【MLB】ヤンキースがフアン・ソトをパドレスから獲得間近 トレードに至った理由・対価を分析!

写真:フアン・ソト

日本時間7日未明、ウインターミーティング最終日にして最大のディールが成立。ヤンキースが現役屈指の強打者フアン・ソトをパドレスからトレードで獲得見込みだと、複数の米メディアが報じた。ヤンキースは外野手フアン・ソトに加えレギュラー外野手のトレント・グリシャムを獲得した見返りとして、先発投手マイケル・キング、ランディ・バスケス、ジョニー・ブリトー、捕手カイル・ヒガシオカ、そしてマイナーでプレーする有望株投手ドリュー・ソープの5人をパドレスに送ると報じられている。

【外野手補強を済ませたヤンキースは山本獲得に本腰?】

パドレスが現役屈指の強打者・ソトをトレードに出すことは既定路線と見られていた。昨年はペイロール(年俸総額)がメジャー3位にまで膨れ上がっていたパドレスは財政状況が芳しくないようで、今オフは年俸削減を目指していた。

報じられていた2億ドル近くまでのペイロール(年俸総額)圧縮が必要な一方、パドレスはサイヤング賞左腕ブレーク・スネルをはじめ多くの主力がFAで退団することに。先発ローテを筆頭にロスターは穴が多く、補強は急務の状況だった。来季年俸が3000万ドル以上と高額なソトを放出し、その対価でロスターの穴を埋めることが、戦力維持と年俸削減を両立する唯一の手立てと考えられていた。

対して、辛うじて31年ぶりの負け越しを免れたヤンキースは、今オフは山本由伸をはじめビッグネームの獲得を目指すことが噂されていた。特に主将アーロン・ジャッジ以外はメジャーレベルの選手がいない外野陣は筆頭の補強ポイントで、ヤンキースはソト獲得を目指してオフシーズンの早い段階から交渉を続けていた。

しかし、ウインターミーティングを前に、パドレスの強気の姿勢もあって交渉は暗礁に乗り上げたと見る向きも多かった。今回成立したトレードには、ヤンキースが放出をためらっているとされていたマイケル・キングと有望株ドリュー・ソープも含まれている。トレード成立に至ったのは、ヤンキースが"折れた"部分も大きかっただろう。

ソトの獲得によって、ヤンキースの外野陣は右翼ソト・中堅ジャッジ・左翼バーデューゴ(昨日にトレード加入)と大幅なアップグレードに成功した。故障がちのジャッジに中堅を任せることに不安は残るが、センターの守備の名手グリシャムも確保し、層は格段に厚くなった。

また、キングやブリトー、バスケスの放出によってローテには空席が発生。以前から噂されている山本由伸とは、日本時間12日(現地11日)に面会予定と伝えられており(『MLB Network』)、ここからは山本獲得に本腰を入れることになるかもしれない。

【ソト放出に至った理由は?】

トレードの目玉となったソトは弱冠25歳にして球界屈指の強打者として知られ、今季も35本塁打・OPS.930をマーク。さらにデビューから出塁率が4割を下回ったことがないという打撃の完成度は、現役選手の中でも群を抜いている。ソトはナショナルズ時代の2022年に15年4億4000万ドルの巨額の延長契約オファーを断っており、2022年のデッドラインでソトを獲得したパドレスにも、契約延長のチャンスはなかったようだ。

ただ、パドレスはフェルナンド・タティス・ジュニアやダルビッシュ有など既に多数の大型契約を抱え、そこにさらにソトの天文学的契約を加える余地は無かっただろう。さらに大型契約を結んでいる多くの選手がトレード拒否権を持っており、年俸削減の手段は限られていた。契約延長の可能性は低く、残りは高額の契約が1年のみ、そしてトレードバリューは高く、チームの穴を埋められる対価を得られるだろうということ。パドレスとしてはソトの放出は不可避であり、他球団からは足元を見られてもおかしくなかったところ、十分な対価を得ることが出来た。

ソトと共にヤンキースに移籍するグリシャムも2度のゴールドグラブ受賞を誇る実力者だ。ただ、ここ2年は打率1割台の打撃不振に陥っていた。パドレスとしては年俸削減(およそ400万ドル超)の、ヤンキースとしては本職センター不在の不安を名手獲得で解消する狙いがあった。

