SB国際会議2023サンディエゴ:企業は世界各地の“ローカル”とどうつながるべきか

Micah Kane images credit : Sustainable Brands

10月に開かれたサステナブル・ブランド国際会議2023サンディエゴでは、さまざまなセッションやイベントを通して、これまでのビジネスを見直しながら、ビジネスが社会にどのような影響をもたらせるかを探った。今年の会議のテーマは「Regenerating Local(リジェネレイティング・ローカル)」。リジェネラティブな社会経済の実現は、企業・ブランドが関わりを持つ世界各地のローカル、またはコミュニティから始まるという意味だ。ここでは、今年のテーマに関係するイベントやセッションを紹介する。(翻訳・編集=小松はるか)

マウイ島の山火事から考える、真にローカルとつながるということ

4日間にわたって行われた会議の2日目の夜は、1916年設立の非営利団体ハワイ・コミュニティ・ファウンデーションのマイカ・ケイン会長兼CEOを招き、2023年8月に発生したマウイ島の山火事をテーマに、企業がローカルと関わる上で大切なことは何かを考える、会議のテーマの核心に迫る特別イベントが開かれた。

ともに登壇したのはリパーパス・グローバル(rePurpose Global)の共同創業者アーディティヤ・シロヤ氏。サステナビリティに携わる人たちでさえも、掲げる目標や宣言と、その実現に必要な現場の変化との間に多くの断絶があると切り出し、セッションは始まった。リパーパス・グローバルは、米ペンシルベニア大学ウォートン・スクールで出会った3人の社会起業家が立ち上げた世界規模でプラスチック廃棄物の問題に取り組むプラットフォームだ。

「私たちが世界中で災害の余波を受けているのは、地域の再生に投資してこなかったからであり、そもそもの原因は、生態系を回復させることを選んでこなかったからです。リパーパスでは、プラスチック汚染という非常に異なる課題に重点を置いていますが、プラスチック汚染に取り組むなかでさえも、私たちは、(負の影響を長引かせる多くの)複雑で絡み合った社会的課題の縮図を目にします。だからこそ、一緒に、こうした複雑さを認め、その正体が何であるかを認識し、複雑なつながりを受け入れ、そうした相関関係のなかで徐々に前進していけることを願っています」

Adi Saroya and Micah Kane images credit : Sustainable Brands

ケイン氏は、マウイ島の山火事への企業や慈善活動による支援に心からの感謝を伝えた。さらに出席者に対して、マウイ島をはじめ、ますます頻発する壊滅的な災害の見過ごされがちな根本的原因と、その被害を最も受けるコミュニティのことを、業務の際にも念頭においてもらうよう出席者に懇願した。

「このような重要な時期に私たちがここにいることに意味があると思います。私は今日、マウイ・ストロング基金について話すためにここにいます。しかし、世界の他のコミュニティでこうしたことが起こらないためにも、私は起こるべき変化について伝えるアンバサダーであることの方により関心があります」

続けて、ケイン氏は会場でいくつかの出会いがあったと話し、そのなかの一人、国際NGOケア(CARE)で企業連携の責任者を務めるクリス・ノーブル氏には、マウイ島や自然災害から復興しようと取り組むすべての地域には「投資よりも注目を集めることの方がより重要だ」ということを明確に伝える手助けをしてもらったと語った。

ノーブル氏は、“ハワイの観光がどうあるべきかを再考するため”に、救援活動に貢献したいと思っている人々こそが、一緒に働きたい人だと語った。

「そういう人たちは、マウイの人を大切に思い、この土地を大切に考えてくれています。そして、彼ら彼女らが戻ってきた時には、また違った体験ができるでしょう。私たちは、ハワイがどういう場所であるべきか、そして、目指すべきハワイのアンバサダーになるためにどう手助けしてもらえるかを真剣に考えています」。
「私たちは、文化や故郷をどう維持させていくかということに関して、住民として非常に退化的なシステムのなかで取り組んでいます。私たちの文化を永続させるためにはこれまでにない考えが必要です。また、よりインクルーシブ(包摂的)でなくてはなりません。国全体、先住民全体にそこに参加してほしいと思っています」

