絶版「たぬき学校」を復刻、CKD梶本会長 素直に謝罪することの大切さ学ぶ 被災地の小学校に寄贈

CKD・会長の梶本一典さん

愛知県小牧市に本社を構える機械メーカー・CKD。創業80年、世界のものづくりを支えています。「読んで行動を起こせるような本が好き」と話すのは、会長の梶本一典さん。さまざまな本を読んできた梶本さんの愛読書を教えてもらいました。

「たぬき学校」今井誉次郎 著

梶本さんがおすすめする一冊は、児童向け文庫「たぬき学校」。1950年代を舞台に、擬人化した「たぬき」の小学校生活を、ユーモアを交えて描いた作品です。すでに絶版していましたが、梶本さんは被災した小学校1240校に贈りたいと、復刻させました。

CKD代表取締役会長 梶本一典さん:
とても思い入れの強い本です。2012年に「たぬき学校」を被災地の小学校に贈りました。たぬきの先生に、たぬきの生徒と、登場人物はみんな「たぬき」で、読んでいて気持ちがほっとします。被災地の子たちにも気持ちがほっと温かくなってほしいという思いで届けました。

被災地の悲惨な状況を見て奮起

絶版だった「たぬき学校」を復刻

2011年5月に、CKDの仙台の事務所を訪れました。東日本大震災の被災地で、がれきの山を見たんです。たくさんの方が被災されて、工場も全部流されていました。当時、復興支援として「働ける場所を作りたい」と考えていましたが、困難な状況に。そこで義援金を出して愛読書の「たぬき学校」を復刻させ、小学校に寄贈しようと思い立ちました。

本を贈った小学校から手紙が届いた

――「たぬき学校」を実際に小学校に寄贈して、反応はありましたか。

何通も手紙が届きました。1校は長文でお礼状をお送りいただき、写真も同封されていました。「こんな祭りが開催できるようになった」と。2013年に再度、気仙沼の小学校を訪れて、校長先生に会いに行きました。10年後、20年後、子どもたちが成長して大人になったときに、東日本大震災での出来事にどれだけ影響を受けるだろうか、と心配していましたね。

力を合わせることは、心を合わせること

読み聞かせで知った「たぬき学校」

――「たぬき学校」に出合ったのはいつ頃ですか。

当時小学1、2年生のときです。先生の読み聞かせで気になって、図書館まで「たぬき学校」を借りに行って家で読んでいました。

印象に残る2つのシーン

特に印象に残っているシーンが2つあります。1つは掃除をするシーン。「先生がみんなで力を合わせて掃除をしてください」と生徒にお願いする場面があるんです。ほうきをみんなで持ったり、机をみんなで持って移動したりと、みんなで一緒にやろうとしてもうまくいかない。そこで役割分担をしたところ、うまく掃除ができました。

生徒たちは「協力する」ことを、「一緒にやる」ことだと思っていたんです。みんなで分担して掃除したことを先生に話すと「力を合わせるということは、心を合わせること」と生徒に説きました。これは非常に良い言葉だと感銘を受けましたね。

先生が生徒に謝るシーンは現代にも通じる教訓

上司が部下に謝罪することの重要性

もう1つは先生が生徒に対して謝るシーン。これは現代にも通じます。ある日、習った文字を100字書く宿題が出るんです。その宿題をしなかった生徒に対して、先生がものすごくしかるんですよね。ところが生徒は「なぜその宿題をやる必要があるのか」と抗議。先生は「文字を覚えるためにやるんだよ」と説明しますが、生徒は「覚えているから書けるよ」と食い下がります。そこで先生がテストを出題すると、生徒は全部書けてしまうんですよね。

そんな生徒に、先生は謝るんです。とても大切なことだと思いました。現代はハラスメントが相次いでいますよね。上司が部下に謝罪することの重要性を、この本は教えてくれていると感じます。たぬきという、ほんわかした動物を使って、子どもたちに道徳の話を伝える、とても素晴らしい作品です。

「たぬき学校」を復刻させて寄贈したい 思いに共鳴してくれた

「たぬき学校」の手ぬぐい

――作者に復刻しようと持ちかけたときは、どのような反応でしたか。

とても喜んでくれました。本を執筆した今井誉次郎さんの子孫の方と、イラストを描いた方にCKDの役員が会いに行きました。作者の子孫である今井さんは岐阜県の白川村あたりに住んでいて、復刻の話が村中で話題になったそうです。完成した本を何十冊か届けると、手ぬぐいを作って送ってくれました。

「たぬき学校」は一生忘れられない本

「たぬき学校」は一生忘れられない本ですね。作者や印刷会社の方、たくさんの方の力を借りて完成させることができた、かけがえのない宝物です。

東日本大震災から12年経って、「たぬき学校」を寄贈した当時の子どもたちは、もう20歳を過ぎています。その子たちが、これからもしっかりした大人に成長してくれるとうれしいです。

■「たぬき学校」今井誉次郎 著
教師として教育に情熱を注いだ今井誉次郎の児童向け文学。1950年代を舞台に擬人化した「たぬき」の小学校生活を、ユーモアを交えて描いた作品。

© テレビ愛知株式会社