【インドネシア居残り交換日記】 Day 13 岡本みどり(ロンボク)  2020年5月10日 断食月の食事

今、私たちイスラム教徒は断食月の真っ最中。最大の関心事は……コロナ……ではなくて、日々の断食です。

新型コロナ・ウイルスは話題になってきていますし、マスクも手洗いもして、外出も控えめではありますが、「考えても仕方ないし、それより目の前の断食をちゃんとしよう」という意識のように見えます。村に一人も感染者が出ていないのも、心理的に影響していると思います。

今年は帰省禁止ですので、ジャワ島、バリ島、海外などにいるロンボク島民は帰って来ることができません。服などの購買意欲も落ちていますから、もうすぐレバランだ、というそわそわした華やいだ雰囲気はないかもしれません。しかし、断食月にすべきこと(断食、お祈り、喜捨)は例年通りです。

断食月の朝は早いです。朝というより夜。午前3時前からお湯を沸かしたり、前日の夜の料理を温め直したりします。3時半ごろ、軽い朝食と水分を取ったら、後は日没まで飲食できません。

日没時はパッと村中が華やいだ気分になって、一斉に飲み物で喉をうるおし、いつもより少し豪勢な料理を食べます。一日断食したんですもの、これくらいの楽しみがあってもいいですよね。料理が好きな私にとって、この断食月の料理作りは腕の振るいがいのある楽しいひとときです。今年は家にこもっているのでなおのこと、いつもより手間のかかる料理もできそう……ムフフフ。

午前中に食材を調達します。私の住んでいる所はショッピングモールどころかスーパーマーケットもありません。ゴーフードもありません。食料を得られるのは田畑か海か、小さな商店か、市場のみ。ですので、通常は「ソーシャル・ディスタンス」の「ソ」の字もないほど混み合っている市場で買い物をすることになります。例年より2割ほど客足が鈍っているように感じますが、世界中のロックダウン地域にお住まいの方々が見たらちょっとギョッとされるほどには混んでいます。が、ここでは、これ以外の方法がありません。

市場では、知人や友人、売り子さんと情報交換をします。今日は何を作るの? だったら、あの人のが安いよ……、スパイスはこれとこれを使うんだよ……、何でも教えてもらえます。今日はたまたま市場で会った義姉から「後で、みどりの家のモリンガを摘みに行きたい」と声がかかりました。はい、どうぞどうぞ。「リックリックを作るんだけど、いる?」。リックリックとは、モリンガや野菜を爽やかな味に調えたココナッツミルク・スープで煮たロンボク島の郷土料理です。私の好物でもあります。「いるいる!」と元気に返事をしました。

リックリック。とてもおいしいです!

姪がリックリックのほか、お菓子なども持って来てくれました

こうしてご近所さんや親せきたちと、多めにつくった料理やおやつを分け合ったりするのも、断食月の楽しみの一つです。今年は例年よりも控えめですが、それでも毎日、誰かが何かしらを持って来てくれます。

食材を調達したら家に帰って、お昼ごろには昼寝をしてエネルギーをためます。まだ断食をしていない幼い娘用の昼食は超簡単な物か、昨日の残り物(娘よ、ごめん)。夕方4時ごろになると、台所へ。今日も頑張るぞー。

料理を頑張り過ぎて断食に集中できないのは本末転倒なので、近所のお惣菜屋も随時利用します。我が家は飲み物やおやつを買うことが多いです。ここでもたくさんの人が並んでいますが、これを規制するのは難しいでしょうね。

断食明けの料理作りや準備は大変楽しいのですが、難しいことが一つあります。それは、味見ができないこと。はい、断食中ですからね。私はまだインドネシア料理の味付けに自信がないので、料理本を片手に、レシピに忠実に料理をしています。

使っているインドネシア料理の本

午後5時ごろになると、いよいよ大詰めです。ひたすら揚げるか鍋を振るうかしています。5時半には大体の料理が終わり、水浴(マンディ)をします。さっぱりしたところで、お皿などを準備して、断食明けの時刻をそっと待ちます。

午後6時過ぎ、日没のお祈りの呼びかけがモスクから聞こえると、一日の断食が明けます。さあ、いっただっきまーす。

今年は友人らと大人数で集まる断食明けの会食(buka bersama)が禁止されています。私のいる地域は、家族親族が肩を寄せ合って住んでいる小さな集落なので、そういう会食は例年もほとんどありません。断食明けの食事は皆、家で家族と食べます。

家族みんな元気に食事にありつけた喜びとおいしい料理とで、あっという間に心も体もいっぱいになります。なのにこの後、おしゃべりしながらダラダラとおやつやコーヒーを口にします。それもまた楽しいんですよ。

家族での食事

コロナで大事なものが浮き彫りになった人は多いと思うのですが、私たちの村はそれを地震で経験したので、コロナの前後というより、ビフォー・ゲンパ(gempa=地震)、アフター・ゲンパ、なのかな……。

地震の時もそうでしたが、将来的な経済損失などを考えても気が遠くなるだけなので、今日一日を暮らせることを優先しているように思います。元々、質素でささやかな暮らしをしている人がほとんどですしね。

全体的な影響はコロナの方が大きいですが、命の危機を感じたインパクトは地震の方が上回っていると感じています。

いずれにしても、命があって今日のごはんを食べられることはありがたいことですよね。

今日も一日お疲れ様、そしてご馳走様でした。

岡本みどり(おかもと・みどり)
2010年から2年間、青年海外協力隊の栄養士隊員としてロンボク島の西ロンボク県へ派遣される。2012年、任期満了後に結婚。北ロンボク県へ移住し、現在に至る。2018年のロンボク地震被災後は、家族のストレスケアのため、家族中心生活へ移行。主婦。

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