【インドネシア居残り交換日記】 Day 11 松下哲也(東ヌサトゥンガラ・アドナラ島)  2020年5月10日 日曜の釣り

インドネシアから日本に帰るかどうか?
今回のCovid-19の流行で考えたことはあまりない。
それよりも今年2月に会議で日本へ行ってたので、インドネシアに戻れるかどうかを心配した。
当時、日本はダイヤモンド・プリンセス号に増える感染者で、てんやわんやの時。そして私は全然信じてなかったがインドネシアは感染者ゼロ。
それから無事にインドネシアへ帰れたが、状況は日本もインドネシアも激変し、どんどん増えていく感染者。

インドネシアに戻って来た私がビビってたのは、まず、レバランの帰省による感染拡大だが、その前にパスカ、復活祭である。
私の住む島の辺りは交通の要所で、大航海時代にはポルトガルが進出して要塞の構築や宣教が行われた。その後に来たオランダと争い、ティモール島に撤退するわけだが、カトリック教徒はオランダの支配やムスリムの圧迫の中で、フローレス島ララントゥカを中心に信仰を守り抜いた。
そういう歴史からインドネシアのカトリック教徒の間ではララントゥカは聖地みたいな扱いで、復活祭はミサやパレードが盛大に行われる。ジャカルタやスラバヤからもたくさんの人が押しかける。
その時にウイルスが持って来られるのでは?と恐れたのだが、教会関係者やお役人はその辺りをちゃんと考えていて、ララントゥカ唯一の航空便にフェリーも運航停止。復活祭も、パレード中止にミサは信徒を入れずにネット中継と。

そういう措置が、どんどん広がる。この時期は真珠屋にとって「核入れ」という忙しい時期だけど、1週間、仕事停止。その後も村ごとの閉鎖が行われたため、会社のある村の従業員だけが出勤可能となった。
そういう理由で仕事がどんどん遅れる中、外部からのウイルスの侵入を恐れる住民の意向で、他所からの貝の搬入ができないと。仕事面ではかなり悪影響が出ている。
そこに閉じ込められる生活がかなりのストレスに……なってないかな。

というのも日常生活は普段のそれとあんまり変わりない。
普段の私も、隣接している自分の部屋と職場の往復だけで、外にはあまり出歩かない。
たまにバイクでララントゥカの街へ銀行などの用事をこなしに行き、その時にお菓子買ったりパダン飯食べたり。
それらができなくなったのは確かに辛く、もう長い間、固形の甘い物は果物以外、口にしてない。
あと、かみさんや子供はティモール島のクパンにいますが、帰れなくなったので、2月から会ってないです。
そういう不便と仕事がしにくくなった以外は、そんなに変化は起きてないのが実情で、例えばマレーシアの邦人がジョギングして捕まったって話がありましたが、会社の桟橋で走る私は、今回の騒動で暇を持て余して逆に走る距離が増えたり。

それ以外の楽しみも。私がこの仕事を選んだのは「南の海で思う存分、釣りをしたい」という理由だったのですが、会社内でも、メッキだのメアジがそこそこ釣れるので、楽しく遊んでおいしくいただく。

陸路での移動は制限があるし、渡し船やフェリーは止まってますが、燃料は普通に供給されているので、会社の船で釣りに。

交換日記の執筆依頼が来た時に「あんまり変わってないしなあ」と思ったのですが、それを書いてもいいと言うので、よくある日曜日の過ごし方を。

朝4時に起床。
やって来た従業員と一緒に道具を船に積み込む。
今日の船長はアリ君。
釣りはなかなかうまい。

この日は東に向かい、捕鯨で有名なレンバタ方面へ。

まず目指すのは、スワンギ島という無人島。
レンバタ島とアドナラ島、ソロール島の間にある水道を南に出た所にある島で、水道を抜ける潮流がまともにぶち当たり、洞穴まで出来ている。
そのために魚影が非常に濃く、本で紹介されるダイビングスポットでもある。そして、その本を読んでたどり着いた私によって数々の大物が釣り上げられ、同時に、数々の大物にコテコテにやられたポイントである。

そのスワンギ島で釣り開始とルアーを投げるが、潮が止まってる。
到着時刻がちょうど干潮時。
潮が動かないと、やはり食ってこない。

スワンギ島。釣れない

ということで朝ごはんに。
この日は冷やしうどん。
釣り場に持ち込むごはんは前の日にゆでて冷蔵庫に入れておいたうどんかそば。
朝にわざわざ準備してもらう必要がないし、冷やしておいても十分おいしいし、汗をかきまくる海上での釣りでは、めんつゆが、ええ塩分補給になると。

朝ごはん

ご飯をおいしく頂いてしばらくすると潮が動き出したので、ここぞ!と重たいルアーを投げまくる!
が、来ない。
ルアーをあれこれ変え、島の周りをしつこく流すが来ない。

水温下がってるからトップウォータープラグ(表層を泳ぐルアー)には出ないか……。
原稿は、ボウズで魚が釣れないカナシミをネタにするか?

