生活保護引き下げ訴訟で逆転勝訴 原告らが口をそろえた “心が伝わる”「最高最良」判決文の内容とは?

名古屋高裁の逆転勝訴判決を喜ぶ原告代表と支援する弁護士ら(12月1日 東京都内/榎園哲哉)

2013年から3度に分けて行われた「生活保護基準引き下げ」の取り消しなどを求め、生活保護利用者らが国を訴えた裁判で11月30日、名古屋高等裁判所は原告らの請求を棄却した地裁判決を取り消し、原告らの請求を認容する逆転勝訴判決を言い渡した。

これを受け翌12月1日、原告代表と支援する弁護士らが東京都内で「いのちのとりで裁判 早期全面解決を求める緊急集会」を開いた。

生活保護引き下げ「著しく合理性をかくことは明らか」

病気や障害で働けない、所得が一定基準に満たない、そうした理由から「健康で文化的な最低限度の生活」ができない国民の「いのちのとりで」である生活保護制度。政府は2013~15年に基準額を最大10%引き下げた。

これに反対した原告らは、2020年6月の名古屋地裁を皮切りに全国29地裁で30の訴訟を提起。現在、地裁レベルで言い渡された判決は、原告側が12勝10敗と勝ち越している。

今年4月14日、初の控訴審となった大阪高裁は原告側の訴えを棄却。これに続く控訴審となった名古屋高裁での判決が注目されたが、同高裁は、大阪高裁の判決、また第1審の名古屋地裁の判決とは逆の判決を下した。

「最高最良の判決」。緊急集会参加者らは判決を一致して高く評価した。

名古屋高裁の長谷川恭弘裁判長は判決文(判決要旨)で、国が基準額引き下げの根拠とした「ゆがみ調整」(※1)と「デフレ調整」(※2)の“算定法”について、「いずれも統計等の客観的な数値等との合理的関連性および専門的知見との整合性を欠いており、個別にみても全体としても著しく合理性を欠くもので、(厚生労働相の)裁量権の範囲を逸脱していることは明らかである」とし、「したがって本件改定に基づいて行われた本件各処分は、いずれも違法なものと認められ、取り消されるべきである」と記した。

※1 「ゆがみ調整」:所得下位10%層の消費実態と生活扶助基準を生活保護基準部会で比較・検証した結果を踏まえ、年齢・世帯人員・地域差による影響(ゆがみ)を調整した。
※2 「デフレ調整」:平成20年から同23年にかけて「物価」が4.78%下落しているとして、生活保護費を約580億円分引き下げた。

さらに、「本件改定は、過去に例のない大幅な生活扶助基準の引き下げを行ったもので、その影響は、生活保護受給者にとって非常に重大なものである」とし、「相当の精神的苦痛を受けたものと推認され、このような精神的苦痛は、本件各処分が取り消されることにより慰謝される部分があるとしても、その全てが慰謝されるものではない」と強調。一連の訴訟では初の賠償命令となる原告1人あたり1万円の損害賠償金の支払いを命じた。

「裁判長は人間的な人だと確信していた」

緊急集会は、オンラインでつながれ3都市からの参加者を含む約300人が原告の「完全勝訴」の喜びを分かち合った。

オンラインで結び開かれた緊急集会(12月1日 東京都内/榎園哲哉)

冒頭、愛知訴訟の弁護団事務局長・森弘典弁護士が基調報告を行い、名古屋高裁判決の意義と国に課された課題を語った。

この中で同弁護士はゆがみ調整、デフレ調整が「国民に秘し、隠して独自の計算方法によって行われた。(今後は)密室で勝手な計算方法で行われることがないようにしていくことが課題として示された」と語った。

また、愛知訴訟弁護団長の内河惠一弁護士は、「長谷川裁判長は人間的な人だと確信していた。私たち弁護士は、苦境の中にある人々にどれだけ心をはせることができるかが課題、裁判官はわれわれの叫びをどれだけしっかりと受け止めるかが課題、だと思っている。(裁判官の)心が伝わる判決文はなかなかない。今回は生活保護受給者のことを心配していることが判決文から読み取れる。この一つの判決が政治や社会を動かす大きな流れになる」と語った。

さらに損害賠償金1万円についても、「生活保護受給者は500円や1000円という金額で生活している。1万円でも忘れてはいけないという心が伝わった」と高く評価した。

愛知県在住の原告の女性は、「やっと肩の荷が下りた。判決を聞いて涙が出てきた。この10年間(の戦い)がやっと報われた」と目頭を押さえた。富山県からオンラインで参加した原告男性は、「裁判が始まってから10年の間に、先に原告だった妻が亡くなった。自分も病気で不自由な身となり、原告に加わった」と、長きにわたる裁判での苦しい思いを吐露した。

涙ながらに喜びを語る原告代表の女性(右端)(12月1日 東京都内/榎園哲哉)

「誰もが人間らしい生活をおくれる国に」

全国の生活保護基準引き下げ違憲訴訟を取りまとめる「いのちのとりで裁判全国アクション」事務局長・小久保哲郎弁護士は、一連の訴訟を通じて原告らの心が一つになっていることに触れ、「人間の尊厳を回復していく戦いができている」と語った。

緊急集会の最後に全会一致で採択された「12.1緊急集会アピール」には、「私たちは、国に対し、上告等を断念し、2013年の引き下げ前の生活保護基準直ちに戻すことを求めます。誰もが人間らしい生活をおくることのできる国にすることを求めます」などの一文が盛り込まれた。

名古屋高裁裁判長が見せた“心のぬくもり”がかたちとなって、実となって原告たちに届くか。早期全面解決を求める裁判はさらに続く。

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