し、プレミアリーグのレスターへ移籍。クラブ創設132年で初のプレミアリーグ優勝メンバーの一員となった岡崎は、ミラクル・レスターの歴史的偉業に貢献した一人として、今もファンから最大限のリスペクトを受けている。レスターの後はスペインのウエスカ、カルタヘナでプレーをし、現在はベルギーリーグ1部のシントトロイデンで2シーズン目を迎えている。

輝かしい戦績を重ねている岡崎だが、なかなか出場できない苦悩の時代もあっただけに、その言葉には重みがある。

「俺も例えばシュツットガルトでプレーしていたときとか、焦っている時期はありました。焦ること自体は大事だと思うんです。でもそれより大事なのは、『いかにチームメイトや監督を認めさせることができるのかを考えられるか』だと思うんですよ。

今の選手たちは、ステップアップするために、早く結果を出さなきゃいけないって考えがちだと思うんです。でもそうではなくて、今いる場所で、自分が周りを認めさせるにはどうしたらいい?ということを常に考えてやることが必要だと思うんです。

そうすれば、仮に試合に出られなかったとしても、じゃあ次の練習でもっとこういうことを意識して、こういうところをアピールして監督に認めさせようとか、具体的な目標を見つけることができる。最近の子たちを見ていると、試合に出る出ない、結果を出した出さないで一喜一憂しすぎる選手が多いなと感じています。

まずは今いるチーム、今いる環境で何をすべきかに集中して、焦りすぎずに取り組む。そうすれば、自然と後からいろんなことがついてくるはずだと思います」

「遠藤航がリバープールに移籍したのも…」

誰だって試合に出たいし、次のステップをできるだけ早くに踏みたい。過去の成功例がメディアにあふれ、それだけが唯一の正しいルートであるかのような雰囲気さえ醸し出される。でも、それらは参考になることはあっても、同じようにすることが自分にとっての絶対的な正解であるわけではないのだ。まずは今いる環境で自分にできることを正しくピッチで表現できるようになれなければ、長い視野で見たときに厳しいプロの世界で生き残り続けることはできない。

「時代が変わってきている。結果を出したからといってすぐに上のチームが取ってくれるかもわからない時代なんです。ステップアップってすぐにできるものだと思われているかもしれない。ここで活躍して、次はあそこに移籍して、その次は……みたいな。

でも、今はそういう時代じゃないっていうことをそろそろ認識してもいいと思うんです。サッカー界全体でどのクラブも獲得に慎重になっているんです。そうした時代の流れを冷静に見なきゃいけない。チームのサッカーに本当にかみ合うと思われる選手じゃないと動かない」

どれだけ活躍をしても、契約条件で移籍が難しいこともある。選手補強は相対的な評価も重要になる。費用対効果でどれだけクラブにとってプラスになるかを考えて動く。選手としての評価はAのほうが上でも、そこにかかる費用がクラブ予算を脅かすものになるのだとしたら、多少ランクを落としてBやCの獲得に動く。あるいは、中心選手の移籍やケガ、狙っていた選手との交渉決裂で、当初は筆頭獲得候補ではなかった選手に白羽の矢が立つこともある。

世界中の選手がそうした流動性の中でふるいにかけられており、どこどこのリーグでどれだけ点を決めたりアシストをしたかだけではなく、いくらで獲得できるのか、どんなプレーを得意とするのか、どんなパーソナリティーを持った選手なのか、コンディションは万全か、どんなタイプの選手だと今のチームのパフォーマンスアップにつながるのかをクラブは常に精査しているのだ。

「遠藤航がリバープールに移籍したのも、もちろんあいつの頑張りがあるっていうのがまず大きいですけど、いろんなことのかみ合わせでそうなったというのもあったはず。でもそこで最終的にリストアップされたのは、あいつがシュツットガルトで継続して3年間ぐらいずっといいプレーをしていたというバックグラウンドを持っていたからですよね」

試合に出られないのは選手として間違いなく苦しいし、厳しいことだ。頑張りが評価されないのは誰だってこたえるし、その状況が続くと不安にもなる。加えて、自分のパフォーマンスが良くないから出られないという理由だけではないのが、サッカーの難しいところだ。主軸選手との相性、チームの状態、監督の嗜好。いろんなことが影響したりする。

『サッカーにおける時間の流れはすごく速い』

一つのきっかけで一気に状況が急変することもある。

元日本代表キャプテンの長谷部誠は『サッカーにおける時間の流れはすごく速い』というドイツ語の言葉をよく引用する。「思わぬタイミングでいきなりチャンスがきたりする」と。「だからこそ、常にそうしたいつか来るであろうチャンスに向けていい準備をすることが大切」だと長谷部は強調する。

岡崎も同じようなことを話していた。

「結局一選手にできることってそんなにないと思うんですよね。気をつけないと、うまくいかないことをどこか他人のせいにしてしまったりする。そうではなくて、やっぱり矢印は自分に向けてほしい。今の状況を必要以上に苦しいって思わないためにも、『自分を極めていく』という感覚でやってたほうがいいんじゃないかなって」

高い目標を掲げることは大切だ。一方で、そこへの意識が強くなりすぎてしまい、自分を見失ってしまったら元も子もない。自分の現在位置を見つめ、今自分に足りない部分と向き合い、自分の武器に磨きをかけ、チームで居場所をつかむために今できることに精一杯チャレンジする。時に寄り道になることもあるだろう。でもその寄り道は自身をより豊かにしてくれる。

これは何もプロサッカー選手に限った話ではない。どんな仕事をしている人にも当てはまることだし、育成現場でサッカーをしている子どもたちみんなにとっても大事な話ではないだろうか。

2005年にJリーグ・清水エスパルスに入団した時の岡崎は、8人FWがいる中で8番手だった。そこから彼は、あらゆる苦難やハードルを乗り越えて、ついにはプレミアリーグ優勝メンバーにまで飛翔。37歳となった現在も欧州の地でプレーし続けている。

そんな百戦錬磨の岡崎慎司の言葉には、数多くの含蓄が含まれている。

【連載後編】なぜ岡崎慎司はミラクル・レスター時代を後悔しているのか? 日本人が海外クラブで馴染めない要因とは

<了>

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[PROFILE]
岡崎慎司(おかざき・しんじ) 1986年4月16日生まれ、兵庫県出身。ベルギー1部・シント=トロイデン所属。滝川第二高校を経て2005年にJリーグ・清水エスパルスに加入。2011年にドイツ・ブンデスリーガのシュツットガルトへ移籍。2013年から同じくブンデスリーガのマインツでプレーし、2年連続2桁得点を挙げる。2015年にイングランド・プレミアリーグ、レスターに加入。加入初年度の2015-16シーズン、クラブ創設132年で初のプレミアリーグ優勝に貢献。2019年に活躍の地をスペインに移し、ラリーガ2部のウエスカに移籍。リーグ戦12得点を挙げてチーム得点王として優勝(1部昇格)に貢献。2021年8月より同じくラリーガ2部のカルタヘナでプレー。2022年8月にベルギー1部・シント=トロイデンへ移籍。日本代表としても、歴代3位の通算50得点を記録し、3度のワールドカップ出場を経験。2016年にはアジア国際最優秀選手賞を受賞している。

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