【インドネシア居残り交換日記】 Day 23 西川知子(ジャカルタ)  2020年5月5日 バティック、バティック、バティック

この2カ月間に食料品以外で買った物、バティック、バティック、バティック、以上。

普段の生活ではあまり物を買わないのですが、旅行に行った時は、同行した友人がびっくりするぐらいの即決で買い物をします。その結果、家は「雑貨屋さんみたい」と言われるぐらい、物がたくさん……。これ以上物は増やさないと決めましたが、ここ数年で唯一、増やし続けているのがバティックです。バティックの中でも特に、チレボンの物が好きです。

今までのバティックの買い物は、その土地で実際に布を見て、おなじみの売り手の方々といろいろ話をしたり、値段交渉をしたり……濃厚に絡み合うスタイルの買い物を楽しんでいました。

早くまたバティック買い物旅行がしたいなあ、と思っていたのですが、「スタジオ・パチェ(Studio Pace)」の賀集由美子さんのある一言で、私の心に火がつきました!

「チレボンやインドラマユでは3月から観光客が激減し、バティックが売れない。ジャカルタで開催予定だった展示会も全てキャンセルで、収入激減」

私が尊敬してやまないバティック関係者の皆様が困っているとなると、黙っているわけにはいきません!

で、どうしよう?!

残念ながら、すてきなバティックを作り出す職人さんたちは、きれいな写真をオンラインで並べて販売するのを不得意としている人が多いようで、あってもインスタグラムぐらいです。大体は、店に直接連絡をして、写真を送ってもらい、やり取りをする、という超アナログな世界。

まずは、賀集さんから教えていただいた、インスタグラムでの販売を頑張っているという「バティックリア(Batiklia)」()のアカウントをのぞいてみると、一気に私のテンションは上がりました。

まずは気になる商品をスクリーンショットして保存。掲載されているホワッツアップ(WA)番号に連絡し、気になる商品の在庫と値段の確認をします。すると、どんどん新たなバティック写真が送られてきます。

「写真だけで決めるから、お手ごろ価格の物だけにしよう」と思っていたのに、「これでおしまい」と支払いや郵送の話を始めても、お構いなしに、どんどんすてきな写真が追加で送られてきます。「ええーー、それもすてきだね、なんで今、出してくるのよ、それも欲しい!」というやり取りが続きます。

バティックも本当に一期一会なので、「じゃあ、さっきのはやめて、こっちに」とはならず、「追加でこれも」となってしまうんですよね。決めていた1枚の上限金額も合計金額も、すぐになかったことに……でも、すてきな買い物ができて大満足、これは楽しい!

壺が布一面に描かれている。色もモチーフもかわいい

よく見ると、壺は「メガムンドゥン」(チレボンの伝統柄で、雲または岩を表す)の上に載っている

「赤ずきんちゃん」をバティックにしたもの。東洋風

摘んだ花を手に持った赤ずきんちゃんとオオカミ。背景の処理も面白い

「Sekar jagad」と呼ばれる花模様。「多様性」という意味も込められているようだ

さて次は、本命の「バティック・カトゥラ(Batik Katura)」。

これまでにも、工房で新作が仕上がると「こんな新作あるよ、どう?」と写真を撮って送ってくれたりしていたのですが、写真だけでは決断できず、いつも「次に行った時に見せて」というやり取りばかりでした。

今回のお目当ては、とてつもなく気になっていたスンダガムラン柄のバティック。ワヤンの登場人物がスンダガムランを演奏しているという、ジャワガムランを習っている私にはたまらない一枚。色味といい、人物の表情といい、細かさといい、写真や動画で見て、うっとりしていました。

ガムランの楽器を演奏する人、踊る人、木や雲や太陽……ユーモラスで生き生きした情景に引き込まれる

人物の服、ゴングの端など、見てください、この細かさ! もちろん手描き

連絡した時点で、この一枚を買うつもりだったので、すぐに購入決定。スンダガムランのバティックは青系と赤系と2枚があり、同じくカトゥラさんのバティックのファンである友人にも声をかけてみると、すぐに乗ってくれました。

3人目は、インドラマユのアアット(Aat)さん。

インドラマユのバティックは、びっくりするほどお値打ち価格。商売っ気がなく、とても謙虚なアアットさん。これまた「友人を巻き込もう!」とバティック好きの友人5人に声をかけてWAグループを作りました。アアットさんに写真をシェアしてもらい、5人で買い物スタート!

「これはいくら?」「何の模様??」などのやり取りをしながら、皆それぞれが購入商品を決めるのを見ているのも楽しいんです。「ああ、彼女はこういうイメージだなあ」とか「やっぱりそれを選んだか!」など、横とのコミュニケーションもあって、皆で一緒にインドラマユでバティックを広げて買い物をしているかのようでした。

両方ともインドラマユの伝統模様。手描きだが、手ごろな値段なので服にしてもいい

こうして、全てWAでのやり取りでバティックを購入し、あとは到着を待つのみ! 皆さん、すぐ郵送してくれるので、翌日には届いてしまうのがまたうれしいですね。そして、ドキドキしながらバティックを取り出してみると、想像を超えて、どれも良いんです!

バティックに裏切られることがないとはわかっていましたが、ドキドキ感がプラスされた新たな楽しみ方を知りました。

ただ、この楽しみを知ってしまうと、とても危険です。インドネシア各地のバティック工房に連絡してしまいそうなので、思い入れのある工房だけにとどめておきます。

美しいものはやはり、生活を豊かにしてくれますね。今日は空が青いなあとか、アパート敷地内に咲く花がきれいだなあとか、自然や芸術作品など美しいものは当然変わらずに美しい。美しいものを見る時間が、今、幸せをくれたり、いろんなことを思い出させてくれたり、気付かせてくれます。

3人の方との数日間のやり取りで、気付けば、バティック買い物旅行に行く時よりも財布の紐が緩んでしまっていました。恐るべし、モバイルバンク。

西川知子(にしかわ・ともこ)
通称「しるこ」(「汁粉」ではなく「知る子」です!)。大学で押川典明先生、佐々木重次先生に師事してインドネシア語を習う。バンドンのパジャジャラン大学に留学。2006年からインドネシア在住。「カフェ・モンド」共同創立者の1人で、現在は日系デジタル・メディア会社の駐在員。

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