創設初年度より参戦のアプト・クプラXEが撤退。ABTは2025年水素燃料転換のエクストリームHで復帰か

 南米大陸チリ・アントファガスタで“シーズン3”を終えたばかりのワンメイク電動オフロード選手権エクストリームEだが、創設初年度から参戦してきたアプト・クプラXEが、同ラウンドを最後に「シリーズからの撤退」を表明。2022年の初優勝を含む5度の表彰台を獲得したチームは、一旦は表舞台から退き、プレスリリースでも言及したとおり今後は水素燃料を採用する「エクストリームHへの移行を注意深く見守っていく」としている。

 マティアス・エクストロームとクラウディア・ヒュルトゲンがレギュラードライバーを務め、直後より“砂漠の女王”ことユタ・クラインシュミットを起用したスペイン・ドイツの連合チームは、参戦2年目でナッサー・アル-アティヤがエースを引き継ぎ、チリの公式練習で負傷したクラインシュミットに代わり、新進気鋭のクララ・アンダーソンを起用。加入直後のウルグアイですぐさま初勝利を収めた彼女は、シリーズ史上最年少ウイナーとなった。

 そんなアプト・クプラXEは、今季2023年もWRC世界ラリー選手権で9連覇を果たしたレジェンド、セバスチャン・ローブや、最終戦ではクプラのファクトリー契約ドライバーでもあるエイドリアン・タンベイを初招聘するなど話題を振り蒔いたが、数カ月前から予想されていた動きの結実として、今後『CUPRA Tavascan XE(クプラ・タヴァスカンXE)』でシリーズに戻る可能性がないことを明らかにした。

「我々はこの3年間にわたって、このエクストリームEファミリーの一員であったことを誇りに思います」と語るのは、ABTの最高経営責任者(CEO)を務めるトーマス・ビアマイヤーだ。

「アプトのオフロード・モータースポーツへの初進出における多大な協力とサポートに対し、アレハンドロ・アガグ、アリ・ラッセル、ジェームス・テイラー、そして彼らのチーム全員に感謝している」と続けたビアマイヤー。

「我々はエキサイティングなモータースポーツと、環境への責任を組み合わせるというエクストリームEのコンセプトを堅く信じ続けている。勝利や表彰台のトロフィーに加えて、グリーンランドの氷河からサウジアラビアのNEOM、そしてチリのアタカマ砂漠まで、我々は多くの忘れられない思い出や印象を持ち帰ることになるだろう」

「現在、および将来における潜在的なパートナーとともに、我々は今後もエクストリームEから(水素燃料電池を搭載すると目される)エクストリームHへの移行を注意深く見守っていく。水素時代が将来に何をもたらすかは誰にもまだわからないのだから」

参戦2年目でナッサー・アル-アティヤがエースを引き継ぎ、チリの公式練習で負傷したユタ・クラインシュミットに代わり、新進気鋭のクララ・アンダーソンを起用
WRC世界ラリー選手権”9冠”のレジェンド、セバスチャン・ローブとは表彰台も獲得した

■シリーズ創設者兼CEOのアガグは楽観視

 そう記されたように、この撤退表明は2025年から初の水素燃料モータースポーツ・シリーズへと移行する過渡期を念頭に判断が下されたもので、スペインはセアト傘下のブランドであるクプラは、言わずと知れた電気自動車産業の主要企業であるフォルクスワーゲン・グループの一員でもある。

 これにより来季、同ブランドはルーカス・ディ・グラッシとニコ・ミューラーを擁するABB FIAフォーミュラE世界選手権に注力することになるが、ことABT(アプト)に関しては、なんらかの形でこの選手権に復帰する可能性が高いと見込まれている。

 それを裏付けるかのように、シリーズ創設者兼CEOのアレハンドロ・アガグも、シリーズの公式リリースの中で次のような楽観的な見通しを示す。

「エクストリームE創世記からの3年間を経て、アプトとクプラには心からの感謝を表したい。クプラは我々のチャンピオンシップの偉大な擁護者であり、電動で持続可能なレースの発展を大いに支援してきた」と続けたアガグ。

「彼らのビジネスの焦点は電気自動車市場にあり、我々は水素を動力源とするレースに移行しているため、彼らがフォーミュラEへの関与に集中するのは論理的な動きだ」

「それはつまり、今後もクプラが『電動モータースポーツ』ファミリーの中に留まり続けること意味しており、それは素晴らしい事実だ。彼らの今後の活躍を祈っている」

 そのアガグは、改めて2025年の水素シリーズ立ち上げと参入マニュファクチャラーの興味喚起に自信を見せる。

「アプトは2024年シーズンを欠場するが、持続可能なオフロード・モータースポーツに対する彼らの情熱と取り組みは明らかであり、我々は彼らがエクストリームHとともにパドックに戻ってくることを楽観視している」

「そして2025年から世界初の水素燃料レースに移行するにあたり、水素に重点を置くメーカーが我々と協力し、イノベーションを起こすための扉はしっかりと開かれている」

「チャンピオンシップの計画は急ピッチで進められており、それまでの間、我々はまた来年の非常に競争の激しいエクストリームEのシーズンを楽しみにしている」

ルーカス・ディ・グラッシとニコ・ミューラーを擁するABB FIAフォーミュラE世界選手権に注力することになる
「我々は彼らがExtreme Hとともにパドックに戻ってくることを楽観視している」とシリーズ創設者兼CEOのアレハンドロ・アガグ

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