「OH桑(王さん)」と台湾…偉大すぎる親善大使をウォッチャーが語る

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台湾では来月(2024年1月)に総統選挙が控えている。だが、先週末はその総統選挙以上に、話題を集める出来事があったという。東アジア情勢に詳しい、飯田和郎・元RKB解説委員長が12月7日に出演したRKBラジオ『田畑竜介 Grooooow Up』で紹介した。

台北ドームの始球式

「世界のホームラン王・王貞治」。われらが福岡ソフトバンクホークスの王球団会長が、久しぶりに台湾を訪れた。王会長は東京で生まれたが、父親が中国出身だ。その父親が戦前、日本へやって来た時の中国は「中華民国」、すなわち現在、台湾にある政府だ。

中国と台湾の話は、今日的には政治の色を帯びるのだが、それは抜きにしたい。台湾の人たちは、王会長の来訪を大歓迎した。大盛り上がりだった。

王会長は12月2日、台北の中心部に完成した屋根付き球場「台北ドーム」のオープニングセレモニーに、来賓として招かれた。王さんはマウンドに上がり、始球式を務めた。高校時代は、早稲田実業のエースで、甲子園の優勝投手だ。始球式の映像を見たが、83歳の今も、サウスポーから見事なピッチングを披露した。台湾のテレビ局は、それを「台湾野球における歴史的な第一球」と紹介していた。

王さんはマウンドの上から、お祝いのメッセージを述べた。

「いま、ここに立ちまして、35年前に東京ドームが出来た時、そのグラウンドに立った時に、足が震えたことを思い出します。いま、台湾代表チームの人たちも同じ思いではないかと。そのように思います」

さらに王さんは、グラウンドに整列していた台湾代表チームを激励した。

「明日の試合。頑張って、(こけら落としの対戦相手)韓国チームに勝ってください」「私の希望は、3年後のWBCで、日本チームと台湾チームが手を携えて、アメリカ・ロサンゼルスへ乗り込むことです」

3年後のWBC(第6回ワールド・ベースボール・クラシック)の準決勝・決勝はアメリカで開催されるとみられる。「日本と台湾どちらも勝ち上がって、その準決勝・決勝に一緒に進もう」ということだろう。台湾代表チームの監督や選手一人ひとり、全員と、王さんは握手して励ました。これは、王さんの人柄がわかる。

王さんは台湾でも人気

王さんが台北入りした時も、ニュースになっている。空港の到着ロビーに王さんが現れると、横断幕を広げた大勢のファンが待ち受けていた。テレビクルーからマイクを向けられた王さんは、こう話していた。

「まさか、こんなに多くの皆さんに、迎えていただけるとは思いませんでした。皆さんの温かい気持ち、本当にうれしいと思います」

空港のファンは声を合わせて、日本語で「王さん、台湾へようこそ」と言いながら、出迎えていた。王さんも感激したようだ。

ちなみに「王」は中国語の発音は「ワン」だ。しかしこれだけの有名人で人気があると、「おうさん」は固有名詞になっている。日本の植民地時代の名残が今も残る台湾では、日本語がそのまま台湾社会になじんでいることが多い。

たとえば、「父親」は、「トウサン」と呼ばれることがある。字は「(「多い・少ない」の)多い」という漢字に、「さん」は「(「桑の木」の)桑」という漢字。この2つの漢字を向こうの言葉で発音すると「トウサン」となる。

「王さん」の場合、アルファベットの「OH(感嘆の意味)」に、「さん」はやはり「桑」。合わせて「オウサン(OH桑)」。OHといえば、現役時代、感嘆するほどホームランを打ちまくった王貞治会長らしい。上手くネーミングしたものだ。だから、台湾ではアルファベットの「OH」に「桑」を並べると、「世界のホームラン王・王貞治」の固有名詞になる。

日本のプロ野球史上初の海外公式戦

王会長が福岡ダイエーホークスの監督だった2003年5月、ホークスはオリックスと台北で公式戦を行った。日本のプロ野球が、戦後初めて、海外に飛び出す歴史的な一戦だった。

私は毎日新聞の台北特派員で、ちょうど台湾にいた。新監督の小久保裕紀選手、元監督の秋山幸二選手らがホームランを打った。同点で迎えた9回、松中信彦選手がホームランを打って5対4でホークスがサヨナラ勝ちした。

あの頃のホークスも、スター選手がたくさんいたが、台湾のファンにとって、最大のスターは王監督だった。球場はすごい熱気、宿泊していたホテルのロビーはファンで身動きが取れなかったのを記憶している。

王さんは、まさに「台湾の英雄」だ。2015年に、台湾の野球殿堂入りもしている。それは、現役時代、監督時代の偉業だけではない。台湾で開かれた少年野球の世界大会に訪れたり、台湾プロ野球の開幕式にも参加したりするなど、プロ・アマを問わず、台湾球界の発展に大きく貢献してきたからだ。

この台北ドームのオープニングセレモニーで、台湾の中華民国野球協会の辜仲諒理事長は、王さんについて「優れたスポーツマンというだけではなく、社会に大きな影響力を持つ。野球少年を指導してくれたり、アドバイスを送ってくれたりしている」と話している。

また、理事長が個人的に、王会長からもらった「人生最高のアドバイス」は、「決してあきらめないこと」だと紹介している。「どん底まで落ちても、努力を重ね、自分を磨くこと。良き先生に出会い、訓練に訓練を重ねると、必ず壁を突破する時が訪れる」だったそうだ。

台湾球界でも日本球界でも大きな存在

王さんはもちろん、日本の至宝だが、アジア全体にとっても、ほかの人が取って代われない存在だ。あれだけの名選手・名監督だが、あの人柄・人格は接した者だれもが、魅了されてしまう。私も仕事柄、挨拶する機会が何度かある。私にだって、あの笑顔で、丁寧に話しかけてくれる。「世界の王貞治」が、だ。

王さんに握手してもらった台湾選手は誰だって、奮起するはずだろう。台湾チームは翌3日、韓国代表チームと対戦し、4対0で勝った。このところ、韓国との対戦では2回続けて負けていたので、王さんからの激励がさっそく効果をもたらしたのかもしれない。

3年後の次回WBCでは、王さんが願うように、日本と台湾が準決勝・決勝に進出できたら、素晴らしいが、その一方で、台湾は日本にとって、手ごわいライバルになるかもしれない。もちろん、韓国も強いが。

王貞治会長は台湾での始球式の翌日、福岡市内で開かれた、ホークスの新入団選手ウエルカムパーティーにも出席している。来シーズンは王座奪還を目指すホークス。王さんは大きな存在だ。

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__◎飯田和郎(いいだ・かずお)
1960年生まれ。毎日新聞社で記者生活をスタートし佐賀、福岡両県での勤務を経て外信部へ。北京に計2回7年間、台北に3年間、特派員として駐在した。RKB毎日放送移籍後は報道局長、解説委員長などを歴任した。__

田畑竜介 Grooooow Up

放送局:RKBラジオ

放送日時:毎週月曜~木曜 6時30分~9時00分

出演者:田畑竜介、田中みずき、飯田和郎

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