【AKBインドネシア日記】 Day 1 西宮奈央(バンドン) 2020年6月24日〜10月1日 おうちでカイン

すっかり在宅ワークな日々。ジャカルタに行くこともなく、仕事は自宅のパソコン越し。そんな状態に慣れたころに、思い付いたことがあった。「家なんだし、カイン巻いててもよくない?」

去年までは、仕事の都合をやりくりしてはインドネシアの各地を旅していた。気の向くままの一人旅で、あれやこれやと見て回るのだが、ずっと変わらないのが布(カイン)への興味だった。思い返せば、少なくともここ数年は、インドネシア国内の旅で布を持ち帰らなかったことは……1回? 一方で「売るのか」というほど買ってきたことは複数回ある。もちろん、旅に出なくても、口実さえあれば布は買う。インドネシアの布が、大好きなのだ。

布は使ってこそだと思っている。フローレス島のママたちみたいに日々イカットを纏(まと)うのは、憧れだ。でも、街の暮らしでは、カインはなんだか改まり過ぎてしまう気がする。結婚式や何かの記念行事がせいぜいの出番で、日常使いはなかなか難しい。だって、カインを巻いてオジェックには乗れないし。

そんな折り(?)のコロナである。出かけない。オジェックに乗らない。チャンスだ。カイン生活を実践しよう。巻いて見ると、それぞれの布を買うに至った経緯がよみがえる。案外しっかり覚えているものなのだ。これを「愛着」と呼ぶのだろうな。

せっかくなので記録を、と、納戸から古い鏡を引っ張り出してきて家の空いているスペースに立てかけ、スマホで写真を撮ることにした。曇りが落ちないぼろい鏡に、写り込む壁もうっすら汚い。こんな風にまとめることになるなら、もうちょっと気を使っておけばよかったと悔やんでいる。が、だからと言って、可動式の姿見はどっちにしてもないし、壁のシミも拭いても落ちないんだから仕方がない。

6月24日
まずはフローレス島シッカ地方のイカット。乾期らしい気候が続くようになったバンドンは、朝晩の気温が下がり、イカットの温かさがうれしい。
フローレスのカインは、ほかの島のものと比べて幅が広い。市場などで見かけるママたちは、肩からすっぽりカインに包まっていることもあるのだが、それも幅が広いから可能な着方だと思う。もちろん、まねをした。

6月29日
気温が上がって、イカットでは暑かった日。ボロブドゥールにある友人のギャラリー「Limanjawi Art House」で購入したバティックを巻く。
赤地に青の細かなグラデーションのメガ・ムンドゥン柄、その上に大胆に黄色の花が描かれている。手持ちのバティックの中で、一番カッコいいお気に入り。

7月1日
義妹がやっているブランド「Sejauh Mata Memandang」のバティック。シックな紺色に、小舟の柄。夫が撮った写真にインスパイアされたデザインなんだよ、とちょっと自慢しておく。

7月2日
スンバ島東部のメロロという地域のカイン。イカットではなく、「パヒクン」と呼ばれている浮紋織。
コロナ禍で収入が途絶えた村のママたちの布を売るお手伝いをした際に、自分用に買ったもの。ユーモラスな柄とパステルなボーダーが気に入っている。

7月4日
サヴ島のイカット。鮮やかな赤がいい。
サヴのカインは、幅が狭く、その代わり、とても長い。こういうのは、各地の伝統的な纏(まと)い方に基づいているのだろうなと思う。

7月10日
フローレス島マンガライ地方の浮紋織。黒地にカラフルな模様が散らされているのが、とにかくかわいい。悩んで悩んで選んだ一枚だが、宿のスタッフに「それ男柄じゃない?」と言われた。気にしていない。

7月14日
去年、ジャワ島の北岸を旅していた際に、ラセムで買ったバティック。赤青黄の、色のバランスが気に入っている。バティックは、鮮やかな色使いでも嫌みがないのがすごいと思う。

7月17日
アロール地方のイカット。訪ねて行った所のママが、自分で糸を紡ぎ、糸を柄に縛り、天然染料で染め、織ったもの。ほかの所では見かけないような、海の生き物を使った染料なども使っている。ママの染める全ての色が入っている、と選んだ一枚。私の一張羅(いっちょうら)。

7月26日
スンバ島で買ったサヴの古いイカット。人の肌に触れ、何度も水をくぐってきたのであろうと思わせる、くったりとした柔らかい手触りに、毎度、うっとりする。手持ちの布たちも、いつかこのイカットのように育ってほしいと思っている。

