瀬戸内ばなな ~ 皮まで食べられる?株式会社プランターが挑戦する岡山初の農薬不使用バナナの栽培

スーパーマーケットに年中陳列されているバナナ。

産地を見ると大半がフィリピン、たまに台湾やエクアドルがあるでしょうか。

南国で収穫されるイメージが強いバナナですが、岡山県笠岡市でも栽培されているとのこと。

それも農薬不使用なので皮まで食べられるそうです。

バナナが岡山で作られて、捨てるものだと思い込んでいた皮まで食べられるなんて。

意外性の詰まった「瀬戸内ばなな」を取材しました。

瀬戸内ばななとは

フィリピンや台湾のイメージが強いバナナが、日本でも収穫できるのは意外ではないでしょうか。

凍結解凍覚醒法という技術を用いて、作地の環境に適合する種子にし、日本でもバナナの栽培が可能になったそうです。

技術により誕生した瀬戸内ばななについて紹介します。

作り手について

岡山県笠岡市で栽培されている瀬戸内ばなな。

手掛けるのは農業生産法人 株式会社プランター(以下、プランター)です。

代表取締役の小堀秀男(こぼり ひでお)さんは、建築会社の小堀建設株式会社の会長でもあります。

「なぜ建築のかたが農業を?」と思うことでしょう。

写真提供:プランター

小堀さんは衣食住の「住」にかかわるなかで、安全安心に暮らせる住まいづくりには「食」も欠かせないと気付いたそうです。

健康な暮らしを実現するには、食の充実が欠かせない。

この考えから体に優しい農薬不使用の農業に出会うことになりました。

なぜ農薬不使用栽培のなかで、バナナを選んだのかはあとで説明します。

幻の品種の瀬戸内ばなな

現在、世界のバナナはキャベンディッシュ種という品種が主流です。

一方、瀬戸内ばななは幻のバナナといわれるグロスミシェル種

なぜ幻かというと、大規模にバナナの病気が蔓延し、グロスミシェル種は絶滅したと思われていたからです。

しかし標高の高い場所で生き残りが発見され、のちに国産化に成功。

そのうちのひとつが瀬戸内ばななです。

病気の蔓延以前はグロスミシェル種が主流で、高級フルーツの位置づけだったとか。

年配のかたにとっては、懐かしい味だそうです。

写真提供:プランター

瀬戸内ばななの特徴は、グロスミシェル種特有の上品な甘さと香り高さを兼ね備えています。

農薬や防腐剤不使用のため、皮まで食べられるのも大きなポイント。

皮ごとスムージーにして食感を楽しむこともできるのだとか。

写真提供:プランター

ポリフェノールなどの栄養素がある皮自体は無味で、他の素材の味を邪魔しません。

瀬戸内ばななを実食

収穫時は青みがかかっているので、自分の好みまで追熟させて食べます。

しばらく家に置いて、シュガースポットが出てきた瀬戸内ばななを食べました。

写真左はシュガースポットが出ています。写真の瀬戸内ばななは小さいため商品規格外のもの

いつも食べ慣れているキャベンディッシュ種に比べ、香りが強く、意外にもさっぱりとした甘さでした。

より完熟させると、ねっとり濃厚な味になるそうなので、少し食べるのが早かったのかもしれません。

同じ商品でも味が変わり、自分の好みに調整できるのがバナナの魅力のひとつではないでしょうか。

バナナ畑を特別に見学しました

ふだんはバナナ畑を公開していませんが、特別に見学させてもらいました。

瀬戸内ばなな

熱帯地域の気候を再現するよう、ビニールハウスで栽培されています。

訪れた10月は生産者にとって、ありがたい気候のようで、暑すぎず暖房も不要。

真夏は汗が噴き出す暑さ、一方冬は25~26度を保つように加温する必要があるので暖房費がかさみます。

3~4mほどの高さがある木は、一度収穫すると伐採されます。

実際は同じ木から何度か収穫ができるのですが、回数を重ねるごとに味が落ちてしまうのだとか。

おいしさの品質を保つための強いこだわりを感じました。

子株が芽を出し、バナナの木へと成長します

元気よく伸びた茎や葉は細かく切って、肥料にすきこんで有効活用を。

なかには料理の皿に使うため葉っぱを引き取りに来る飲食店もあるそうです。

茎や葉っぱを切って、木の世話をしているようす

