一生に一度の大見得…秩父夜祭、張り出し舞台で屋台芝居奉納 すし職人、郵便局員らが歌舞伎 16歳の主演も

大勢の見物客でにぎわった本町の屋台芝居=3日午後、埼玉県秩父市番場町の秩父神社

 秩父夜祭大祭の3日、埼玉県秩父市番場町の秩父神社境内に張り出し舞台が設置され、当番町の本町有志と、秩父歌舞伎正和会が屋台芝居を奉納した。本町有志は、演目「白浪五人男 稲瀬川勢揃(ぞろ)いの場」を6年ぶりに披露。秩父歌舞伎正和会は「神霊矢口渡 二段目新田本城八郎物語之場」を夜祭の場では初めて上演した。満員の神社境内は、熱い拍手と威勢のいいかけ声が飛び交い、役者、見物客が一体となってにぎわいをつくり出した。

 屋台芝居は本町、中町、上町、宮地の4町会が毎年交代で実施する。高さ約6.7メートル、幅約3.3メートル、重さ約13トンの重厚感あふれる本町屋台は、午前の曳行(えいこう)を終えて秩父神社に到着すると、屋台の両脇を広げて幅約11.2メートルの豪華舞台に変化。客席正面の右側に三味線語りの義太夫、左側に下座音楽を演奏する本町達磨(だるま)会が入り、役者を引き立てた。

 本町は1993年から秩父歌舞伎正和会の指導を受け、町内関係者が素人役者として出演。コロナ禍の影響もあり、屋台芝居を本町が担当するのは2017年に「白浪五人男」を演じて以来となる。今年9月から稽古に励んできた本町有志たち。本番は、見物客の目をくぎ付けにする立ち振る舞いと長ぜりふを披露し、熱い声援を浴びていた。

 日本駄右衛門を演じた鈴木崇文さん(51)は「舞台の上からたくさんの方に見られるのは、やはり気持ちがいい」と、上演後に満面の笑みを浮かべた。

 主役を演じた5人は会社員や教員、すし職人、郵便局員などさまざま。本番3カ月前に配役が決まり、一から歌舞伎の所作を学んだ。鈴木さんは「役者は毎回交代するので、全員が一生に一度の舞台。今後も多くの若者に、ここに立つ感動を味わってほしい」と話した。

 秩父歌舞伎正和会の舞台では、初主演を務めた高校1年生の吉田優毅さん(16)の活躍が光った。吉田さんは、市立花の木小学校「歌舞伎クラブ」で経験を積み、小学卒業後に正和会メンバーになった。これまでは女形ばかりだったが、今回は男役の主人公、篠塚八郎重虎を演じた。

 上演後、吉田さんは「今までにない大役だったので、相当緊張した。多少ミスはあったが、冒頭のせりふ回しは今までで一番うまくできた。来年も夜祭の大舞台で最高の芝居を披露したい」と意欲を見せた。

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