と思ってたら出た。
よそ見してたら出た。

これがよそ見メソッドである。

説明しよう!
この釣りは非常に重いルアーを激しく動かす。
そのためにガムシャラにやっているとバテてしまう。

従って、慣れた釣り人はリズム良く、無駄な動きをしないように釣り続ける。
しかし、そういうやり方だとルアーの動きが単調になって魚に見破られてしまいます!
そこで魚を飛びつかせるのに必要なイレギュラーアクションを生み出すために、わざとよそ見をしたり気を抜いたり、おしゃべりをし、なおかつ殺気を消す達人の技である。
嘘です。

アタリに反応して合わせを入れる。
魚が反転して糸を出そうとするので、そうはさせじとリールにスプールを握り締めて糸を止める。
そして船を後進させて魚を引っ張って島から引き剥がす。

そうやって根に擦られて切られる恐れが減ったら、竿を腰だめにして一気に浮かす。
この時、ものすごく緊張した。
原稿書くのに必要なお魚。
絵になるお魚。
そいつを我が手に!
どうか針ハズレしませんように!とあらゆる者にお願いをした。

その甲斐あって無事に獲れたのはロウニンアジ。
そんなに大きくないが、こういう状況なので、ものすごくうれしい。
ボウズ釣行記を書かずに済むと。

ロウニンアジ

これでもう帰ってもいいくらいだが、そこは釣師の性。
さらに魚を求める欲深さ。

少し離れてジギングをする。
先ほどのロウニンアジはルアーを投げたが、ジギングはメタルジグという、鉛で出来たルアーを真下に沈めて動かして釣る。

始めてすぐに、アリ船長にアタリ。
でも針のそばを切られたらしい。
歯の鋭いイソマグロか?
頑張ってシャクる私にアタリ。
あんまり大きくない。

カスミアジ

釣れたのは先ほどのロウニンアジのお仲間カスミアジ。
カスミアジを釣った後に潮が緩み出したので移動することに。

一気に東へ走ってラマレラ村近くまで足を伸ばす。
ラマレラ村はレンバタ島の最南端にあり、非常に潮通しがいい。
そこへ、地形が急で、海岸から一気に水深が落ち込むという環境。
だからこそマッコウクジラがそばを回遊するので、捕鯨漁が行われてきた。

レンバタ島ラマレラ村

ラマレラ村の手前でロウニンアジを狙って投げるが反応がない。
ではジギングだと、メタルジグを落とす。
着底し、しゃくり上げるとアタリ。
でも、私でなくアリ船長。
結構大きそうである。

アリ船長ヒット

底からなんとか離したので、これは獲れるやろと見物してたが、深場で掛けたせいか途中でへばったので交代。
変わった時点でも抵抗するので、もしや?と思う。上がってきたのは予想通りヒレナガカンパチ。
実においしい魚である。

アリ船長とヒレナガカンパチ

そういうのを見せられてヒートアップ。
600グラムのメタルジグを150~200メートルへ沈めてウリャウリャとシャクリまくるが、そうは簡単にいかない。
バテました。
そこで朝のうどんの残りで昼ごはんに。
ニピス汁を絞り込んだ麺つゆおいしいとやってると、また曲がるアリ船長の竿。

やられた……。

今度は真っ赤なオオクチハマダイ。

オオクチハマダイ

そこから、またウリャウリャやったわけですが。その後、海は沈黙したままで。

でも原稿書けるくらいの魚は得たと、機嫌よく帰路に付き。

後片付けをして

ちょっと走って

会社の福利厚生施設の温泉に浸かり

上がってビンタンビールを一杯やって

大河ドラマに涙して

就寝

といういつもの日曜日を過ごしました。

世界がこんな状況の中で、いつもの日常を過ごせることに感謝すると同時に、状況がさらに悪化せずに皆さんへも日常の生活が戻ってくることを祈ります。

松下哲也(まつした・てつや)
1995年にインドネシアへ。真珠屋。小物釣師。のんびりライダー。元・無神論者のクリスチャン。東ヌサトゥンガラ在住。

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