【香港】仙台と山形の伝統工芸が協力[経済] 門間箪笥店、香港でフェア開催

宮城県の伝統工芸品として知られる仙台箪笥(たんす)の門間箪笥店(仙台市)が、山形県産工芸品の展示販売会を香港の直営店で開催している。国内市場の縮小で海外に活路を求める日本の伝統工芸が、地域の垣根を越えて市場開拓で協力する。山形県はこれを足がかりに香港の富裕層らに県産工芸品の魅力を知ってもらい、輸出拡大につなげたい考えだ。【福地大介】

門間箪笥店の旗艦店で島津氏(左)と門間氏=3日、ハッピーバレー(NNA撮影)

門間箪笥店は香港島・ホウ馬地(ハッピーバレー、ホウ=あしへんに包)に路面店があり、同・銅鑼湾(コーズウェーベイ)の百貨店「崇光(そごう)」にも出店している。「山形クラフトフェア」と銘打った展示販売会は、在香港日本国総領事館と香港日本人商工会議所の後援を受け、山形県との共催により両店舗で来年1月28日まで開催する。

山形県は昨年、フランスと台湾で県産工芸品のテストマーケティングを行っており、香港では今回が初の試み。香港を訪れた県産業労働部県産品流通戦略課の島津達也主査は「牛肉など食品の海外輸出は商流ができてきた。山形は工芸品の事業者が多く、新たな輸出商品として支援していきたい」と説明した。

県によると昨年はフランスで15事業者、台湾は10業者が参加し、1カ月間でそれぞれ約66万円、約20万円を売り上げた。今回の香港では20業者が参加しており、テストマーケティングへの期待の高さがうかがえる。島津氏は「門間箪笥店という成功事例があることにも勇気づけられている」と話す。

■富裕層に期待

門間箪笥店は創業150年を超える老舗で、門間一泰社長は7代目。製造する仙台箪笥は仙台藩にルーツを持ち、磨きと漆塗りを重ねて表面を鏡のように仕上げる「木地呂塗(きじろぬり)」の技法などで知られる。

とはいえ、国内市場は少子高齢化と長引く景気の低迷でバブル期から大幅に縮小。「今はもう大きいものは売れない。古くなった箪笥の直しが主になった」(門間氏)といい、海外に活路を求める形で香港に進出した。2017年から崇光での販売を開始し、21年に旗艦店となるショールームをハッピーバレーに構えた。

自社の箪笥だけでなく、箪笥の利用シーンに合う家具全般を取り扱っているのが特徴で、職人が作るカスタマイズ可能な工芸品を提携業者から仕入れて販売する。箪笥は日本円で1棹(さお)1,000万円を超える商品もあるが、本来の用途だけでなく部屋を装飾する高級インテリアとして需要があるという。現在は香港をはじめとする海外市場が売上高の8割を占めている。

同社はこれまでの経験とノウハウ、香港の店舗を生かし、他社の海外進出支援も積極的に手がけている。今回の山形県とのコラボは、知人の依頼を受けて同地の伝統工芸支援の可能性を探っていた門間氏と、工芸品の輸出促進を図りたい県の意向が合致して実現した形だ。

展示販売会に出品されている工芸品は、山形建具や山形鋳物、酒田船箪笥、米沢織、漆器、陶磁器、畳製品、桃の実工芸品など多岐にわたる。珍しい砂鉄製の鉄瓶が約17万HKドル(約320万円)など高額品も含むが、富裕層が多い香港の消費力と門間箪笥店の客層に期待している。

■後継者育成につなげたい

門間箪笥店が香港に進出し、山形県が工芸品の販路を海外に見いだそうとするのは、いずれも伝統の継承に対する強い危機感があるからだ。門間氏は、伝統工芸が「子に継がせられない、弟子を取れない」仕事になっていると指摘する。手をこまねいていれば遠くない将来に商売が行き詰まり、長年にわたり磨かれてきた技術が失われてしまうことになりかねない。

「海外へのチャレンジが展望できれば若い人が入ってきやすくなる」と島津氏。今後も香港などでのマーケティングを継続し、本格的な輸出に意欲のある事業者には商流の確立を県として支援していく構えだ。

山形県の工芸品を紹介する「山形クラフトフェア」は来年1月28日まで=3日、ハッピーバレー(NNA撮影)

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