ソン・シギョンがアルバム『こんなに君を』をリリース 「僕が一生をかけて追い求めたいのは『いい歌詞、いいメロディ』です」

韓国バラード界の皇帝として本国で絶大な支持を受けるソン・シギョンが、ニューアルバム『こんなに君を』を11月22日にリリース。リード曲は『江南スタイル』で世界を熱狂させたPSY作曲、そして日本歌謡界を代表する作詞家・松井五郎による珠玉のバラードだ。2000年に本国デビューし、“鼓膜彼氏”の異名で呼ばれる心地よい歌声はもとより、ユーモアあふれるトークでMC、DJ、タレントとしても活躍。この年末には韓国で1万人規模の3daysコンサートを控えている。ソンが本国でトップを極めながら、日本の歌謡界に挑戦する思いとは。「うたびと」初インタビューで、デビューまでの足跡や音楽にかける覚悟を聞いた。


松井五郎さんとの打ち合わせでPSYさんの顔色が変わった!

──キングレコード移籍第1弾となるニューアルバム『こんなに君を』。同名のリード曲は、どのように制作されたのですか?

松井五郎さんに歌詞を書いていただくことは決まっていて、これはもう間違いなくいい歌になるという確信がありました。ただ作曲をしてくれたPSYさんは、どちらかといえば自分の中にある歌詞の世界観にこだわるタイプで、どうしても自分の口から直接説明したいと言って聞かなかったんです。もう面倒くさいな!と内心思いながらも(笑)、ご挨拶するのは悪いことじゃないし、オンラインで3人打ち合わせをやったんですね。

──ソンさんが通訳をされて?

はい。PSYさんがものすごい勢いで説明するのを、松井さんはうんうんとうなずきながら聞いていらして、それで30分くらい経った頃だったかな。「ところで松井さんはこれまでどんな作品を作ってきたんですか?」という質問に対して、「ええと、安全地帯の『悲しみにさよなら』とか」と答えた途端、PSYさんの顔色がサッ変わって。それで「歌詞はすべてお任せします」となった次第です(笑)。

──さすがにあの大ヒット曲は、PSYさんもご存知だったわけですね(笑)。ソンさんは松井さんの歌詞のどのようなところがお好きなのでしょう?

日本の方には説明不要でしょう? 僕は歌詞をもらったときに歌うよりも、まず文章として読むんです。詩を味わう感じに近いというのかな。メロディやリズムの力を借りなくても、心が揺さぶられる。それがいい歌詞というものだと思うし、松井さんの書かれる歌詞はすべてそうですよね。その上でいかにメロディに乗せてその世界を演じるかが歌手の仕事ですから、いい歌詞をいただけるのは僕にとって最上の喜びなんです。

いいメロディを追求するため作曲はピアノで

──収録曲の『ただ. . . 』は、ソンさん作曲、松井五郎さん作詞のピアノバラードです。作曲はピアノでされるんですか?

そうですね。僕は現代のミュージシャンとしては、ちょっと古いタイプなんです。特に韓国では今はみんな打ち込みですから、作曲もいいメロディを追求するというよりは、華やかなトラックを仕上げるといったほうが近いんですよね。でも僕の中でいいメロディというのはピアノから生まれてくるものなので、時代遅れだろうがなんだろうが、この手法にこだわりたいんです。

──ピアノはいつから始められたんですか?

小さい頃はクラシックをやっていましたが、韓国ではプロを目指さない限り、小学校を卒業したら、勉強に集中するために、そういう習い事はやめさせられるんです。なので、デビューしてから改めてピアノに取り組みました。音楽というのは“音を楽しむ”と書きますよね。聴いてくださる方はそれでいいんです。だけど僕たちプロは“楽”だけでなく“学”のほうの“ガク”にも邁進しないといけないと思っています。

──ご家族には音楽よりも勉強に集中してほしいという思いがあったのでしょうか?

僕の家は結構固いほうだったので、いい大学を出ていい企業に就職するのが当然で、しかもソウル大学(韓国の東大と呼ばれる最高峰の大学)じゃなきゃ許されないといった雰囲気がありました。でも、ソウル大学は落ちてしまったんです。それで高麗大学(こちらもトップレベルの大学)に入ったんですが、悶々としながら、入学と退学を3回繰り返しました。

──3回も高麗大学に合格しただけでもすごいです。

自分は一体何をして生きていきたいのか、何をしているときが一番幸せなのかにずっと悩んでいたんです。なんとなく気付いてはいたんです。歌が好きだ。これを一生の仕事にしたいと。だけど当時の韓国では芸能人の社会的地位がすごく低くて、「歌手になるなんてもってのほか」みたいな家がほとんどだったんです。今とは全然時代が違いました。

一人旅で訪れた釜山の海辺で歌手になることを決意

──では、ソンさんも親御さんから大反対されて?

