ESモータースポーツが電動化時代にも挑戦。2024年WorldRXに新車投入、持続可能燃料も混走へ

 リトアニアに拠点を構えるラリークロス界のプライベート“ビルダー”たるESモータースポーツが、2024年のWorldRX世界ラリークロス選手権に向け電動最高峰クラス向けの『シュコダ・ファビアRX1e』を公開。来季グリッドに加わる準備を進めていることを明かした。その一方で、シリーズは新たに“Battle of Technologies(バトル・オブ・テクノロジーズ)”のコンセプトを掲げ、現在のRX1e車両に加えて「持続可能な燃料を採用する」内燃機関(ICE)モデルの混走を容認する方針を示した。

 これまでのWorldRXでも東欧出身選手を中心に挑戦を続け、レニス・ニテッシュらに加え世界を経験するケビン・アブリングらを起用してきたESモータースポーツは、内燃機関最後の時代となった2021年には『シュコダ・ファビアWRX』を擁してEuroRX1にも参戦。ここでアンドレアス・バッケルドがタイトルを獲得する成功を収めてきた。

 そんな戦果も受け、当初は2022年にWorldRX最高峰への昇格を目指していたチームだが、電動モデル『RX1e』の導入により計画変更を余儀なくされることに。現在は、フランスのオレカとレイガーのエンジニアらの支援を受け、北米を拠点として燃料電池スタック搭載の『FC1-X』なども手掛けたブルー・エンジニアリングが製作する新造モデル『シュコダ・ファビアRX1e』でのWorldRX復帰参入を予定している。

「モータースポーツはますます持続可能性を重視するようになっている。これが新たな現実であり、我々としても将来に備えなければならない」と語るのは、自身も元ドライバーであるチーム代表のエルネスト・スタポンカス。

「これは大きなプロジェクトだったが、このファビアRX1eは完成し、レースを戦う準備が整った。現代における最高の基準に従って製造されており、来季のWorldRXで競争力を発揮することだろう。我々は今、世界選手権で一緒に上位を目指して戦ってくれる、素晴らしい結果を残せるドライバーを探している」

 そんなプライベーターの努力とは裏腹に、シリーズは今週水曜にアゼルバイジャンのバクーで開かれた今年最後のFIAワールド・モータースポーツ・カウンシル(WMSC/FIA世界モータースポーツ評議会)にて、現行RX1eとサステナブル・フューエルのICE搭載車が「同等の条件」で競争することを認めた。

 FIA国際自動車連盟が“バトル・オブ・テクノロジーズ”と呼ぶこの動きは、まったく新しいアイデアというわけではなく、イギリスや北欧の国内選手権では採用例のあるコンセプトではあるものの、エンジン搭載車とフルBEVがFIAの世界選手権の同一クラスで競うのはこれが初となる。

北米を拠点として燃料電池スタック搭載の『FC1-X』なども手掛けたBlue Engineeringが製作した新造モデル『シュコダ・ファビアRX1e』でのWorldRX復帰参入を予定する
内燃機関最後の時代となった2021年には『シュコダ・ファビアWRX』を擁してEuroRX1にも参戦。ここでアンドレアス・バッケルドがタイトルを獲得する成功を収めた

■背景にあると考えられるランチア全焼のアクシデント

 背景には2023年第4戦となったイギリス・リデンヒルで発生した車両火災の原因究明が長引いていることがあると見られ、新型RX1e車両『ランチア・デルタEvo-e RX』の2台を投入していたスペシャル・ワン・レーシングの機材を全焼させる事態となった7月のアクシデント以降、最高峰クラス“RX1e”の実質的な開催休止が続いている。

 それゆえ、終盤のダブルヘッダー2戦はステップアップシリーズであるFIA RX2e選手権で使用する電動ワンメイク車両『ZEROID X1』に代替しての勝負となっていた。

「WorldRXが20年目に突入する時期に、我々は新しい“バトル・オブ・テクノロジーズ”のコンセプトを導入できることに興奮している」と語ったのは、ラリークロス・プロモーターGmbHのマネージングディレクターを務めるアーネ・ディルクス。

「我々は皆、過去2年間にわたってRX1eの衝撃的なパワーと可能性を見て楽しんできた。また同時にEuroRX1では、内燃機関モデルに対するファンの多くの情熱も目の当たりにしてきた。ドライバーやチーム全体からも多大な関心が寄せられており、この持続可能な新しいフォーマットが、競技者とファンの双方に、お互いの長所を同様に提供すると信じている」

 これにより電動化初年度の2022年はおよそ8台、今季2023年も開幕時から前半戦で10台に留まっていた参加台数は、2024年に最大16台のエントリーが認められることになり、ラウンドごとにワイルドカード枠の登録も受け付ける。

 またスポーティングも同様に微調整され、スーパーポールのシュートアウトはトラック状況の変化による危険を軽減し、より高い同等性を確保するために、すべてのヒートで事前に決められたスタート位置方式に置き換えられる。

 これにより競技者はタイムではなく順位を競うため、戦況がより理解しやすくなるとともに、準決勝と決勝の各ヒートレースでチャンピオンシップポイントが授与されることで、ドライバーが全周全力でプッシュするよう“インセンティブ”が働き「このスポーツに不慣れなファンにも理解しやすく、ファンの興奮を高める」効果が期待されている。

 同時に、これまでWorldRXにワンメイクタイヤを供給してきたクーパーに代わり、新たにオフロードレースやラリークロスに精通する北米のフージャーがシリーズ唯一のタイヤサプライヤーとして、初の世界選手権に参画することも決まっている。

イギリス・リデンヒルで発生した車両火災事故以後、最高峰クラス”RX1e”の実質的な開催休止が続いている
競技規則の変更で「このスポーツに不慣れなファンにも理解しやすく、ファンの興奮を高める」効果が期待されている

© 株式会社三栄