7月31日
バリのセレクトショップで買った、スマトラのバティック。小紋が愛らしい。うちの猫も愛らしい。

8月4日
以前、友人が譲ってくれたもの。スマトラのものだと言っていたと思う。紫・オレンジ・黄のボーダーで、地模様も入っている。腰で縛る紐も付いていて便利。

8月7日
夫が買ってきたイカット。色や柄の感じから、フローレス島シッカ地方か、その辺りのものじゃないか、と思っている。やや薄手で、裾をばっさばっさとさせながら歩くのが気持ちいい。

8月14日
数年前、友人の結婚式に出るのに、白いクバヤに合わせて選んだバティック。チレボンの賀集由美子さんがジャカルタに催事で来られていた際に購入。インドラマユのバティック職人アアットさんの手によるものだと聞いた記憶がある。清潔感のある紺と白で、海の生物や、謎の「ペン子もどき」がいたりするのが楽しい一枚。

8月18日
これもサヴ島のイカット。手持ちのサヴ島イカットの中でも特に長く、半分に折っても足首丈。幅が狭いのはこれも同じで、とかく小走りになりがち。小鳥がいるのが気に入っている。

8月25日
すっかり蒸し暑くなってきたバンドン。そうなると、やはりイカットよりバティックの方が涼しくて気持ちがいい。この日のは、「Limanjawi Art House」(6月29日と同じ)で選んだ一枚。アーシーなピンク色で、この微妙な色味がとても気に入っている。動きやすいように、パンツ風に巻く。

8月29日
これも7月31日と同じバリのセレクトショップで選んだバティック。チレボンのもので、バンジ(Banji)と呼ばれる柄なのだそう。バンジ=まんじ=卍。その卍の中に配された、いろんな不思議な生き物たちが楽しい一枚。

9月3日
珍しく、どこで買ったのかまるで覚えてない一枚。テロンとした生地は巻きやすく楽ちん。

9月6日
これも購入場所をはっきり思い出せないのだが、恐らくはバンドンで買った、ガルット辺りのものだったのではないかと思う。赤地に青という大胆な色使い。こういう配色はバティックの楽しみだと思う。

9月12日
これも7月14日と同じ、去年のラセム旅行で買ったバティック。緑に赤のブーケ柄。こういう色柄に弱い。つい買っちゃう。

9月18日
カリマンタン島サマリンダからマハカム川を船で渡った対岸の村で織られていたサルン。インドネシアの中では珍しく、腰機ではなくて、座ってパッタンパッタンと織る高機だった。
チェック柄というと南スラウェシのイメージなのだけど、聞けば、村の機織り技術はマカッサルの辺りで学んだものなのだそう。納得。
軽くて涼しいし、幅も広いので足さばきも良く、とても楽。ちょっと金曜礼拝に行くバパみたいな気分。

9月23日
ベトナムに住む友達の結婚式に出席するため、黄色いクバヤに合わせて選んだバティック。ジャカルタのサリナ・デパートで見つけたもの。困った時のサリナ(か、パサラヤ)。これもブーケ柄。

9月28日
かなり以前に知り合いのジャワ人女性から買った、シルクのバティック。水辺の花鳥が雅(みやび)やかな柄。当時は「カインってどうやって巻くの?」というぐらい、バティックも何もわかっちゃいなかったのだが、その女性が目の利く人だったおかげで、いま改めて見ても「買ってよかったなあ」と思える一枚。

10月1日
タンスの一番下にあった、ボタンで留めるだけで着られるように仕立てられたサルン。義妹がプレゼントしてくれたものだが、なんとなく初々しすぎる色柄で、照れくさくて着る機会がなかった。照れ隠しの仁王立ち(おまけに、しわくちゃ)。

多分、これで、巻ける布は一通り巻いたと思う(巻けない布はまだまだあるが)。おうちでカイン、一周完了。
やはり布は楽しい。これからも、日々巻いて過ごそうと思う。だってまだ当分は在宅だし。オジェック乗らないし。

西宮奈央(にしみや・なお)
2004年よりインドネシア在住。ジャカルタでの日系企業勤務を経て現在はフリーの通訳。業務スケジュールの合間を見つけてはインドネシア各地へ旅をするのがライフワーク。ただいま、スケジュールが空っぽな上に旅行にも行けない外出自粛ジレンマで「これが終わったら行く所リスト」が伸び続けている。

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