「イスラエル国民の半数は政府とは異なる考え方」ホロコースト証言シリーズ第3弾『メンゲレと私』公開中! 監督の舞台挨拶JAPANツアー開催

『メンゲレと私』© 2023 BLACKBOX FILM & MEDIENPRODUKTION GMBH

「ホロコースト証言シリーズ」第3弾公開中

映画『メンゲレと私』は、戦争体験者の証言を記録し映画として保存するドキュメンタリー企画「ホロコースト証言シリーズ」の第3弾。本作の2週間限定の貴重な上映が、2023年12月3日(日)より東京都写真美術館ホールでスタートした。

さらに12月6日(水)からは、クリスティアン・クレーネスとフロリアン・ヴァイゲンザマー監督が大阪~広島~沖縄を巡る舞台挨拶ツアーも行われる。

苛酷な運命に翻弄された少年の数奇な人生

苛酷な運命に翻弄されながらも生き延びた、とある少年の数奇な人生を描く『メンゲレと私』。わずか9歳の少年が、リトアニアのカウナスにあったユダヤ人ゲットーから幾つかの強制収容所での生活を経て、パレスチナへ辿り着くまでの「放浪の日々」を記録した成長物語でもある。

ダニエル・ハノッホの家族がナチ・ドイツによってゲットーに収容されたとき、彼は9歳だった。その後、12歳の時にアウシュヴィッツ=ビルケナウ強制収容所に連行され、ランペと呼ばれる降車場で木製の荷車に死体を乗せて、クレマトリウム(ガス室や焼却場などの複合施設)へ運ぶ仕事に従事させられた。時にダニエルは、悪名高いヨーゼフ・メンゲレ医師の模範的な囚人役を務めねばならず、さらには戦争末期に、西部へと向かう“死の行進” に連行された。

終戦間際、オーストリアにあったマウトハウゼン強制収容所とグンスキルヒェン強制収容所で、ダニエルはカニバリズムを目撃している。本作は、“子供らしい時代” を過ごすことが出来なかったとある生存者の、少年時代の視点から、人類史の最暗部を浮き彫りにする。

「イスラエルの人々には、他者への寛容さも期待したい」

本作の上映初日、クリスティアン・クレーネス監督とフロリアン・ヴァイゲンザマー監督の舞台挨拶とQ&A、両監督と日本大学文理学部教授でドイツ映画研究者の渋谷哲也氏とのトークイベントが開催された。どちらも観客や渋谷氏の様々な質問により、多角的な視点で映画を紐解くイベントとなった。

同イベントでは、渋谷氏から「本作が、少年だったダニエルの視線で語られた点で、『ホロコースト証言シリーズ』の過去2作とは異なる特徴があること」が指摘されると、両監督は「少年ダニエルがあえて感情を殺し、冷静さを保ち続けたことで、44ヶ月間もの狂気の日々をくぐり抜けることができたこと。また、当時のダニエルが柔軟な少年であったことから、大人と比べて周りの状況を受け入れ、また、ここから解放されたら必ずパレスチナに行くのだ、という希望を抱き続けることができた点にある」と答えた。

また、現在のパレスチナの状況についての質問に対し、監督たちは「イスラエルの人々は数百年にわたり苦難を経験してきた。しかし、だからこそイスラエルの人々には、他者への寛容さも期待したい。今、政治面で色々と批判されてはいるが、イスラエルには二つのグループが存在しており、一つは、外国から見えやすい、しばしば批判の対象になる考え方の持ち主たちであり。それ意外のイスラエルの国民の半数は、政府とは異なる考え方を持ち、今の問題に対しても、寛容でリベラルな気持ちを抱いていること。ダニエルも寛容なイスラエル人であり、彼には個人的には許せないことがあるけれども、決して憎しみや復讐といった感情には囚われていない」と語った。

最後に監督たちは、「この映画は、自分たちが思う以上に現代的で、アクチュアルな作品となった。映画で世の中を変えることができる訳ではないが、この作品が、過去から現代を考えるための良いきっかけとなればと願っている。私たちは、時代の最後の証言者から過去を学ぶことができるし、そうしなければ、過去が未来になってしまう」と締めくくった。

【クリスティアン・クレーネス&フロリアン・ヴァイゲンザマー監督 舞台挨拶Japanツアー】

12/6 Wed. 第七藝術劇場(大阪)19:00から上映後 06-6302-2073
※特別ゲスト・アンナ・シャニ・ハノッホさん(テルアビブ からzoom出演)

12/8 Fri. 横川シネマ(広島)19:00から上映後 082-231-1001
※特別ゲスト・アンナ・シャニ・ハノッホさん(テルアビブ からzoom出演)

12/10 Sun. 桜坂劇場(沖縄)13:00から上映後 098-860-9555

舞台挨拶参加前にチェック! 監督コメント抜粋

「ダニエルはブロンドで青い眼で、アーリア的な特徴をもつ少年でした。おそらくそれが、彼が生き延びれた理由の一つだったのでしょう。強制収容所はとても危険な場所でした。しかしダニエルは、本能的に危険を察知し、回避する決断を、毎日のように下して生き延びました。自分を強く見せて、労働力があることもアピールしました。幼い少年が、ある日親から引き離され、言葉も、どこにいるのかも分からないような状況下で、そうして44カ月間も生き延びたとは、本当に信じられないことです」

「歴史的に“反ユダヤ主義”は、リトアニアでも、オーストリアでも、ドイツでも、ヨーロッパ各国で見られました。こうした思想は、すぐに広まるものではなく、少しずつ長い時間をかけて築かれるものなのです。ですから、現代でも私たちは、こうした動きに注視しなければなりません。歯止めをかけるタイミングを見極めなければならないのです。オーストリアは戦後、ナチスに加担した自国の罪を認めるまでに、大変時間がかかりました。政府が正式見解を出したのは1993年で、それまでに半世紀を要したのです。でも、このことによって、オーストリアの人々の姿勢が少しプラスに変わったと思っています」

「残念ながら、歴史は繰り返すものです。その危険性は、まだ排除されていません。私たちはこの映画を通して、過去の出来事の記憶や真実を、未来へと繋げようとしています。それが私たちの使命なのであり、モチベーションなのです」

『メンゲレと私』は2023年12月3日(金)より東京都写真美術館ホールにて2週間限定公開中(休館日:12/4[月]、11[月]、13[水])

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