高校生の力で地域を、社会を変えていこう――第4回SB Student Ambassador ② 西日本・東日本ブロック大会

サステナブル・ブランド ジャパンは、SB Student Ambassador(SA)ブロック大会のうち、西日本大会を10月15日に、東日本大会を10月22日に開催した。西日本大会では99人、東日本大会では157人の高校生が参加し、社会起業家や企業のサステナビリティに向けた取り組みを学び、さまざまな社会課題の解決に向けて議論を深めた。参加した高校生たちはSAを経て論文を提出し、選考を通過した15校が来年2月21・22日の「SB国際会議2024東京・丸の内」に招待される。

基調講演 何よりも自分自身を信じてあげること

清水イアン氏

今年の西日本大会と東日本大会の基調講演には、森林カーボンクレジットなどに取り組んでいる3T(スリー・ティー)CEO / Co-Founderの清水イアン氏が登壇し、「環境危機時代をどう生きるのか?」と題して講演した。冒頭、清水氏は今年の夏が殊更暑かったことに触れ、「このままいくと多くの尊い命が失われ、格差が広がり、私たちの暮らし自体が破綻しかねない」と危機感を露わにした。

清水氏は大学2年生の時に気候危機の深刻さを知り、自分の無力さに絶望したという。就職すると「環境を良くしたい」という志を忘れてしまうと思い、卒業後に就職しないという選択をした。環境NGOで活動したり、ラジオ出演をしたり、世界中の森林プロジェクトに寄付できるアプリをクラウドファンディングで集めた資金で立ち上げたこともあったが、不安定な経済状況が続いたコロナ禍の影響を受けて中止。「それまでの人生の中でのいちばんの大失敗。自分の夢が潰えた瞬間でつらく、何よりも恥ずかしかった」と話す。

だが、自分の目標はアプリを成功させることではなく、「環境を保護し再生すること」だと気づき、カーボンクレジットを生み出す森をつくることをパーパスとした3Tを設立した。3Tは15年以内に、東京都と同じ面積の森をアフリカで作ることを目指しているが、清水氏は「実現できると確信している」と胸を張る。

最後に清水氏は、自分の経験から学んだことから、「BELIVE IN YOURSELF(自分を信じること)」、「KNOW YOURSELF(自分を知ること)」、「KEEP GOING(自分が納得する方向へ進み続けること)」、を会場の高校生に伝え「この世界で皆さんに実現できないことはない。皆さんなら世界を変えることができる」とエールを送った。

● 西日本大会 =10月15日、関西大学にて開催、 19 校 99人参加=

西日本大会は、日本旅行 執行役員 関西エリア代表の関昌博氏の「社会課題を身近に感じて、有意義な1日にしてほしい」という挨拶からスタートした。

非常食のおいしさや備蓄の重要性を発信――関西大学高等部

2月のSB国際会議で減災キャンプを提案した関西大学高等部の生徒たちは、その後日本旅行などの協力を得てキャンプを実施。さらに、2025年の大阪・関西万博終了後に多くの防災備蓄食品が余ると予測し、「非常食リメイク弁当を考案し、非常用備蓄食品が廃棄されず有効活用できる仕組みを構築したい」と、万博で採用される「サスティナブルストックプラン(持続可能な防災備蓄計画と多様な連携による防災備蓄食の廃棄ゼロへ)」に非常食リメイク弁当を提案することに取り組んでいると話した。

JETROと連携した「一村一品マーケット」

ジェトロが経済産業省とともに推進する「一村一品運動」の一環として、日本旅行がNPOなどと連携し高校生と取り組んでいる「一村一品マーケット」。同社 教育事業の早川千織氏は「開発途上国の現状を学んでもらい、高校生自身が現地で生産された商品を空港で紹介・販売するプロジェクト」だと説明した。

「美容と健康」をテーマにプロジェクトに参加した立命館守山高校は、ポップなどで来場者に商品のイメージが伝わるように工夫したこと、一方で「反省点は商品についてのプレゼン力が弱かったこと」などを話した。奈良育英高等学校は、「SDGsな午後のひととき」をテーマに、体と環境に優しいお茶や蜂蜜の販売に取り組んだ。その中で「来場者の生活や趣味などを聞くと、どの商品を薦めればいいか明確になった」と気づきがあったという。

