国内生成AIの利用実態に関する法人アンケート調査を実施(2023年) 約1割の企業が既に生成AIを活用中、約2割の企業が将来的な活用を検討しており今後も活用する企業は増加していく見込み

株式会社矢野経済研究所(代表取締役社長:水越孝)は、国内生成AIの利用実態に関する法人アンケート調査を実施し、今後の事業展開と展望について分析、考察した。ここでは現行の生成AI活用状況について取り上げる。

1.調査結果概要

2022年に相次いでリリースされた生成AIのサービスは日本国内でも大きな話題となり、企業でも導入されるようになった。本調査では2023年6月~8月に国内民間企業(プロセス製造業、加工組立製造業、サービス業、流通業、金融業)538社を対象に生成AIの利用実態に関する法人アンケート調査を実施した。生成AIの活用について「全社的に活用している」が1.3%、「一部の部署で活用している」が8.6%という結果であった。さらに「現在は活用していないが、将来的に活用したいと考えている」の回答率は20.8%であり、活用に意欲的な企業は一定数いることから、今後も活用する企業は順次増加していくことが示唆される。

一方で、3.2%の企業は「活用を禁止している」と回答している。登場して間もない技術であり、活用方法が曖昧なだけでなく、情報漏洩といったセキュリティについても十分な理解は浸透していない。こうした部分に懸念を抱く企業が一定程度存在するものと考える。一般的に活用が進むことで理解が進んだり、社内活用におけるガイドライン等の整備が行われていけば、こうした企業も活用を検討していく可能性はあるとみる。

2.注目トピック~ベンダーは活用事例の創出に注力

現下、ベンダー各社ともユーザー企業から生成AIについて、試験的に利用したい意向はあるものの、その活用方法について不案内であるといった内容の問い合わせを多く受けている。先端技術の理解を深めるという点ではまず利用してみるというのは価値がある。しかし、企業が活用する以上、利益に結び付けなければ継続して利用する価値は失われる。懸念されるのは、事業領域への活用方法が分からないといった理由で、導入したユーザー企業が生成AIの利用をやめていくということである。

一方で、具体的な活用方法をイメージしているユーザー企業も存在する。ベンダー各社がこれらのユーザー企業と協力して生成AIの活用事例を事業化できれば、ビジネス活用できず利用をやめたユーザー企業に対して、再び生成AIを導入する機会を提供することができる。かつてクラウドが登場した際に日本では普及が進まず、そのまま海外の企業に大きな後れを取ることになった。生成AIではこのような事態にならないように早急に活用事例の創出が求められることから、ベンダー各社は具体的な活用イメージを持つユーザー企業と積極的に実証実験を行っている。

実際の活用について、生成AIは業務効率化といったコスト削減を目的とした利用が進められているものの、生成AIは様々な技術やサービスと組み合わせることが可能である。この技術力の高さを考慮すれば、コスト削減だけではなく、新しいイノベーション(革新的な活用方法や事例等)の創出といった利益創出にも活用されるべきである。しかし、利益創出の活用方法はコスト削減を目的とした導入よりも活用範囲が広く、具体化することが難しい。そのため、まずはコスト削減を目的とした活用でノウハウを蓄積していき、利益創出に移行していく流れになると考える。

今後、生成AIは様々なサービスの中核技術となって組み込まれていくようになっていくとみる。生成AIがサービス価値を高める存在として扱われることになれば、生成AIのモデルそのもので対価を得るというのは難しくなる。こうしたなか、生成AIを有することで実現できる価値に対して対価を得る仕組みにしていく必要がある。生成AIを利用するユーザー企業(顧客)、あるいは社会全体への影響を踏まえ、適切な価値体系を構築する必要があるものと考える。

© 矢野経済研究所