半年から1年かけて育った木に、小さな花が咲き始めます。

瀬戸内ばななの花

成長すると紫色の苞(ほう)が落ちて、花は上に向かって伸び、バナナに。

最初は角張っているバナナが、角が取れて丸みを帯びてきたら収穫のサインです。

瀬戸内ばななは、ここのバナナ園では買えず、メインの販売はオンラインショップです。

笠岡ベイファームや農マル園芸 吉備路農園、岡山県内の百貨店に卸しているので、こちらでも購入できますが、収穫状況によって品切れになることもあるのでご注意を。

パパイヤ

ビニールハウスではパパイヤも栽培されていました。

茎からにょきにょきと実がなるようすは、とても不思議。

パパイヤは未熟な青い状態でも収穫されます。

青パパイヤの生食はシャキシャキと大根のような食感、ゆでるとホクホクするのだそうです。

炒めものにも使え、野菜のように扱います。

青パパイヤは、熟れると皮も実も黄色に。

黄色のフルーツパパイヤになると、柔らかくとろける食感に変化するそうです。

新商品MUSA

2023年6月には新商品「MUSAムーサ)」が誕生。

MUSAは瀬戸内ばななに糀(こうじ)を加えたスプレッドです。

スプレッドとは、パンやクラッカーなどに塗るものを指し、MUSAも同様にトーストに塗ったりヨーグルトに混ぜたりして使います。

瀬戸内ばななの豊富なビタミンやミネラルに、糀の食物繊維・ビタミンB群・酵素が加わった栄養価の高い商品です。

写真提供:プランター

フレーバーは3つ。

  • 糀プレーン…瀬戸内ばななの風味をもっとも感じやすい。瀬戸内ばななの甘みが口いっぱいに広がります。
  • 糀カカオ…香ばしいカカオ入り。子どもにも人気のフレーバー。
  • 糀まっちゃ…抹茶のほろ苦さと瀬戸内ばななの甘みのバランスが絶妙。

砂糖・保存料・香料・着色料は不使用のMUSA。

砂糖なしとは思えないほど、しっかりと甘みがあるのですが、自然由来なのでくどくありません。

からだに優しい、ほっとするスプレッドです。

岡山県内では珍しいバナナとパパイヤを栽培するプランター。

代表取締役の小堀秀男さんと、MUSAの開発を手掛けた娘の野口百緒(のぐち ももお)さんに話を聞きました。

笠岡市でバナナとパパイヤを栽培し、販売するプランター。

代表取締役の小堀秀男(こぼり ひでお)さんと、野口百緒(のぐち ももお)さんに話を聞きました。

バナナの栽培に挑戦した理由

──なぜ笠岡でバナナの栽培を始めたのですか?

小堀(敬称略)──

バナナ園を始める前に、ここの土地を買って家庭菜園をしていました。

農薬不使用でジャガイモなどいろいろ作りましたね。

イベントや建設会社の展示会でお客様に振舞っていました。

ちょうどこの家庭菜園を商売に変えようかと考えていたところに、知り合いから「土地があるならパパイヤを作ってみない?」と声がかかったんですよ。

その知人をとおして、桃太郎パパイヤ研究所という機関につながりました。

岡山県産バナナ「もんげーばなな」の苗も手掛けている研究所です。

小堀秀男さん

2015年にパパイヤからスタートし、何本か木を残して瀬戸内ばななの栽培を開始。

当初、瀬戸内ばななの苗も桃太郎パパイヤ研究所のものを使っていました。

当時の2015年はもんげーばななも誕生しておらず、パパイヤにしてもバナナにしても誰も栽培していませんでした

農業を始めるときに思ったのは、ここの畑の周りにはブロッコリーなど作っている農家さんがいらっしゃって、先輩がたの邪魔をしてはいけないなと。

二番煎じ、三番煎じにならず、周りの邪魔にもならず、まだ誰も扱っていない農薬不使用でできるものを考えました

パパイヤは酵素を多く含むので、虫がつかず農薬不使用で栽培ができるんです。

パパイヤ畑

バナナにつく虫がいるんですが、本場の熱帯にはいて日本の温帯にその害虫はいません。

岡山県は晴れの国で日照時間長く、なかでも笠岡は晴れの日が多く栽培に良い環境

干拓地なのでミネラルを含んだ土でこちらも植物にとって良いものです。

成長を促すカルシウムを木に与えるため、笠岡で獲れた牡蠣の殻を砕いて土に撒いています。

バナナ畑

──農薬不使用農業に着目したきっかけは何ですか?

