夫と死別後3割の女性が“貧困”に陥る…年金収入も100万円未満の衝撃事実

(写真:Luce/PIXTA)

超高齢化社会となった日本。女性のほうが男性よりも平均寿命が長く、妻のほうが年下であることも多いため、夫と死別してシングルになる高齢女性が増加している。

国立社会保障・人口問題研究所によると、死別や離婚で独身になった75歳以上の女性は2020年で606万人。今後も増え続けていくことが予想されている。そんななか、日本経済新聞(11月19日)は高齢独身女性の3割超が貧困に陥っていることを報じた。

東京都立大学の阿部彩教授の集計によると、手取りである可処分所得が中央値の半分に満たない人の割合を示す“相対的貧困率”が、夫と死別した65歳以上の女性は32%(2018年)にのぼることがわかった。

夫と死別した高齢シングル女性の暮らしはどのようなものか。都内在住の阿久津恭子さん(79歳・仮名)は7年前に夫と死別。現在、月8万円の年金で暮らしている。

「庭つきの家もあるし、服も修繕しながら着ているので暮らしが厳しいことは周りには見えないでしょう。それにお金がないなんて体裁が悪くて他人には言えませんからね。それでも大切にしていた母から譲ってもらった着物や夫が買ってくれた貴金属を少しずつ売って、たけのこの皮を一枚ずつはぐようにして食いつないでいる“たけのこ生活”。

旅行や外食なんてもってのほか。月の食費は1万5000円。1日500円を目安に、スーパーの特売日に買いだめして3食自炊してなんとか生きています」

高齢シングル女性の窮状は、別のデータでも見えてくる。ニッセイ基礎研究所の坊美生子准主任研究員が語る。

「シングル高齢者の年金受給状況を調べたところ、65歳以上で夫と『死別・離別』した女性の33.9%が年金100万円未満(月額約8万3000円未満)で暮らしていることが明らかに。実に3人に1人は生活が苦しい困窮状態であることが判明しました。

ずっと『未婚』の女性は、結婚・出産・育児というライフイベントを機に退職することがないため、現役時代に正社員だった人が4割と、比較的に経済状況が安定している一方、夫と『死別・離別』した女性は賃金の安いパートやアルバイトなど経済的に不安定な非正規が4割を占めていることも影響のひとつと考えています」

■家族関係の悪化で引っ越しを余儀なく

厚生労働省が2017年に調査した「公的年金受給者に関する分析」によると、夫と死別した65歳以上の女性の平均年金月額は12万1000円。

そんな年金収入の不足を補う貯蓄も潤沢ではないと、坊准主任研究員は続ける。

「シングル高齢者で夫と『死別・離別』した女性の資産状況を調べてみたところ『100万円未満』と答えた人が22.9%も占めています。

夫と死別した高齢女性の経済状況は非常に厳しいのですが、自分の懐ろ具合を話すことは恥ずかしいと思う人も多く、本人から発信が少ないため困窮の実態が社会で認識されていません。生活保護に頼らず、ギリギリの節約で切り詰めている人も少なくないのです」

家族の支えが老後の生活困窮を防ぐといわれていたが……。開業医の夫と10年前に死別した常盤典子さん(76歳・仮名)が語る。

「夫は公立病院の勤務医でしたが、年金受給の資格期間に満たないうちにクリニックを開業し、その後も手続きをしていないため、夫が亡くなってからの年金収入は基礎年金の月6万6000円だけです。

一人息子は医学部を出て医師として働いていますが、子どものころから、私が教育を押しつけたことで折り合いが悪く、孫にも会わせてもらえません。当然ながら家計を支援してくれることもなく、それまで高級といわれるマンションで暮らしていましたが、管理費や固定資産税が支払えなくなり売却。月7万円のアパートをついのすみかにすることに決めました」

坊准主任研究員はこう語る。

「国民生活基礎調査(2022年)によると子どもと同居している65歳以上の割合は33・7%と年々低下。子どもが“貧困の防波堤”にならなくなっています。また非正規雇用が広がり、子どもも就労による収入が少なく、むしろ親の年金に頼っているケースもあります。

親が死去して年金がなくなったら、途端に困窮が連鎖するリスクも。高齢シングル女性の最低限の生活を守る社会の仕組みを整えることが急がれます」

© 株式会社光文社