歌手になりたい云々ではなく、人生に向き合いたいと家族に告げて旅に出たんです。ソウル駅から電車に乗って、途中下車して山に登ったりしながら、2週間くらいかけて釜山に着きました。釜山の海辺でソジュ(韓国焼酎)を飲みながらフラフラしていたところに占い師に声をかけられたんです。見てあげるからおいで、と。そこで「あんたは歌手になる」と言われたんですね。あぁ、これは運命なんだと思いました。帰って家族に伝えたところ「まあ、いいんじゃない。無理だと思うけど」という反応でしたね。だからオーディションで優勝して、いざ契約となってからは大騒ぎになりました。

──デビュー翌年にはゴールデンディスク新人賞を受賞。順調な歩み出しだったんですね。

それでもやっぱり当時は歌手ってちょっと見下されていたところがありましたね。デビュー間もない頃はホテルの宴会場で歌うこともよくあったんですが、皆さん酔っ払っていて歌なんか全然聴いていなくて。それでも「僕は歌手だ」というプライドだけは人一倍あったから、失敗もいろいろしました。新人の頃に体を張る系のバラエティ番組への出演機会があったんですが、「僕は歌うのが仕事です」と突っぱねたりして。今思うと本当に生意気でした。

──今や数々のバラエティ番組のMCとして軽妙洒脱なトークでも楽しませています。いつから意識は変わったのでしょうか。

綺麗ごと言うなよとおっしゃるかもしれないですが、僕は有名になりたかったわけじゃないんです。ただ歌っているときが幸せで、また僕の歌によって人を幸せにできるとも信じていた。だけど無名のままだったら歌を聴いてもらうこともできないんだって、いくつもの失敗を繰り返して学んだんです。それからは変なこだわりは捨てて、歌を聴いていただくためならどんな仕事でも一生懸命やろうと気持ちを切り替えました。

『孤独のグルメ』で日本語を習得!?

──2017年に日本デビュー。2018~2020年には『NHKハングル講座』にレギュラー出演されました。日本語もとても流暢でいらっしゃいますね。

本格的に勉強し始めたのは40歳近くになってからです。日本で本格デビューする前から年1回ペースでコンサートを開催していたんですが、当時はまったく日本語が喋れませんでした。逆にファンの皆さんが韓国語を覚えて、僕よりきれいなハングルで手紙をくださるので、ずっと申し訳なさを感じていたんです。だけど韓国に帰れば、また仕事に忙殺されてしまう──。それこそきっかけは『NHKハングル講座』でしたね。番組で「僕も頑張りますので、みなさん頑張りましょう」と宣言してしまったものだから、引っ込みがつかなくなりまして(笑)。

──日本語能力試験で最上級も合格されたとか。どのように勉強されたんですか?

ありとあらゆる方法ですね。村上春樹さんの小説を読んで書き写したり、綾小路きみまろさんの音源を聴いて文字に起こしたり。日本のドラマも大好きでよく観ましたが、最初の頃は聞き取りに苦労しました。セリフって必ずしも正しい日本語だけじゃないですから。大好きなドラマの一つが『孤独のグルメ』なんですが、「俺の腹は、いま何腹なんだ?」というセリフに「何腹ってどういう意味なのだろう……?」とか(笑)。

──そうまでして日本語の習得に努力されたのはなぜなのでしょうか。

やっぱり歌手として日本でもっと活躍したい。日本のファンの皆さんと自分の言葉でコミュニケーションしたい。その一心からでしたね。韓国では一定のポジションを得ることができましたし、変な話、韓国だけでやっていれば安泰ではあるんです。それこそ後輩アーティストたちも「先輩、先輩」と持ち上げてくれますし(笑)。

日本のミュージックシーンに感じる多様性

──最近ではBTSのジョングクがソンさんの楽曲をカバーして話題になりましたね。

ひとたび韓国を出れば、僕なんかより彼らのほうが断然スターなのは間違いないんですけどね。ただ韓国の音楽シーンは今多様性を失いつつあって、アイドルやダンスミュージック一辺倒になっています。もちろんそうした楽曲も素晴らしいけど、僕が一生をかけて追い求めたいのは「いい歌詞、いいメロディ」なんです。日本の音楽チャートは、韓国よりもずっと多様ですし、日本のリスナーにはそうした楽曲を鑑賞する感性が、今の韓国よりもあるんじゃないかと感じるところがあります。

──最近は韓国の若い世代でもトロットがブームになるなど、「いい歌詞、いいメロディ」への揺り戻しがあるようにも思いますが、いかがですか?