西日本大会と東日本大会の企業パネリストとして、オンワードコーポレートデザイン、カンタス エアウェイズ リミテッド、日本貨物鉄道、YKK APが登壇し、自社の取り組みについて講演した。その後、高校生は各社が取り組んでいるテーマから関心があるものを一つ選んで、課題解決のディスカッションに挑んだ。

■サステナビリティの浸透はまず「きっかけ」から――オンワードコーポレート

リユースを考えた商品レンタルで意識を醸成

オンワードコーポレートデザインは、制服事業やインサイトセールスを事業とするBtoBビジネス企業だ。今年の9月からオンワード商事とオンワードクリエイティブセンターを合併し、社名を変更した。今後は、空間デザインやコミュニケーションなどを事業の新領域として力を入れていくという。

同社ワークスタイルデザイングループ ユニフォームセールス第2Div. コンサルティング1課 リーダーの森田一晴氏は「ヒトと地球(ホシ)の、明日(あした)の 笑顔をデザインしつづける。」が自社のパーパス(存在意義)だと紹介し、パーパス達成のため「寄り添う」「挑戦する」などの7つの価値観を設定し、社員一丸で取り組んでいると話した。

参加者に、サステナブルな取り組みを広めていくきっかけとして「自分の好きなこと・もの」を提案したのは、同課 課長の小池勇人氏だ。小池氏はマラソンが好きで「もし私がマラソン好きの人たちに向けて興味があることを発信したら、一気に何百万人に広がっていく」と話し、「サステナビリティの浸透は、まずきっかけがあってから意識が変わる。ぜひ覚えておいてほしい」とアドバイスした。

本プログラムのディスカッションテーマは、「サステナブルを浸透させる為に、ファッションの力でできること」だ。ファッションとは「衣類だけではなくデザインなどで生活を彩るもの」と定義した。ファシリテーターは、nestのメンバーで国際基督教大学4年の岡田羽湖氏が務め、参加者の学びを深める手伝いをした。

全体発表では、リユースをポイントにした「テーマパークでカチューシャをレンタルすること」の提案があった。キャラクターのカチューシャをレンタルすることで、SDGsを意識してもらい、周囲にも波及できるのではないかと考えたという。小池氏は、「テーマパークをファッションと捉え、3Rを入れ込み、浸透を考えた先進性を評価した」とコメントした。

■「モビリティ×SDGs」でカーボンニュートラルの達成目指す――カンタス エアウェイズ リミテッド

森林保全と被災コアラの支援で多くの人を巻き込む

カンタスグループでは「2019年比較でCO2排出量25%削減」「持続可能な航空燃料(SAF)を10%混合」など、気候変動対策計画を策定し取り組んでいる。柱の一つとなる「オペレーションと機材効率」では、2030 年までに燃費効率を年平均 1.5%改善することを目指しており、その取り組みの一つが、ボーイング747型機を「ボーイング 787 ドリームライナー」へ変換することだ。

従来の飛行機はまっすぐな形の翼が主流だが、ボーイング 787 ドリームライナーは先端が上向きになっており、空気抵抗が軽減するため、これまでの飛行機と比べて約20%の燃費が節約されるという。カンタス エアウェイズ リミテッド 日本地区営業本部セールスエグゼクティブの上村祐美子氏は、「従来の飛行機も上向きの翼に付け替える予定で、それにより年間8000トンのCO2削減が見込める」と話した。また機内食でプラスチックの使用を削減し、有機物は堆肥化するなど「ごみゼロフライト」を実施している。

ディスカッションのファシリテーターは、nestプロデューサーで横浜国立大学4年の入江遥斗氏が務め、高校生は「選ばれる航空会社になるために必要なこととは」をテーマに議論した。発表では「売り上げの一部を使って3Tと協業し植林する」「機内食を予約制にしてポイントを付与する。そのポイントを使い、森林火災で被害にあったコアラの移住を体験してもらう」など、ユニークなアイデアが出された。上村氏は「提案してもらった内容は一部取り組んでいる。現場に行くことがカギだが、改めていいポイントを教えてくれた」と述べた。

■サステナブルな物流実現のため、各輸送手段が連携を――日本貨物鉄道

地域の民間リソースの活用で、CO2排出量削減

日本貨物鉄道 経営統括本部 経営企画部 グループリーダーの石井智氏は、物流とは「物を運ぶ、物を保管する、物を詰めること」であり、運ぶ手段はトラック、船舶、鉄道、航空があると説明した。近年ではBtoC向けの輸送が増加しており、効率的な輸送を求める「改正物流総合効率化法」が施行され、鉄道・船舶などを活用した大量輸送が推奨されているという。

