日本酒最古の技法で格別の味 室町期に誕生「水酛仕込み」で酵母作り 兵庫県内唯一、明石・江井ヶ嶋酒造

蒸し米をタンクに入れ、酒母を作る職人ら=明石市大久保町西島

 日本酒の銘柄「神鷹」で知られる江井ヶ嶋酒造(兵庫県明石市大久保町西島)が、一風変わった製法の酒造りに取り組んでいる。500年以上前に生み出されたが、量産化が進んだことで一度は廃れた「水酛(みずもと)仕込み」と呼ばれる技法で、県内で行う酒蔵は他にないという。同社の担当者は「本業の日本酒造りの柱にしたい」と話す。(谷川直生)

 水酛仕込みは、清酒酵母を大量培養した「酒母(しゅぼ)」の作り方の一つ。生米を水に浸して乳酸菌を繁殖させ、雑菌を抑えながら酵母を繁殖、発酵させる技法で、室町時代中期の奈良で誕生したとされる。「菩提酛(ぼだいもと)仕込み」とも呼ばれ、日本酒の製法としては最古との説もある。

 近年では日本酒の9割が人工的な乳酸菌を加える「速醸仕込み」の方法で作られる。一般的に速醸系酒母が1~2週間でできるのに対し、水酛の酒母は4週間を要する。手作業で行うため手間暇もかかるが、しっかりとした味に仕上がるという。

 江井ヶ嶋酒造では、奈良県の酒蔵でも杜氏(とうじ)を務めた中村裕司杜氏(52)が中心となり、2017年に水酛仕込みを始めた。「酒蔵が生き残るためには他とは違うことをやらないといけない」と語るのは取締役の光永孝販売部長。「認知度は徐々に高まっており、リピーターも増えている」と手応えを口にする。

 今年の仕込みは11月初旬に開始。中村杜氏や蔵人らが、食用米の日本晴を仕込み水につけ、10日間かけて乳酸菌を繁殖させた後、こうじや酵母、蒸した米などを加えた。水につけ込んだ米は蒸すと通常より柔らかくなるため機械が使えず、運搬や放熱などを全て手作業で行った。

 1万5千リットル、一升瓶で約8千本分をつくる計画。今季の酒は熟成期間を経て来秋の販売を予定している。

 深みのある山吹色も特徴で、中村杜氏は「少し甘口ながら酸味とキレのバランスがいい」と説明。燗を付けておでんや魚の煮付けなどと味わうのがおすすめといい、「吟醸酒のような派手さはないが料理に合う。最古の手法の日本酒を味わってほしい」と話している。

 現在は昨季に仕込んだ酒を販売中。「神鷹 純米酒水酛仕込み」は同社オンラインショップやスーパーなどで購入できる。720ミリリットル1040円。

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