脾臓に転移、体重15㎏減…2度のがん闘病乗り越え大学ラグビー全国選手権へ 福井県出身の富田凌仁選手「仲間や親に恩返ししたい」

天理大学―京都産業大学で果敢に攻め込む天理大学の富田凌仁選手=12月2日、大阪府東大阪市の花園ラグビー場

 大阪府東大阪市で12月2日、ラグビーの関西大学リーグ最終第7節が行われ、天理大学が京都産業大学に22-23で敗れ、準優勝となった。3年ぶりの関西王者を逃し、悔しさに包まれる選手の中に福井県立若狭東高校出身の富田凌仁(りょうと)選手(21)がいた。血液のがん「悪性リンパ腫」など大学在学中に2度の闘病生活を経験し、4年生の今春に復帰。「支えてくれる人がいるからラグビーができている。感謝しかない」と話す。

 ともに6勝の全勝対決という大一番に富田選手はプロップで先発出場。170センチ、102キロの体から繰り出す強烈なタックルで相手の出足を止め、スクラムの最前線で体を張り、後半20分までプレーした。優勝は逃したが、全国大学選手権への出場権は得たため「まだ終わった訳じゃない。目標は日本一」と前を向く。

 福井県小浜市出身。尊敬する父と同じ若狭東高校でラグビーを始めた。「花園」に2度出場したが最高成績は1回戦突破。「強いチームでやりたい」と天理大学に進むと高校時代約30人だった部員は約170人もいた。自信があったタックルは同級生にすら歯が立たず「打ちのめされた」。だからこそ夜遅くまで自主練習に打ち込んだ。高校時118センチの胸囲は130センチにまでなった。レギュラーが着る「黒いジャージー」をつかんだのは大学2年の秋だった。

 病魔に襲われたのもこの時だ。左のほほから鎖骨までが腫れ、病院で医師から「悪性のがん」と告げられた。隣で母は泣いていた。「おかん大丈夫や。がんなんて風邪みたいなもんやから」。家族の前では気丈に振る舞った。監督ら一部にだけ病気のことを伝え、リーグ戦には出場。年明けから開始した放射線治療は1カ月ほどで終わった。

 しかし、約10カ月後の昨秋、脾臓への転移が判明。「またか…」。今度は抗がん剤治療が必要だった。寮の食堂で仲間に病気のことを打ち明けた。「髪の毛抜けるから、そっとしておいてくれや」と冗談っぽく言ったが、誰も笑わない。2度目の闘病生活は半年間。2週間に1度の治療で「毎日吐き気がすごかった」。体重は15キロほど減った。

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 今年4月、練習は再開できたがすぐに息は切れ、145キロを上げていたベンチプレスは100キロも無理。それでも「もう一度、黒のジャージーを着たい」と走り込みや筋力トレーニングを重ね、わずか2カ月で体重と筋力を取り戻し、大学最後のリーグ戦で背番号「1」を勝ち取った。

 闘病中は練習で仲間が飲む水を運び、動画撮影を手伝い、裏方としてサポートした。2度の闘病生活を経て「支えられている」との思いも強く芽生えた。「生きていることすら当たり前じゃない。毎日の練習、一つ一つのプレーを無駄にせず、最後の全国選手権では仲間や親にしっかり恩返ししたい」。そう誓った。

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