一方、トラックドライバーに関しては、働き方改革関連法によって労働時間が制限され、それによる減収が起き、慢性的な人手不足が起きる「物流の2024年問題」があると説明した。そうした中で、「サステナブルな物流を実現するためには、各輸送モードが柔軟に連携し、それぞれ得意な分野を発揮して続けることが求められる」と石井氏は話した。

ディスカッションのファシリテーターは、nestメンバーで慶應義塾大学4年の吉田悠馬氏が務め、参加した高校生は、「サステナブルな物流の姿とは」をテーマに議論した。発表では、米国のUberに倣い「輸送距離を短くし、民間に任せること」の提案があり、車を持っている人なら誰でもでき、好きなタイミングで作業できることをメリットに上げた。同社 経営統括本部 経営企画部 担当部長の佐藤壮一氏は「人口減少で働き手が不足するが、民間に発注するという発想がなかった」と感銘を受けていた。

■CO2排出量削減の意識は住宅の窓から――YKK AP

光熱費の無駄の見える化から街づくりに貢献

日本国内の産業全体の2019年度間接CO2排出量は、建築関連が3割以上を占め、そのうち家庭からの排出が14.4%あるという。YKK AP サステナビリティ推進部 部長の三浦俊介氏は、「特に家庭部門では2030年度までに66%の削減が要請されているが、住宅そのものの省エネ(断熱)性能向上は立ち遅れている」と指摘した。

住宅の暖冷房によるエネルギー負荷の影響は「窓」が最も大きい。国内の窓のフレームはアルミニウム素材が主流となっているが、アルミニウムは樹脂の約1400倍熱を伝えやすく、しかもほとんどが輸入に頼っている。そこで同社では欧米で主流となっている樹脂製のフレームを使い、ガラスを二重・三重に入れた窓を推奨している。そうすることで、東京では約11~29%の冷暖房費が節約できるという。三浦氏は「断熱工事を工務店に依頼すれば地域活性化にもつながり、冷暖房費も抑えられCO2削減にもつながる」と力を込めた。

ディスカッションではnestメンバーで横浜国立大学4年の村瀬悠氏がファシリテーターを務め、高校生たちは「環境を守ることができる家づくり」「そのために住む人、一人ひとりが意識するべきこと」をテーマに議論した。発表チームは、「お家でできるSDGs」をテーマに、電気・水道・ガス代の無駄の見える化ができるアプリが提案された。月や週ごとの使用量を分析・比較をして警告したり、場所ごとの最適な提案をしてくれるという。また「アプリを普及させることで、街全体の意識向上と街づくりに貢献できる」と説明した。

三浦氏は「実現方法、課題、対策と論理的に教えてくれた」と評し、「こうして仲間と一緒に考えることを続けていってほしい」と励ました。

各発表を聞いた清水イアン氏は、「ユニークでクリエイティブなアイデアがたくさん出て、とてもワクワクした。これからも自分の役割・問いをたてて、その答えを自分で出して、自分の『理想』を目いっぱい広げてほしい」と評した。

● 東日本大会 =10月22日、法政大学にて開催、 28 校 157人参加=

東日本大会はSB国際会議 D&I プロデューサーの山岡仁美氏が司会を務め、オープニングでは、日本旅行 常務執行役員 首都圏・東日本エリア代表の鈴木誠一氏が「ぜひ皆さんと一緒にウェルビーイングな社会をつくりたい」と挨拶した。また来年3月に北陸新幹線が開業される福井県敦賀市のプロジェクトについて、一般社団法人敦賀観光協会 会長でNPO法人THAP(タップ)理事長の池田裕太郎氏と敦賀市観光部観光交流課 観光振興係長の三谷雅仁氏が登壇し、地元をアピールした。

続けて、特別プログラム進行役の日本旅行の早川氏が、同社は地元高校生と修学旅行プログラムを開発中であり、SB国際会議2024東京・丸の内の出場校を敦賀市に招待すると発表した。

JETROと連携した「一村一品マーケット」に参加した高校生は、途上国の現状や課題を学び、実際に空港店舗で販売を体験した。東日本大会では、豊島岡女子学園、芝浦工業大学附属高等学校、國學院大学久我山高等学校、国本女子高等学校の4校が取り組みについて発表した。