ケイン氏は、SBコミュニティの革新的な考え方をマウイ島の復興過程に取り入れていくこに期待を抱いていると述べ、「そうすることで、この取り組みの重要性を世界に伝え、模範となることができます」とした。そして、SBコミュニティの協力に感謝を伝えて締めくくった。

意義あるコミュニティ・インパクトをもたらすための戦略 最後までやり遂げるには

3日目の朝に行われたセッションでは、米国の非営利団体タイズ財団が、困難な時代に社会的インパクトをもたらす取り組みを着実に行うための企業戦略について深掘りした。

いま、世界中の企業の社会的インパクトに関する部門は社内外で大きな課題に直面している。少ないリソースでより多くのことをしなくてはならなくなっているのだ。こうした制約がありながらも、企業は、地域コミュニティや社会正義のためにその影響力を拡大することで、自社の立場を明確に示し、注目を高める機会を手にしている。

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登壇したのは、同財団の企業・戦略イニシアティブでシニアダイレクターを務めるハリエット・ガードナー氏、企業社会インパクト部門シニアアドバイザーのエリン・シーナー氏だ。セッションは、社会や政治、経済などさまざまな逆風に直面しながらも最後までやり抜くための戦略をテーマに、活気あふれるピア・ラーニングから始まった。

調査からわかっているのは、社会的インパクトをもたらす取り組みはやりがいのあるものだが、時間が課題だということだ。特に調達先の地域において重要な社会的インパクトを測定し、監視や管理を行い、取り組みを持続させるのに十分な時間がとれていないようだ。また、リソースに関しては、経済的な不確実性が大きな影響をもたらしている。さらに、コミュニティにどう参加していくかについての重要なポイントとして、インターセクショナリティ(交差性)とコミュニティの構築方法が取り上げられた。

シーナー氏は財団の戦略を一部紹介した。

・社会的インパクトをもたらす取り組みを主要な事業活動に結びつける
・従業員と顧客を巻き込み、参加してもらう
・長期的に取り組むことを約束する
・コミュニティが主導する組織に投資する
・信頼に基づいた取り組み方法に投資する

1つ目の戦略について、シーナー氏は「持続可能な社会に移行するために、組織はパーパスで掲げていることを確実に実現する必要がある」と述べた。例えば、デジタル・ディバイド(情報格差)などの対策で見かけることだが、企業は非営利組織の能力開発を支援することもできる。

シーナー氏は、組織がパーパスを掲げることは、特に消費行動の活性化において従業員や顧客を引き込むのに役立つと語った。ある参加者は、ブロガー向けのディスプレイ広告のマネジメントビジネスを手掛けており、パンデミックの初期に同業者が新型コロナウイルス感染症に関する情報発信のために使われていない広告スペースを寄付することを考えたことから、新型コロナウイルス感染症に関する公共広告に切り替える機能を構築した。今や、その運用型広告の会社は非営利団体との取り組みを拡大し、数十億の広告インプレッション(表示回数)を非営利団体に無償で提供している。

長期的に取り組むという戦略はこれまで課題だった。特に、1回限りやその時だけの取り組み(プライドやガンの啓発など)は営利企業の中核事業とは結びついていなかった。タイズ財団のシニアアドバイザーであるタレヤ・パーマ氏は、長期的な投資をしようとしない営利企業は、社会から疎外されているコミュニティに利益よりも害をおよぼすかもしれない、という懸念を財団が抱いていることを語った。さらに続けて、企業文化というのは変化が速いが、「関係性と信頼を築くのには時間がかかります。急いで行うことは解決になりません。時々何かするというのは間違っている場合もあります」。

非営利団体として組織のミッションを実行しながら、企業が掲げる目標を達成するための方法について活発な議論が続いた。また、長期的に取り組むために、ときには短期的な勝利が求められるとも語られた。シーナー氏は、独自のリソースやツール、知識を提供しながら、目標達成に役立つ戦略やビジネス思考を備えるべきだと述べた。「目指すのは企業の長期的戦略を前進させる手助けをしながら、長期的な目標を推し進めていくことです」と語った。