小堀──

私の本業は建築で、健康寿命を延ばす住宅を建てなければと思っています。

毎年多くのかたがヒートショックで亡くなっていますが、命を守る住宅にしなければならないですよね。

ヒートショック:急激な温度変化により血圧が上下に大きく変動し、心筋梗塞や脳卒中を引き起こす健康リスクのこと。脱衣室、トイレなど、室温と温度差の大きいところで起こりうる。

健康寿命を延ばすには、食も大切です。

体を作っているのは食ですから、農薬を使わない作物をしようと思いました。

レッドバナナも栽培

苦労したこと

──国内でも珍しいパパイヤやバナナを手掛けるのは大変だと思います。どの点に苦労しましたか?

小堀──

岡山県内でも初めての試みなので誰にも教えてもらえないところですね。

行政にも相談したけれど、日本語の詳しい文献がないそうで。

何をしたらどうなるか、毎年毎年手探りです。

予想を立てながら育てています。

MUSAを開発した想い

──MUSAを開発したきっかけを教えてください。

野口(敬称略)──

父が丹精込めて作った瀬戸内ばななを有効利用できないかと考えたことがきっかけです。

味は売りものと変わらないのに形が悪いせいで出荷できないバナナがあり、目の前で捨てられていました。

それがとても悲しくて。

私は二十歳からずっと東京に出ていて、昨年(2022年)に笠岡に戻りました。

帰省しているときに、バナナの畑を見て「すごいことをやっているな」と思っていたんです。

野口百緒さん(写真提供:プランター)

父の瀬戸内ばななに出会うまで、実はバナナに馴染みがありませんでした。

匂いが苦手で食べられなかったんです。

でも瀬戸内ばななは良い香りで、すっきり甘くて、おいしいと思えました。

自分が感動したバナナ、おいしくて体に良いものを多くのひとに届けるためにMUSAを作りました。

写真提供:プランター

──おすすめの食べかたはありますか?

野口──

どのフレーバーもバターとの相性が良いです。

たとえば糀プレーンは、クロワッサンに塗るのがおすすめ。

カレーの隠し味のチャツネの代わりに使っても良いですね。

バナナのフルーティーな甘みがプラスされて、カレーのスパイスにもマッチします。

糀プレーンをクロワッサンに付けて食べました。相性は抜群

カカオは食パンが合います。

抹茶は白玉に合わせても。

お酒が好きでしたら、焼酎やワインのあてにするのも良いですよ。

MUSAはきめ細かいペースト状なので、舌触りが良く、なめらかです。

糀プレーンの中身

蓋を開けた瞬間は糀の香りがして、あとからバナナがやって来ます。

甘さは強いですが、すっきりとした味で重たくないのが特徴です。

口のなかでどんどん味が変わりますし、ひと口目とふた口目も変化があります。

幸せホルモンのセロトニンが分泌されるバナナを手軽に食べられ、糀で腸活もできて一石二鳥・三鳥の商品です。

おわりに

お手本がない新分野に挑戦した小堀さん。

すべてが未知で手探りのものを扱うのは、相当な努力と覚悟がないとできません。

苦労を感じさせずに、にこにこと笑顔で話す小堀さんに感動せずにいられませんでした。

こだわりの詰まった瀬戸内ばななを余すことなく使い、多くのひとへ届けたいと願う野口さんからも強い信念を感じました。

東京から笠岡に戻り、農業に挑戦し、父である小堀さんを支えるのも覚悟が必要だったのではないかと想像できます。

岡山の新しい食を開拓し、発展するプランターのこれからに目が離せません。

© 一般社団法人はれとこ