COP28: 「気候変動は最も弱い立場の人を、最も苦しめている」 国境なき医師団インターナショナル会長が訴え

MSFインターナショナル会長のクリストス・クリストゥ医師 Ⓒ MSF

アラブ首長国連邦で開催中の「国連気候変動枠組み条約第28回締約国会議」(COP28)。12月2日、国境なき医師団(MSF)インターナショナル会長のクリストス・クリストウ医師がCOP28パネル「気候と健康をリードするチャンピオンたち(Champions leading the way on climate and health)」に登壇し、気候変動の悪影響から最も弱い立場にある人びとを守るため、緊急かつ具体的な対策が必要だと訴えた。

COP28における、MSFインターナショナル会長クリストス・クリストウ医師のスピーチ全文

Ⓒ MSF

「気候変動とはどのようなものか——。そう考える人は、モザンビークに来るべきです。私たちは世界で最も汚染された国々による行動の影響を直接こうむっています。一年中マラリアが流行し、次から次にサイクロンに襲われています」 これは私の同僚であるアダモの言葉です。そして悲しいことに、彼の言うことが他の多くの場所で現実となっています。 MSFは、世界で最も気候変動の影響を受けやすい地域の多くで活動する医療・人道援助団体であり、気候変動による健康への影響を直接受けた患者を治療しています。

この危機は、最も弱い立場の人びとを最も苦しめています。私たちは世界各地の病院の待合室でこの影響を目の当たりにしています。

ニジェールからモザンビーク、ホンジュラスからバングラデシュまで、私たちはマラリアやデング熱などの感染症や栄養失調、また異常気象に関連した健康問題を抱える患者を治療しています。

昨年のCOP27以降、私たちは南スーダンとケニアの大規模な洪水、ミャンマーとマダガスカルを襲った激しいサイクロン、「アフリカの角」(※1)全域で数百万人が飢餓に苦しんだ深刻な熱波と干ばつなどに対応してきました。

私たちはまた、数カ国で同時多発的に発生したコレラや、アメリカ大陸全域で流行したデング熱にも対応しました。スーダンでの紛争から逃れてきた人びとが集まるチャド東部を含むサヘル全域では、マラリアと栄養失調で小児病棟が満床となる中で活動し、チャドでは一年を通して栄養失調の予防と治療を行っています。

チャド東部アドレの診療所では、567人の子どもたちが外来栄養治療プログラムを受診した=2023年11月1日 Ⓒ Jan Bohm/MSF

気候変動の悪影響から、社会的に弱い立場の人びとを守るために行われていることは、少なすぎます。多くの地域とそこで暮らす人びとは、規模と激しさを増す複数の危機に直面しているのです。

人びとは自分たちが作り出したわけではない問題のために、健康と命を犠牲にしています。

気候危機を引き起こす温室効果ガスの排出にほとんど関わっていない人びとが、その被害に苦しむのは不条理かつ悲劇的です。

今回の「グローバル・ストックテイク(GST)」(※2)では、これまでの取り組みが今後ますます増大する課題はおろか、現在のニーズにも応えられていないことが明らかになりました。世界のリーダーたちは、排出量削減や最も影響を受ける国々への支援というコミットメントを果たしてきませんでした。 この状況は、変えなければいけません。 気候変動の影響を受ける地域社会は、危機の規模に相応な対策を必要としています。温室効果ガス排出削減への真のコミットメントとともに、財政・技術面から支える具体策が不可欠です。 気候変動の対策や交渉、および行動の最前線に、健康を掲げる必要性はますます高まっています。

世界はこのまま、最も弱い立場にある人びとが深刻化する人道危機の被害に耐え続ける現状を見過ごしてはいけません。

具体的な対策が決定され実行されるまで、あと何年かかり、あと何回COPが開催され、どれだけの人が影響を受ける、あるいは命を落とさなければならないのでしょうか。 もう失敗は許されません。

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