ガードナー氏は、企業がビジネスを通じて、可能なリソースを活用し最大のインパクトを出し、より深く取り組んでいくためのアドバイスを行った。同氏は、これを完璧に行う方法はないが、変化を促進するために既存のシステムのなかであらゆることをすべきだと考えている。

別の出席者は、企業が本質的と思う方法で最大限の力を発揮するという考えを示した。その一例として挙げられたのが配車サービスのリフト(Lyft)。同社は、継続期間を問わず、社会的インパクトをもたらすあらゆる取り組みにモビリティを提供するという基本ミッションと実行力を有している。

最後に、マネージングアドバイザーを務めるダイアナ・ハンター氏が現場で生かせるいくつかの考え方を伝えて、締め括った。

・このような困難な時代だからこそ生まれるチャンスがある。(先に紹介した運用型広告の会社のように予期せぬ展開が起こりうる)
・従業員や消費者、コミュニティに深く耳を傾けることが重要になる。まずは、そうした人たちのニーズと優先事項にとりかかる。
・パーパスを定め、インパクトやビジネス上の目標にパーパスを一致させ、短・長期的にインパクトをもたらす力を身につける。
・社会的インパクトをもたらす取り組みは、パートナーを見つけたり、社内の賛同を得たり、外部と協力したりと、時間のかかるものであり、測定が難しいものだ。
・不完全であることや不安な状態を心地良く思うこと。関与し、対話を続けることが重要になる。

企業が地域活性化に取り組み、持続する「社会的結束」を構築するには

ミシガン州ベントンハーバーに建てられたエマ・ジーン・ハル・フラッツの完成予想図 Image credit: Whirlpool

10月に開かれたサステナブル・ブランド国際会議2023サンディエゴの3日目午後に行われた、「社会的結束(Social Cohesion)」をテーマにしたセッションには多くの人が参加した。家電や製菓、金融サービス業界のサステナビリティに取り組む企業が登壇し、社会的インパクトをもたらす取り組みがそれぞれの携わるコミュニティで、どのように重要な力や変革を起こす力となったかを共有した。

セッションは、モデレーターを務めた調査会社ハウ・グッド(HowGood)のチーフ・イノベーション・オフィサーであるイーサン・ソロヴィエフ氏の「みなさんにとって社会的結束(社会的一体性)とはどういう意味でしょうか」との問いかけから始まった。

登壇した菓子大手ハーシーカンパニーのソーシャルインパクト・コミュニティ投資部門の責任者を務めるカトリーナ・ブリデル氏は、社会的結束にはつながりという意味合いが含まれており、あらゆる目標にどう取り組むかとも関係すると述べた。アメリカン・エキスプレス財団の代表を務めるマッジ・トーマス氏は、社会的結束は、私たちにとって社会がどのようなものであるかを定義するものであり、広義には、企業のサステナビリティやCSRの基盤を下支えするものであり、企業が活動・操業する場所も含まれると説明した。

最大のインパクトを生み出すためにどこに焦点を当てるべきかを考える際には、特定のステークホルダーの共感を得られる取り組みを見極め、それに取り組みを合わせることが重要になる。アメリカン・エキスプレスでは、社会的インパクト・プログラムは企業の価値観を深く下支えするものであり、事業側のESGを財団側に反映させる必要があると、トーマス氏は話した。

同社は、長く取り組む小規模企業への支援を続けながら、2021年初めに経済的に脆弱な米国の小規模事業者を支援する取り組み「バッキング・スモール」を立ち上げた。十分な支援を受けていない経営者などのコロナ禍からの回復や経済的再生を支援する。バッキング・スモールでは、小規模事業者に、助成金やメンタリングの支援、技術支援といった包括的なリソースやツールを提供する。基金は、設備の改善や技術の向上などの重要なニーズに対処し、事業の拡大を促進するために使われる。

トーマス氏によると、同社はどんな取り組みが有意義か、形だけの取り組みにならないかを見極めるために、非営利団体とも緊密に連携する。現在では、プログラムを増やし、6カ国に同事業を展開する。サステナビリティに話を戻すと、壊滅的な出来事のなかでも自然災害が発生する前にレジリエンス(回復力)をもてるように支援するには、インフラの改善などのこうした取り組みが不可欠だ。「小規模事業者が生き残ることができれば、その周辺地域も繁栄するのです」とトーマス氏は指摘した。