ただ韓国の音楽シーンは流行り廃りがあまりにも早いんです。僕の後輩にも「いい歌詞、いいメロディ」を追求する歌手は大勢いるんですが、なかなか結果が出せなくてもがいている。多分日本だったらもっと彼らも注目してもらえると思うのですが、K-POPアイドル以外の歌手の日本での成功例ってなかなかないですよね。だから僕がその前例になれないだろうかという気持ちもあるんです。まだまだ余力のあるうちに。

──後輩たちに道を切り開くのも、トップスターとしての役割ということでしょうか。

いや、僕だって日本ではまだ何者でもないですから。新しいことをやるのは怖いし、エネルギーもいるし、戸惑うこともいっぱいあります。だけど楽しいんですよ。新人の頃に戻ったみたいで、こんなに必死になるのっていつぶりだろう?みたいな感覚です。ニューアルバムの宣伝も韓国だったら「よかったら聴いてくださいね」と、ちょっとカッコつけた感じで言うんですが(笑)、日本では僕は新人みたいなものですから、もっとガツガツと『ぜひともお聴きください。お願いします!』です。

──最後に日本のファンのみなさんにメッセージをいただけますか?

日本のファンのみなさんは、僕にとってプレゼントのようなものなんです。日本デビューする前からコンサートに足を運んでくださるなど、感謝の気持ちでいっぱいです。最後に日本でコンサートをやったのは2019年ですが、呼んでいただけたら日本全国どこへでも行きたいですね。『こんなに君を』も松井さんのお力で素晴らしい作品であることは保証済みですから、1人でも多くの方の前で歌いたいと思っています。

ソン・シギョン『こんなに君を』ハイライトメドレー

ソン・シギョン『こんなに君を』

発売中

【初回限定盤】
品番:KICS-94130
価格:¥8,800 (税抜価格 ¥8,000)

【CD収録内容】
1. こんなに君を (作詩:松井五郎/作曲:PSY, Yoo Gun Hyung/編曲:Yoo Gun Hyung, Go Tae Young)
2. 沈黙の音色 (作詩:Soflan Daichi/作曲・編曲:Ziyoon)
3. ふれる (作詩:Soflan Daichi/作曲・編曲:Jo Dongik)
4. Kaleidoscope (作詩:Soflan Daichi/作曲・編曲:松尾昌樹)
5. ただ. . . (作詩:松井五郎/作曲:Sung Si Kyung/編曲:Kang Hwa Seong)
6. 束の間でも僕たち Feat. Naul <잠시라도 우리> (作詩:Park Joo Yeon/作曲:Naul/編曲:Kang Hwa Seong)
【Blu-ray収録内容】
撮りおろしスペシャルライヴ&トーク映像収録
①君は僕の春[너는 나의 봄이다](ノヌン ナエ ボミダ) 韓国ドラマ『シークレット・ガーデン』OSTより
②オリジナルメドレー
③こんなに君を
■特別仕様:スリーブつきトールケース入り ポストカードセット(5枚)を封入

【通常盤】
品番:KICS-4130
価格:¥3,080 (税抜価格 ¥2,800)

【CD収録曲】1. こんなに君を (作詩:松井五郎/作曲:PSY, Yoo Gun Hyung/編曲:Yoo Gun Hyung, Go Tae Young)
2. 沈黙の音色 (作詩:Soflan Daichi/作曲・編曲:Ziyoon)
3. ふれる (作詩:Soflan Daichi/作曲・編曲:Jo Dongik)
4. Kaleidoscope (作詩:Soflan Daichi/作曲・編曲:松尾昌樹)
5. ただ. . . (作詩:松井五郎/作曲:Sung Si Kyung/編曲:Kang Hwa Seong)
6. 束の間でも僕たち Feat. Naul <잠시라도 우리> (作詩:Park Joo Yeon/作曲:Naul/編曲:Kang Hwa Seong)

2023年12月20日発売

【完全限定生産盤】
品番:KIJS-90040
価格:¥4,400 (税抜価格 ¥4,000)

【LP収録内容】
1. こんなに君を (作詩:松井五郎/作曲:PSY, Yoo Gun Hyung/編曲:Yoo Gun Hyung, Go Tae Young)
2. 沈黙の音色 (作詩:Soflan Daichi/作曲・編曲:Ziyoon)
3. ふれる (作詩:Soflan Daichi/作曲・編曲:Jo Dongik)
4. Kaleidoscope (作詩:Soflan Daichi/作曲・編曲:松尾昌樹)
5. ただ. . . (作詩:松井五郎/作曲:Sung Si Kyung/編曲:Kang Hwa Seong)
6. 束の間でも僕たち Feat. Naul <잠시라도 우리> (作詩:Park Joo Yeon/作曲:Naul/編曲:Kang Hwa Seong)

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