日々心を消耗して生きる人々に寄り添う、再生の物語
「たとえわたし一人いなくたって、世界は回っていく」と人生に諦めを感じている一人の女性が、疎遠になっていた元同級生との偶然の再会をきっかけに、自分らしさを取り戻していく姿を描いた映画『朝がくるとむなしくなる』が、渋谷シネクイントほか全国順次公開中だ。
日常の中で積み重なる小さな幸せと、大人になってから少しずつ育まれる友情に、静かに胸を打たれる本作。働くこと、学校へ行くこと、生活していくこと――。日々、心を消耗して生きる人々にそっと寄り添う、爽やかな感動作となっている。
何も起こらない毎日。偶然の再会をきっかけに日常がそっと動き出す
24歳一人暮らし、会社を辞め、コンビニでアルバイトとして働く希。慣れない接客業に戸惑い、店長の冗談をうまくかわせず、職場では何かと肩身の狭い思いをしている。母親には退社したことをいまだ伝えられていない。実家から送られてきた大量の野菜をよそに、コンビニ弁当とカップ麺で食事を済ませている。何も起こらない毎日。むなしい思いで、今日も朝を迎える。
そんなある日、中学時代のクラスメイトだった加奈子がバイト先にやって来る。思わぬ再会に、最初はぎこちなく振る舞う希であったが、何度か顔をあわせるうちに加奈子と距離を縮めていく。ボウリングや居酒屋での楽しいひと時。加奈子との偶然の再会で、希の日常が少しずつ動き出していく……。
キャストと監督の“信頼”が紡ぐ、やさしく親密な映像
監督・脚本は、MOOSIC LAB 2018で長編部門作品として制作された初長編『左様なら』が全国20館以上で公開され、ドラマや舞台、MVなど活躍の場を広げる石橋夕帆。長編2作目となる本作では、第18回大阪アジアン映画祭インディ・フォーラム部門「JAPAN CUTS Award」を受賞。北米最大の日本映画祭、第16回JAPAN CUTSに正式出品、さらに第24回TAMA NEW WAVE ある視点部門にも選出されている。
そんな石橋監督が当て書きをしたという主人公・希を演じるのは、『寝ても覚めても』で脚光を浴び、『の方へ、流れる』『死体の人』と主演・ヒロイン作が続く唐田えりか。人生を模索する女性を等身大で体現し、新たな境地を切り拓く。希を優しく受け止める加奈子役に、『ソワレ』『ひらいて』など話題作に出演し、スクリーンでの存在感を強める芋生悠。石橋とは『左様なら』に続くタッグとなる。
実生活でも10代の頃からの友人で、共演は初めてとなる唐田と芋生。そんな2人の関係性から脚本を練り上げた石橋監督。彼女たちの信頼関係が紡ぐ、やさしく親密な映像に目を奪われる。
『朝がくるとむなしくなる』は渋谷シネクイントほか全国順次公開中