豊島岡女子学園の生徒たちは本プロジェクトをきっかけに、先進国よりもモバイルマネーが浸透しているケニアについて調べ、浸透している理由が「都市に働きに来た人が故郷に送金する時に盗難の心配がないから」だとわかったという。また、フェアトレードに取り組んでいる芝浦工業大学附属高等学校の生徒たちは、合成音声で商品説明するアイデアを披露。

文化を知ることから発展途上国の理解につながると考えた國學院大学久我山高等学校の生徒たちは、アフリカ音楽の特徴を伝えながら楽器販売に挑戦した。国本女子高等学校の生徒たちは、自分たちが途上国や特産品への関心を高めるインフルエンサーになろうと考え、民族衣装を着てプロモーションビデオを制作し店頭などで上映した。ショップでは、「各所に合った接客と臨機応変な行動が大切だと思った」という。

企業講演後のディスカッションについて、東日本大会の生徒たちの発表内容や総評を紹介する。

オンワードコーポレートデザイン:サステナブルを浸透させる為に、ファッションの力でできること

このディスカッションに参加した高校生は、最初にサステナビリティを誰に一番浸透させたいかを考え、対象を“その地域に住む小学生”にした。「理由は、子どもの頃からサステナビリティに日常的に触れ合うことで自然と意識が向き、大人になっても持続可能な社会を目指すと思ったから」だ。そして学校や街中でサステナブルな商品を探すSDGsスタンプラリーを考えた。スタンプラリーにはポイントをつけ、地域の店で買い物ができるようにするという。

オンワードコーポレートデザインの小池氏は、「より良い未来をつくることを考え、子どもたちにサステナビリティを体験してもらうという考えが素晴らしい」と評した。さらにコミュニティ全体をデザインする「空間デザイン」に着目したことを評価し、「非常にロジカルで心が動かされた」と絶賛した。

カンタス エアウェイズ リミテッド:選ばれる航空会社になるために

発表したチームは「信頼」に着目し、利用客とスタッフの視点から考え、座席や制服にサステナブルな素材を使用することを提案した。カンタス航空の本拠点がオーストラリアにあるため、「ユーカリで作られた再生繊維を使うこと。また言語にストレスを感じてしまうので、飛行機の中にピクトグラムを置くこと」を考えた。

この発表に対しカンタス エアウェイズ リミテッドの上村氏は、「ピクトグラムを導入するという発想がなかった。気づくことができた素晴らしい議論だった」と感心していた。

日本貨物鉄道:サステナブルな物流の姿とは

生徒たちは、「トラックドライバーの働き方の見直し」「受け取り側の不在によるコストとCO2排出量の増加」「労働環境の悪化や燃料費の高騰によるコストの増加」3つのポイントから「サステナブルな物流」について考えた。これらの解決に、宅配便ロッカーやコンビニ店舗、ドローンなどのAI活用を提案した。「AIが仕事をしているとき人間は他の仕事ができて、効率が良く作業を進めることができ、負担を減らせる」と発表した。

日本貨物鉄道の石井氏は「このチームは、問題点とその原因から改善策をマトリックスで整理をしている」と高く評価した。

YKK AP:サステナビリティを「窓」から考える

「工事現場などの騒音問題と放置竹林の増加を考えた」という生徒たちは、竹ハウスを提案。放置された竹林は他の植物の成長を妨げたりするが、竹には断熱性や吸音性が高いという利点があるという。一方デメリットに、火に弱いことや繊維方向に割れやすいことを挙げた。

この発表を受けてYKK APの三浦氏は、「竹の特徴を初めて教えてもらった。課題をいくつか掛け合わせると、新しい解決方法が導けるのではないか」と評価した。

発表を聞き終えた清水氏は、「大切なのは今日この会場を出てから、どう行動するか」だと会場に呼びかけた。そして「ぜひ自分を信じて、自分を知り、歩み続けてください」と本大会を締めくくった。

本年度行われた「サステナブル・ブランド国際会議 学生招待プログラム 第4回 SB Student Ambassador ブロック大会」の詳細は こちら

高校生の力で地域を、社会を変えていこう ――第4回SB Student Ambassador ① 四国・北海道ブロック大会
https://www.sustainablebrands.jp/community/column/detail/1218301_2557.html

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