【インドネシア居残り交換日記】 Day 16 西宮奈央(バンドン)  2020年5月13日  バナナチャレンジ

「農地開墾」と称し、下の空き地の草を刈って畑にしているわけだが、実は、この空き地には、使える植物がいろいろ生えている。

バナナは何カ所かで群生し、定期的に大きくたわわな房を付けてくれるし、シンコン(キャッサバ)もあちこちに生えている。タロイモも、オカワカメ(雲南百楽)もある。いずれもほぼ野生化してはいるものの、健やかに育っているのだ。

それらを採ってきて、食卓に載せる。感覚としては山菜採りに近いかもしれない。あるからと言ってそれを料理する必要はないし、実際これまではバナナの実以外はほぼ触れずにいた。が、今はこうして時間があるのだから料理してみたい。食べてみたい。

収穫した、右から時計回りに、シンコンの葉、バナナのつぼみ、シンコン芋

この日は、シンコンの芋と葉、そしてバナナのつぼみを収穫した。

なじみのあるシンコンは大丈夫。問題はバナナのつぼみだ。このコロナこもり以前は、食べたことはあっても自分で料理したことはなかった。そういう食材を前にした時、普段なら、ビビ(この家に20年近く来てくれている通いのメードさん)に聞けば何でも教えてもらえる。けれど、ビビにもお休みを取ってもらっている今、頼れる人がいない。

先月、初めてバナナのつぼみを収穫した際、ざっとインターネットで検索し、「苦みを除くために下ゆでする」という情報を得ていた。そして、まあわりとおいしく食べられた。ということで、この日は2度目のバナナチャレンジ。空き地のその下にある雑木林で採ってきた未熟パパイヤと、庭で採れた唐辛子も用意して、いざ。

バナナのつぼみは、まるでタケノコのよう。皮のようにみえるガクを一枚剥(は)がすごとに、一列に並んだ花たちが現れる。もう一枚剥(む)けば、また一列。

この花を食べるのだが、さすがに外側の花たちは育ち過ぎて苦そうだ。一体どの辺りから食べられるのか、教えてくれるビビがいないので「見た感じおいしそう」を基準に自己判断する。

どんどん剥(む)いていく。内側に行くほどに、ガクは赤からクリーム色になってくる。赤いガクは繊維質で硬いが、内側の部分なら軟らかく食べられるというのは前回で学んだ。食べられるのはどの辺りからなのか、これも自己判断。

櫛(くし)形に切ってみると、写真を撮っている場合ではないくらい、みるみるうちに黒ずんでいく。恐るべき、バナナのアク。沸騰させておいた湯にあわてて放り込む。

花は花で、房をばらしてから別の鍋で下ゆで。いったんゆでこぼしてから囓(かじ)ってみるが、まだ渋いので再度湯を沸かし、塩を足してから再びゆでる。ころ合いで上げて、水に取ってすすぎ、柔らかく絞ってから、刻んだパパイヤと合わせる。

唐辛子、ニンニク、ニラ、ミント、パクチーを刻んで合わせ、塩と砂糖と魚醤とライムで味を整える。冷蔵庫にあった食欲そそるものをかき集める感じで。

さらに、プテ豆(これもパパイヤ同様、下の雑木林に生えている。大量に実を付けた時にビビが収穫して来てくれた)の酢漬けも刻んで加える。おいしい和え物になった。

さて、再びガクの方。二度ゆでして渋味は抜けたものの、すっかり黒ずんでいる。こんなはずではなかったと落ち込みながらざく切りにし、同じように下ゆでしたシンコンの葉と合わせ、シャロットとニンニクを飴(あめ)色に炒めてから、刻んだ唐辛子と塩と砂糖を加えた「サンバル・バワン」で和える。

右がバナナのがくの炒め物、左がバナナの花の和え物

バナナのつぼみの「黒くならない、正しい下処理の仕方」とかが、きっとあるのだろう。もしくは、黒くなりにくい品種とか。ビビなら知っているはずなのだ。いつかビビに「違う、そうじゃない!」と指導されながら、この我流のバナナ処理を正してもらいたい。そして、スンダ風のバナナのつぼみ料理を教わりたい。

そう思っていたところに、ビビの娘たちが、手作りのレバランのクッキーを届けに来てくれた。みんな元気にやっていると言う。よい知らせだ。そして空き地には、また新たなバナナのつぼみが生まれている。

西宮奈央(にしみや・なお)
2004年よりインドネシア在住。ジャカルタでの日系企業勤務を経て現在はフリーの通訳。業務スケジュールの合間を見つけてはインドネシア各地へ旅をするのがライフワーク。ただいま、スケジュールが空っぽな上に旅行にも行けない外出自粛ジレンマで「これが終わったら行く所リスト」が伸び続けている。

西宮奈央さんのMASAK KIRA-KIRA バックナンバー
#1 イチゴとクマンギのシャーベット
#2 ココナッツ・レモン・チキン
#3 ソムタム2種
#4 パン粉のスープ
#5 花椒風味の中華風チキン
#6 キャロット・ジンジャー・ケーキ
#7 タンドリー風の焼き魚
#8 桜色のビーツのペスト
#9 チェコ風ジャガ芋のパンケーキ
#10 ナツメヤシのトリュフ
#11 ラープ
#12 キャッサバとココナッツの焼き菓子
#13 3色のスープ
#14 アボン・イカン
#15 イカン・カンジョリ
#16 トウガラシのジャム
#17 カリフラワーのスパイシー・フリッター
#18 ベトナム風蒸し鶏とスープ(フォー・ガー)

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