サステナビリティの絶対音感を磨こう!【コラム細田悦弘の新スクール】 第3回 「サステナビリティ経営」が求められる背景と意義

サステナビリティでメシが食えるか? まだ割と多くの経営層の心の内には、こんな一抹の本音がひそんでいるようです。目先の利益はもちろん大事。ただ目先の利益を続けていきたいならば、サステナビリティは必須です。今やサステナビリティをないがしろにしていると、メシが食えなくなる!といえましょう。

『外部不経済』は、もう許されない

企業は長らく『外部不経済』を無視することで、『短期的利益』を確保し経済的繁栄を遂げてきました。
外部不経済(負の外部性)とは、製品やサービスの生産または消費に直接的に関係のない他の主体(地球や社会など)に害を与えることを指します。そうした経済活動は、環境や社会に悪影響を及ぼしつつも、その会社のコストには反映(内部化)されません。工場の排煙・排水等による環境負荷などが典型例といえます。

そして近年、外部不経済が自然の自浄作用の範囲をはるかに超えているという現実が明白となりました。したがって企業社会は、環境や社会を傷つけながらでは経済活動が成り立たないという構造に気付きはじめ、サステナビリティ経営への潮流が加速してきました。盤石な地球・健全な社会があってこそ、経済が成り立つという自覚が、サステナビリティ経営の起点となります。

リスク回避と機会創出

「事業基盤である環境や社会を維持・増強しながら、事業を持続的な成長につなげる」ことが、サステナビリティ経営の本質です。すなわち、サステナビリティ要素を経営の中核に組み入れ、中長期的な企業価値向上を念頭に、リソース(経営資源)の配分を行うことが要諦です。

そのためにはサステナビリティ視点で時代の変化を捉え、果敢に『要請と期待[^undefined]』に対応していくことが求められています。自社の業種業態がどのように地球や社会に負の影響を与えるのかにまず着眼することが先決です。これが『リスク回避』の観点です。
そして、自社の強みやケイパビリティ(組織的能力)を活かして、どうような正の影響を与えることができるのかが、「機会の創出」につながります。このスタンスが、事業による社会課題解決であり、経済的価値と社会的価値の同時実現です。

ともすると、サステナビリティを従来の社会貢献やリスクの側面からのみ捉え、トレードオフ(一方を追求するともう一方を犠牲にしなければならない)となりがちです。ところが、新しいビジネス機会の創出に目を向けることができれば、長期的視点でのリソース配分によって、持続的に利益を出し続けることができるようになり、トレードオン(一見相容れないものを高次に両立させる)に転換できます。

経営者にとってのサステナビリティは、とかく「コストがかかる」「短期的に儲からない」「そこまで儲からない」といった認識が付きまといがちですが、押さえどころは、サステナビリティ経営の時間軸が『長期(ロングターム)』である点です。企業戦略としてのサステナビリティへの打ち手は、持続的成長のためのロングターム・インベストメント(長い目でみた投資)なのです。

サステナビリティが人口に膾炙(かいしゃ)する[^undefined]中、真のサステナビリティ経営へと脱皮した企業には、リスクよりも機会に着眼し動機付けされている面が強いという特長があります。そこに「サステナビリティ・トランスフォーメーション(SX)へ」の扉があります。

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真のサステナビリティ経営と「伊藤レポート3.0(SX版伊藤レポート)」

上記のように、企業が長きにわたり生き残るには、サステナビリティの観点を経営に取り込む必要があるとの認識が急速に浸透し始めています。伊藤邦雄・一橋大学CFO教育研究センター長は、「いま、サステナビリティといかに向き合い、本気で実現していくかが、企業経営の最重要課題となっている。経営戦略のど真ん中にサステナビリティを置き、経営戦略のあらゆる側面に組み込んでいくことが大事だ」と主張しています。

サステナビリティを成長のための機会と捉え、その実現のためには『SX(サステナビリティ・トランスフォーメーション)』が欠かせないということです。SXとは、社会のサステナビリティと企業のサステナビリティを同期化させていくこと、及びそのために必要な経営・事業変革(トランスフォーメーション)を意味します。

2022年8月に経済産業省が公表した「伊藤レポート3.0(SX版伊藤レポート)」では、「サステナビリティへの対応は、企業が対処すべきリスクであることを超えて、長期的かつ持続的な価値創造に向けた経営戦略の根幹をなす要素となりつつある。企業が長期的かつ持続的に成長原資を生み出す力(稼ぐ力)を向上させていくためには、サステナビリティを経営に織り込むことが最早、不可欠であるといっても過言ではない」と指摘しています。

これからの時代、肝に銘じておきたいのは、サステナビリティをないがしろにしていると、『メシが食えなくなる』ということでしょう。


細田 悦弘  (ほそだ・えつひろ)

公益社団法人 日本マーケティング協会 「サステナブル・ブランディング講座」 講師
一般社団法人日本能率協会 主任講師

1982年 中央大学法学部卒業後、キヤノン販売(現キヤノンマーケティングジャパン) 入社。営業からマーケティング部門を経て、宣伝部及びブランドマネジメントを担当後、CSR推進部長を経験。現在は、企業や教育・研修機関等での講演・講義と共に、企業ブランディングやサステナビリティ分野のコンサルティングに携わる。ブランドやサステナビリティに関する社内啓発活動や社内外でのセミナー講師の実績豊富。 聴き手の心に響く、楽しく奥深い「細田語録」を持ち味とし、理論や実践手法のわかりやすい解説・指導法に定評がある。

Sustainable Brands Japan(SB-J) コラムニスト、経営品質協議会認定セルフアセッサー、一般社団法人日本能率協会「新しい経営のあり方研究会」メンバー、土木学会「土木広報大賞」 選定委員。社内外のブランディング・CSR・サステナビリティのセミナー講師の実績多数。

◎専門分野:サステナビリティ、ブランディング、コミュニケーション、メディア史

◎著書 等: 「選ばれ続ける会社とは―サステナビリティ時代の企業ブランディング」(産業編集センター刊)、「企業ブランディングを実現するCSR」(産業編集センター刊)共著、公益社団法人日本監査役協会「月刊監査役」(2023年8月号) / 東洋経済・臨時増刊「CSR特集」(2008.2.20号)、一般社団法人日本能率協会「JMAマネジメント」(2013.10月号) / (2021.4月号)、環境会議「CSRコミュニケーション」(2010年秋号)、東洋経済・就職情報誌「GOTO」(2010年度版)、日経ブランディング(2006年12月号) 、 一般社団法人企業研究会「Business Research」(2019年7/8月号)、ウェブサイト「Sustainable Brands Japan」:連載コラム(2016.6~)など。
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