【メインの対価は先発転向後にブレイクした28歳と"魔球"を誇る有望株右腕】

対価の目玉となったキングはキャリアの大半をリリーバーとして過ごしてきたが、8月末から先発に転向。8月末からの8先発で防御率1.88・奪三振率11.27と、来季に向けて希望を残す活躍を見せていた。契約は残り2年、予想調停額は300万ドルと格安で、予算的制約がある中で2~3人の先発投手が必要だったパドレスとしては欠かせないピースだった。また、ヤンキースとしてはキングという優秀な先発を放出できたのは、山本のようなトップレベルの先発獲得に本腰という兆候か、あるいはそれに自信があるという証左かもしれない。

また、ブリトーは今季MLBデビューを果たした25歳の先発投手だ。今季はMLBで25試合(うち先発13試合)に登板し、90 1/3イニングで9勝7敗、防御率4.28を記録。平均球速約154.5km/hをマークする速球と落差の大きいチェンジアップを武器にローテーションの座を掴んだ。今後の成長はもちろん、現状のままでもイニングイーターとしての活躍は十分に見込めるだろう。

そして目玉の有望株であるソープは今季大化けした23歳だ。2022年ドラフト2巡目でプロ入りした右腕は、今季A+とAAと139.1回を投じ、防御率2.52・奪三振率11.76と圧巻の成績。速球の平均時速は約148キロと球威で圧倒するタイプではないが、空振り率64%近い"魔球"チェンジアップを武器に台頭した。

また、ランディ・バスケスもソープほどではないもののまずまずの評価を受けている有望株だ。バスケスはすでにMLBデビューを果たしており、11試合(うち5先発)、37 2/3イニングで2勝2敗、防御率2.87。MLBでは制球力の面で不安を露呈したものの、平均球速152km/h前後の速球に加え多彩な変化球で相手打者を翻弄する。ソープほど将来性はないかもしれないが、MLBデビューを果たしているという点で先発投手不足に悩むパドレスにとってはうってつけの存在だろう。

最後にヤンキースは控え捕手カイル・ヒガシオカをパドレスに送っている。ヤンキースは40人枠に6人の捕手を抱えていたのに対し、パドレスは控え捕手ゲリー・サンチェスの後釜を探していた。ヒガシオカはメジャー6位のフレーミング指標を記録したフレーミング能力、そして過去3年連続260打席以下という限られた機会で10本塁打を記録した打力が持ち味の優秀な控え捕手だ。

一方、パドレスが放出したのはソトとグリシャムの2人。ソトについてはもはや語るまでもないが、グリシャムについてはここで触れておこう。

グリシャムは今季MLB5年目の26歳。今季は153試合で中堅を守ったパドレス不動の中堅手だ。今季は555打席で打率/出塁率/長打率が.198/.315/.352と振るわなかったが、高い守備力を武器とする守備職人だ。好調であれば平均以上の打力を発揮できるため、もし復活すればヤンキースでもレギュラー中堅手の座を掴む可能性は非常に高い。2025年まであと2年間保有できるのもプラスな点だ。

ただ、このようにトレード全体を見渡すとやはりヤンキースがかなり思い切ったトレードパッケージであるように思われてならない。いくらソトが優秀とはいえ、保有できる年数は1年。グリシャムにしても2年だ。それに対してMLBでローテーションに入れる可能性のある投手を4人、控え捕手を1人出すというのはかなり大きな対価だ。

ヤンキースは今季先発投手陣に故障が続出し、サイ・ヤング賞を受賞したゲリット・コールの存在がありながらもプレーオフ進出を逃した。その状況にあってこれほど先発投手を放出したというのはかなり思い切った動きだ。今後はソトと契約延長を結べるか、かわりの先発投手を確保できるかの2点がオフの注目ポイントとなるだろう。

一方、パドレスはソトとグリシャムのレギュラー外野手2枚を放出した。今季はレギュラー層と控え層の差が大きく、レギュラーの故障離脱時には大きく戦力が低下するという問題を抱えていたパドレスだが、このままではその状況がさらに悪化してしまうかもしれない。ソトとグリシャムの穴を埋める動きは必須だ。

一方で、多くの先発投手が流出した問題に一応の手当をできたのは大きいだろう。サイ・ヤング賞投手のブレイク・スネルを筆頭にセス・ルーゴやニック・マルティネスらが抜けた先発投手の穴を限られた予算でいかに埋めるかが今オフ最大の課題だったが、この問題をほぼこのトレードだけで解消することができた。もちろんソトとグリシャムの放出は痛みを伴うが、パドレスとしては想像できる限りほぼ最高の対価を得たと言えるだろう。

今季も多くの契約が成立したウインターミーティングも最終日。ファンを驚かすようなトレードや契約がさらに起こることはあるのだろうか。

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