米家電メーカーのワールプールコーポレーション(ミシガン州)でコミュニティリレーションズ兼財団のガバナンスを担当するステファニー・ハーヴェイ=ヴァンデンバーグ氏は、「私たちはグローバル本社のある地で事業を続けていく責任を実感しています。(戦略もなくインパクト測定も行っていなかったが)自分たち自身に正直になり、これまでとは異なる方法、より良い方法で耳を傾けることを決めました」。

その一例が、ワールプールが開発したエマ・ジーン・ハル・フラッツだ。ワールプールの創業の地であり、本社のあるミシガン州ベントンハーバーにある80室のマンションだ。ハーヴェイ=ヴァンデンバーグ氏は同僚らと共に、地元の役場や歴史的・影響力のある指導者、直接会った人たちに、ワールプールが住民の役に立つためにどんなことを新しい方法でできるか話を聞いた。その結果、繁華街を活性化するには、入居者の所得階層がさまざまなミックスト・インカム住宅が必要なことが分かった。

完成したマンションのいくつかの部屋は “ホームタウン・ヒーローズ”と呼ばれるファーストレスポンダー(消防署員や警察官など)や教師などの公務員に割り当てた。地域のステークホルダーにとって重要だったのは、新たな集合住宅を、同市初の女性市長(1992―1996)であり、地域の活性化に貢献したエマ・ジーン・ハル氏にちなんだ名前にすることだった。ハーヴェイ=ヴァンダーバーグ氏は、さまざまな考えに耳だけでなく心も傾けて聞くことで、取り組みがワールプールと地元との関係を取引関係から変革へと移行させる力となったと話した。

ブリデル氏は、ハーシーの社会的貢献活動は、本社のある地域に的をしぼっていると話した。取り組みは、本社の周辺への投資から他の地域へと拡大させながら、ゆっくりと着実なペースで進めているという。また、戦略が進化するにつれて取り組みも発展している。

同社では2019年から、社会情緒的能力を身につける支援を行うハートウォーミングプロジェクトを通じて、つながりを活発にし、共感を高め、インクルージョンを推進することで、学校やコミュニティに前向きな変化をもたらすことを目的に、10代の若者に少額の助成金を授与している。助成金は主に、若者たちのコミュニティに役立つ取り組みに使われている。

同氏は、ハーシーが調査したデータに基づく考察を紹介した。子どもたちは互いに、またコミュニティとつながっていると感じるとき、精神的健康状態が良くなる傾向にあるという。連帯感は、前向きな仲間や大人とのつながり、コミュニティとの関わりから生まれる。この若者向けプログラムは、ハーシーのESG目標に沿ったものであり、コミュニティが存在していなかった場所に企業・ブランドの力でコミュニティ感覚を生み出すというものだ。

数字で測れないものをどう捉えるべきか

登壇者らは、社会的結束を築いていく方法を証明するには測定基準が重要であることに同意した。しかし同時に、その基準が科学やアート、感情が融合したものであると認識している。

トーマス氏によると、アメリカン・エキスプレス財団とパートナーの非営利団体は、望む結果である成長を証明するために緊密に取り組んできた。財団による助成金が小規模企業の成長に貢献してきたことは数字が示しているものの、ストーリーの質や感情的共鳴にも説得力はあると語った。

ブリデル氏は、10代の若者たちに、ソーシャルメディアやその他の基準となる指標以外の助成金に関する数字を示してもらうよう説得することは難しいと述べた。しかし、若者が誰と関わったかを含む波及効果も重要な指標になる。「指標には意義がありますが、時間をかけて信頼を築くこともまた重要なことです」。

ハーヴェイ=ヴァンデンバーグ氏はこれに同意し、「心で行う作業というのは目には見えませんが、表現することはできます」としながら、KPI(重要業績評価指標)が時としてソフト(形のない・数字で表しきれない)である場合もあると指摘した。

企業やブランドは、信頼を醸成し、ローカルの人々の声を広げ、コミュニティをより良くする関係を構築することで、コミュニティデザインやブランドパーパス、社会科学という点において、前向きな変化を生みだすきっかけ(触媒)になることができるのだ。

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