「女子大離れ」という言説に惑わされてはいけない

文学部の改組と女子大の未来

2024年、神戸女学院大は国際学部と心理学部を設置する。既存の文学部英文学科と総合文化学科が、国際学部英語学科とグローバル・スタディーズ学科に、人間科学部心理・行動科学科は心理学部心理学科となる。なぜ、1949年開学以来70年以上続いた文学部はなくなってしまうのか。

2023年の神戸女学院大文学部の入学者数は220人(定員350人)、定員充足率62.9%である。学科別の内訳は英文学科57人(同150人)、総合文化学科163人(同200人)となっている。文学部1~4年までの全学生数は1148人(同1400人)。英文学科の学年別学生数は1年57人、2年90人、3年91人、4年151人となっている。

現在の4年生が入学した2020年、定員を超える学生が神戸女学院大の門をくぐったが、そのわずか4年後には、3分の1にまで減ってしまった。

1990年代まで、多くの大学で英文学科は文学部のなかで志願者が多く難易度も高かった。英語も文学も大好きで将来語学を生かした仕事に就きたい、という高校生から支持されていた。

ところが、2000年代半ばあたりから英文学科にアゲインストの風が吹き始める。①英語をマスターするためには留学制度が整備された国際系や外国語系学部へ進んだ方がいい。②これまで文学部を支えてきた女子がビジネス、官僚、法曹などで活躍したいと経営、経済、法学部を目ざすといったように、文学部英文学科への志願者に減少傾向が見られるようになった。

神戸女学院大はかつて全国の女子大において、関西の大学で難易度が高くブランド力があった。就職状況も抜群によかった。しかし、昨今、前述のように定員割れが著しくなった。文学部のカリキュラム改革が遅れ、魅力をアピールできなかったからである。そこで大きな手術をすることになった。2024年の新しい体制に向けてこうアピールする。

「文学部は「国際学部」に。英文学科は、英語力と感性をバランスよく、より社会で活躍できる人材になる「英語学科」と、多様な背景を持つ人々との協働を可能にする「グローバル・スタディーズ学科」に進化します」(大学ウェブサイト)と。

しかし、課題はある。英文学科の教員は文学でなく、「英語力と感性」を教えること、「多様な背景を持つ人々との協働を可能にする力」を養うことができるか。看板が変わっても中身が変わらなければ、そこは高校生に見透かされてしまい、受験しようとは思われないだろう。大学にとっては正念場だ。

文学部では将来性を見込めないと判断して募集を停止し、新しい学部を作った女子大はほかにもある。聖心女子大では現代教養学部に、椙山女学園大では文化情報学部と国際コミュニケーション学部に生まれ変わった。

いま、女子大として文学部を持っているのは、藤女子大、日本女子大、実践女子大、清泉女子大、白百合女子大、フェリス女学院大、金城学院大、京都女子大、甲南女子大、神戸女子大、安田女子大などがあげられる。人文学部をカウントすればもう少し増える。意外に多い。

残念なことに、これらの大学のなかには学生募集でかなり苦戦しているところが少なくない。定員充足率が半分を切るところも散見され、いつ募集停止になってもおかしくない。

しかし、定員を十分に確保し教育を充実させているところもある。

実践女子大文学部の2023年入学者数は364人(定員310人)だった。定員充足率117.1%である。学科別の内訳は英文学科123人(同110人)、国文学科128人(同110人)、美学美術史学科113人(同90人)となっている。すべての学科において2020~ 2023年の4年間、入試で定員割れを起こしたことはない。文学を講じるだけでなく、語学の授業などをしっかり行っていることが評価されたようだ。

実践女子大文学部英文学科では、2024年度から新しいカリキュラムが始まる。教育の内容、目標については、「ジェンダーについて、多様性について、英語圏の文化や言語を通して考えます。これらの学びを通して、みなさんがさまざまな文化的背景を持つ他者の力となり、自己と他者を尊重し、多様な人々が共に暮らす社会を構築できるようになってもらいたいと願っています」としている(大学ウェブサイト)。

女子大離れ―――その理由としては、少子化が進むなか女子だけを受け入れているから、実用性があまりない文学部がメインになっているから、というのが通説だ。一理ある。だが、これですべて説明がつくわけではない。実践女子大のように教育内容を工夫して文学部をしぶとく守っているところもある。一つの女子大の危機から女子大全体を捉えるのは、正しい見方ではない。「女子大離れ」という言説に惑わされてはいけない。

定員割れを起こしていない大学をつぶさに調べてみよう。どんな秘密が隠されているのか。一方で、文学部をあきらめて新しい学部で挑戦する大学をしっかりフォローしよう。これから何を始めてどれだけ期待できるか。これも大学選びの一つである。

教育ジャーナリスト

小林 哲夫さん

1960年神奈川県生まれ。教育ジャーナリスト。朝日新聞出版「大学ランキング」編集者(1994年~)。近著に『日本の「学歴」』(朝日新聞出版 橘木俊詔氏との共著)。

© 大学ジャーナルオンライン