冷え切った“仮面夫婦”の老後のリアル #3 「今の楽しみはこれしかない」

互いに関心も愛情も向けない仮面夫婦。それでも何とか生活してきたけれど、子どもたちが独立して自分も年を取り、その間もずっと他人のような存在感だった配偶者とはふたりきりの老後を迎えます。

関係に愛着のない配偶者と過ごす老後とはどんなものなのか、仮面夫婦のままやってきた人たちのリアルを実録で紹介します。

「夫とは30年以上仮面夫婦状態で、私は客間を自分の部屋として使い、家のなかにふたりきりのときも会話することはありません。

ふたりの娘がいて就職して家を出るまでは三人で過ごすことが多く、夫は蚊帳の外でも気にならないくらい、父親としての存在感も薄かったと思います。

次女が県外の会社に就職が決まったとき、『お父さんとは離婚するの?』と尋ねてきましたが、『そのつもりはないよ』と答えていました。

理由は娘たちが結婚するまでは両親の揃った家庭でありたいからで、私の価値観が古いことは承知していますが片親になって娘たちに肩身の狭い思いをさせたくありませんでした。

こんな気持ちを娘たちに話すことはありませんでしたが、『ふたりが無事に嫁ぐまでは』と思えば夫との暮らしも何とか耐えられましたね。

数年前に次女も無事に結婚が決まり、やっと肩の荷が下りた思いがしましたが、次に湧いてきたのは孫のこと。

離婚すればどちらかが家を出ることになるけれど、すでにご両親が他界している夫は行き場がないためここに居座るだろうし、そうなると私がひとり暮らしになるので孫の世話をするのが大変かもしれない、と思いました。

一緒に暮らしてはいるけれど食事は別々で洗濯や掃除も自分でやっている私たちは、このままでも特段問題はないように思えて。

夫から切り出されない限りは夫婦のままでいようと思い、60歳を過ぎた今も仮面夫婦で暮らしています。

夫は長年勤めた会社を定年退職しましたが、そのときはさすがに思うところがあったのか私がいる客間に来てそれを告げ、退職金について尋ねたら『俺の口座に入っているけど、今後のために使わずに置いておく』と言っていましたね。

今まで特に目につく浪費もすることなく地味に暮らしてきた夫だけど、娘たちが県外に出てからは連絡を取っていて、長女の結婚式ではきちんと父親の務めを果たす姿を見て、離婚しなくて正解だったと改めて感じました。

私はパートとして近くのスーパーで働き、夫は退職後すぐ小さな警備会社で同じくパート勤務のような感じで仕事をしているらしく、詳しくは知らないけれど毎月わずかな額を習慣のように渡してくれます。

こんな夫婦生活を寂しいなと感じるときも正直に言えばありますが、今の楽しみは孫の誕生で、そのときはまた夫と会話をする機会があるかもしれないとも思っています」(女性/61歳/小売業)

お話を伺っていると娘さんたちへの依存も感じられるこちらの女性ですが、夫婦生活が空虚になると子どもたちへの関心が強くなるのもよくあるケースで、自分の生き方を子どもたちに合わせ続けることで精神のバランスをとっているともいえます。

他人が口を出すことではなく、その生き方を続けた結果の老後についても、ご自身でしっかりと受け止めることを考えるばかりです。

(ハピママ*/ 弘田 香)

© ぴあ朝日ネクストスコープ株式会社