法の成立から8年がたち初めて示された憲法判断だ。政府による解釈変更が重大な影響を及ぼすとしながら、違憲ではないとする判断は到底納得できるものではない。
福島県の住民170人が安全保障関連法は憲法違反として国に損害賠償を求めた集団訴訟で、仙台高裁は「憲法9条に明白に違反するとまでは言えない」と判断した。
原告側の請求を棄却した一審判決を支持し、控訴を棄却した。
小林久起裁判長は「安保法制によって他国の戦争に巻き込まれたり、テロの対象とされたりする危険性が高まることは否定できない」と認めた。
一方「新3要件や、政府が国会に示した厳格で限定的な武力行使の解釈答弁が、今後、守られることを前提とすれば、直ちに違憲とは言えない」とした。
結果として政府の「解釈改憲」を追認した形となっている。
戦後、日本の防衛は、自国に対する他国からの武力攻撃があった場合にのみ適用する「個別的自衛権」に基づくというのが政府の一致した解釈だった。
しかし安倍晋三政権は2014年、「密接な関係にある他国への武力攻撃が発生した場合」にも広げる新3要件を閣議決定。翌15年に成立した安保法では、戦争・紛争での他国軍の後方支援も可能とした。
こうした集団的自衛権の行使容認に関して判決では「9条の下で許される武力行使の限界を超える余地がある」とも言及している。
それなのに違憲と言えないのはなぜなのか。
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安保法を巡っては施行された翌月から集団提訴が相次いで起こされた。各地に広がり現在までに那覇を含む全国22地裁・支部で計25件の提訴があり、原告は約7700人に上る。
一方、「具体的な権利侵害が認められない」としていずれも門前払いされてきた経緯がある。
今年9月には東京地裁が19年に請求を棄却した集団訴訟について最高裁が上告を退ける決定を出している。
今判決はこうした流れに一石を投じた側面もある。
政府による解釈変更の閣議決定や安保法について「憲法の基本理念である平和主義に重大な影響を及ぼす可能性がある」と認めたのだ。
弁護団は「一歩前進」と評価しつつ、「中身には納得できない」として上告する方針だ。
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昨年の安全保障関連3文書の改定や反撃能力(敵基地攻撃能力)の保有など、岸田文雄政権下でも安保体制は大きく変容している。
その基点が集団的自衛権の行使を容認する閣議決定であり、安保法の制定だ。
国民の議論もほとんどなく憲法の趣旨がゆがめられることがあってはならない。
憲法前文は「政府の行為によって再び戦争の惨禍が起こることのないように決意する」とうたっている。
司法は、本来の「憲法の番人」としての役割を果たすべきだ。